*白く甘い日*


 もうすぐホワイトデーだ。

 ゆきも、ご多分に漏れずに、そわそわする。

 大好きなひとにチョコレートを渡したのだから、当然だ。

 日本独特のこの行事を、ゆきはとても楽しみにしている。

 プレゼントを楽しみというよりは、小松からの愛のこもった言葉が楽しみなのだ。

 やはり恋するひとからの、愛の言葉は格別だからだ。

 小松と甘い瞬間を過ごしたい。

 また、ドキドキもする。

 ときめきもする。

 ホワイトデーも、また平日。

 しかも決算時期。

 小松の忙しさは相当ハードだ。

 それでも、八葉と薩摩藩家老をしている時よりは、まだましだと言っているのが凄い。

 あの頃は、世界と国の命運を賭けていたのだから、それと比べればと思うのだろう。

 ゆきは普通の女の子に戻り、恋と勉強に頑張ればよい立場になった。

 だからこそ、ゆきは、小松をサポートしたいと思っている。

 ホワイトデーは特別なデートなんていらない。ただ、あいたい。それだけだ。

 話すことが出来たらそれで良いと、ゆきは思う。

 それに、逆チョコレートも頂いたので、それに対してのささやかなお返しもしたいと思っている。

 お返しには、手作りのお菓子をと思った。小松は余り甘いものが好きではないので、抹茶を使ったほろ苦クッキーと、ジンジャークッキーを作ることにした。

 大人のビターテイストのクッキーだ。

 ゆきは、心を込めてクッキーの材料を準備する。

 小松が喜んでくれる顔を想像するだけで、とても幸せな気持ちになった。

 クッキーを入れる為の箱は、和紙で出来た和風テイストの者を準備する。

 ホワイトデーだから、せめて一目で良いから小松に会いたい。

 陣中見舞いで構わないから。

 こうして、社会人でしかもかなり忙しい小松と付き合うことは、かなり大変ではあるし、同世代の恋人のようにしょっちゅう逢えるわけではないが、それでもゆきは幸せだ。

 小松と平和な世界で愛し合える。

 これ以上のことはないと思った。

 

 ホワイトデーの一週間前、ゆきは、小松に、陣中見舞いに向かうと、メールを送った。

 こうしておけば、小松もゆきが来ることを想定しておいてくれるから。

 今や、急成長で素晴らしい成果を上げている会社のCEOである小松に面会するには、かなり骨が折れると聞く。

 ほんの数分の時間を取って貰うことも大変だと、ゆきは聞いている。

 だからこそ、こうして隙間時間に逢って貰えるのは、かなり貴重であることを知っている。

 メールを送ってから、暫くして、返事が送られてきた。

 

 夕方においで。

 少しだけ時間をあけておくよ。

 小松

 

 小松からの返事に、ゆきは益々ホワイトデーへとテンションを上げたのは、言うまでもなかった。

 

 ほんの少しだけでも、小松に逢うことが出来る。

 しかもホワイトデーにだ。

 ゆきは気持ちがほんわかと温まるの感じながら、小松に贈るクッキー作りに精を出す。

 こうしているだけで、本当に幸せだ。

 これ以上ないぐらいに。

 ゆきはほわほわとした幸せを感じながら、クッキーを作る。

 ホワイトデー。

 今までは全く意識をしてはいなかった。

 ただ、手作りチョコレートのお返しを家族からの貰える日という認識しか、ゆきにはなかった。

 だが、今回は違うのだ。

 小松と愛を確かめる日。

 そう思うと、顔から火が出そうになるが、それでも、言葉で愛を伝えあう日には間違いないとゆきは思った。

 クッキーを心を込めて作る。

 ジンジャーと抹茶のクッキー。

 それと、小松が好きな薩摩焼酎の小瓶をつける。

 お酒とクッキーはミスマッチかもしれないが、小松がより喜んでくれるプレゼントを渡したかった。

 クッキーを焼き終えて、味見をすると、ほろにがテイストが美味しい。

 我ながら絶賛した後、ゆきは、クッキーを綺麗にラッピングをした。

 後は、明日のワンピースを決めるだけ。

 なんて幸せなのだろうかと思う。

 ホワイトデーだから、その名前の通りに白いワンピースにした。

 明日が楽しみでしょうがない。

 ゆきは、ベッドの上で暴れたい衝動を何とか抑えて、明日に備えた。

 

 ホワイトデーに何をすれば良いかは、解っている。

 いつも通りにしておけば、良いのだ。

 いつも通り。

 それは、ゆきを幸せに、楽しい気分にさせるということ。

 ゆきが喜んでくれることが、小松にとっては何よりも嬉しいことだからだ。

 決算時期で、忙しさは酷いというレベルかもしれない。

 だが、それも小松にとっては楽しいことに過ぎない。

 それに、ゆきがいれば、どのようなことも乗り越えてゆける自負もある。

 ホワイトデーデートの時間を工面するのは難しかったが、楽しさのことを考えると、確保することが出来た。

 ホワイトデーのデートプランも、ゆきを喜ばせる為に、色々と練り上げた。

 どのようなことも喜んでくれるだろうが、小松は、ゆきが想像出来ないぐらいのサプライズを用意したかった。

 ゆきの心に残る思い出を小松は自分の手で作りたかった。

 ゆきのためならば、どのような手間も惜しまない。

 小松にとって、ここまで愛した花は、なかった。

 明日は、いよいよホワイトデー。

 ゆきは陣中見舞いの目的でやってくる。表向きは。

 恐らくそれは、小松に気遣ってのことだろう。

 そのような優しい部分も、小松には愛しくてしょうがなかった。

 明日は久々に逢える。

 ゆきを思いきり抱き締めたいと、小松は思う。

 今までの分を含めて、小松はゆきを抱き締めたかった。

 

 いよいよホワイトデー。

 ゆきは小松の会社へと、緊張しながら向かった。

 ただ逢ってクッキーを渡すだけなのに、甘い緊張が絶え間無く襲う。

 緊張してしまうぐらいに好きなのだ。

 ゆきは鼓動を早めながら、受付へと向かう。

「蓮水ゆきと申します。小松さんと約束しています」

「はい、承っております。こちらでセキュリティを解除して下さい」

 受付で、カードを渡されて、ゆきは礼を言った後に、受付を後にした。

 小松のいるCEO室には、かなりのセキュリティを解除しなければならない。

 ゆきは慎重にセキュリティを解除をした後、小松の部屋に向かった。

 ノックする手が緊張する。

 甘い緊張に押し潰されてしまいそうだ。

「帯刀さん、ゆきです」

「入って」

 小松の声に緊張しながら部屋の中に入る。

 こんなに緊張するのは、初めてかもしれない。

 すると部屋の中には、見知らぬ女性と小松がいた。




モクジ ツギ