*白く甘い日*


 小松の横にいる大人の女性は誰だろうか。

 綺麗で洗練されていて、ゆきは胸が切なく痛む

 本当に綺麗だ。

 ホワイトデーを過ごす本命だったらどうしようか。

 短い間に、ゆきは次々と色々なことを考えてしまった。

「蓮水ゆきさんですね。お写真で拝見した通りに、とても凛として清楚で柔らかな雰囲気の方ですね」

 女性は一歩前に進み出ると、にっこりと微笑んでくれた。

 とても洗練されていてエレガントで、綺麗だ。

 ゆきもついうっとりと見つめてしまう。

「こ、こんばんは」

「今のワンピース、とてもお似合いですが、更にあなたの美しさが出るように、お手伝いをさせて頂きますね」

 女性の言葉にゆきは驚いて小松を見上げた。

「私からのホワイトデーのお返しだよ。隣の部屋に行っておいで」

 小松は何処か優しい雰囲気を滲ませながら、ゆきに語りかけてくれる。

 ほんの一瞬でも、不安になった自分が恥ずかしくてしょうがなかった。

「準備が出来ていますよ、ゆきさん」

「はい、有り難うございます」

 ゆきは笑顔を女性に向けた後、小松を見つめる。

 ロマンティック過ぎるサプライズに、ゆきは泣きそうになる。

 嬉しさと感動が押し寄せてきて、瞳が潤んだ。

「有り難うございます、帯刀さん」

「しっかりと綺麗にしてもらっておいで」

「はい」

 小松に綺麗だと言って貰えるように、ゆきは精一杯綺麗にして貰おうと思った。

「さあ、蓮水さん、少しメイクで大人っぽくして、ヘアアレンジをしましょうか」

「有り難うございます」

「それと、偶然ですが、小松さんがあなたに用意をしたお洋服ですけれど、同じ白なんですよ。あなたのイメージですね」

「有り難うございます」

 ゆきは先ず、薄くしていたメイクを修正される。

 ゆきはまだまだメイクをすることには慣れてはいないから、薄く塗る程度しか出来ない。

 だが、女性は流石にプロで、素早く透明感のある大人の女性のメイクをしてゆく。

 ヘアスタイルも、いつものサイドアップではなく、アップスタイルのアレンジをしてくれる。

 自分では絶対に出来ないメイクとヘアアレンジだと思った。

 鏡の中で、自分自身がどんどん違うひとに変わってゆく。

 まるで魔法にかかったような、そんな気分になった。

「後は、お洋服に着替えて頂きましょうか。白をベースにしたワンピースと、ベージュのハイヒールですよ。あなたの美しさを引き立てます」

 ワンピースはシンプルなデザインなのに、とても高貴で美しい。

 ハイヒールは、ゆきが今まで履いたことがない高さの、ピンヒールだった。

「これぐらいのハイヒールは、履きこなせるようになって下さいね。あなたなら、きっと履きこなせますよ。このデザインで、この高さが、女性を最も美しく見せてくれるのですよ」

 女性はにっこりと微笑み、ゆきに着替えを促した。

 先ず、ワンピースに着替えて、ゆきはヒールを履く。

 ドキドキしてしまう。

 ゆきにとっては、未知の領域だったからだ。

「小松様とお似合いでいらっしゃいますよ」

 綺麗に微笑まれて、ゆきはドキリとする。

 本当にそうなれたら嬉しいのに。

 小松に似合う女性になりたい。

 子供っぽくて、小松と一緒にいても、いつも妹のようにしか、誰にも見て貰えないのが、ゆきとしては辛かった。

 辛いと言うよりは、切ないのかもしれない。

 ひとりの女性として、対等でいたかった。

 ハイヒールを履くと、気持ちがシャッキリとするのを感じる。

 ゆきは、女性に頼るように不安げな眼差しを向けた。

「……似合っていますでしょうか?」

「お似合いでいらっしゃいますよ。大人の女です。どこから見ても」

 子供っぽいと思っていたことを見透かされていたのだろう。

 女性は落ち着いた安心感のある笑みをくれ、頷いてくれた。

 大人の女性に言われると、安堵する。

「いつも子供っぽいですから、不安でした」

 ゆきが本音を呟くと、女性は頭を横に振った。

「あなたは少しも子供っぽくはないですよ。そう思っているのはあなただけですし、あなたをそのように思っている方は、節穴の持ち主ですよ。これは自信を持って言えますよ」

 女性は、心配などしなくても良いのだと、そう教えてくれている。

 ゆきは嬉しくて、笑顔になる。

 これ程までに魅力的な女性に言われると、自信にもなる。

 ゆきは、小松と今夜は、対等にいられるような気がした。

「では、小松さんのところに行きましょうか。あなたがとても綺麗で洗練された姿を見せましょう。驚かせないとね」

「はい、有り難うございます」

 女性と一緒に、小松の部屋に踏み入れる。

 緊張し過ぎて、どうしょうもない。

 ドキドキし過ぎて、喉がカラカラになってしまうぐらいだ。

 ゆきが部屋に入ると、小松がゆっくりと振り返った。

 ゆきを見つめるなり、一瞬、息を呑むのが解った。

「帯刀さん、お待たせ致しました」

 ゆきが甘い緊張に顔を真っ赤にさせながら、真っ直ぐ小松を見る。

 すると、小松は、いつも以上に厳しい表情をした。

「有り難うございました」

「こちらこそ、有り難うございました」

 女性は頭を深々と下げると、にっこりと微笑んだ。

「では、ゆきさん、頑張ってね。失礼致します」

 ゆきに笑顔を向けると、女性は静かに帰っていった。

「さて、行こうか」

「はい」

 小松は全く褒めてくれない。褒められることなんて、期待はしてはいないけれど、だが、綺麗にしてもらったから、ついがっかりするのだ。

 小松は素早くゆきの手を取ると、ギュッと握り締める。

 まるで離さないとばかりに強く。

 よく手を繋いでくれるようになったが、それでもこんなにも強く手を握り締めてくれたことはなかった。

 だから、ときめきも感じる。

 ゆきが小松を見上げると、溜め息を吐いた。

「私から離れないようにね。今夜は」

「どうしてですか?」

「自分で考えなさい」

 小松は突き放したように言うが、何処か優しい。

「分からないので聞いています」

「最後まで分からなかったら教えてあげるよ。だから考えなさい。思考を惜しむと馬鹿になるよ」

 小松はしらっと言うと、駐車場へと向かう。

 ゆきは、必死になって考えるが、迷子になるぐらいしか、考え付かない。

「迷子になるからですか?」

「君、子供じゃないでしょ?」

 小松は呆れるように言うが、何処か楽しんでいるようにも見える。

 ゆきは、車に乗り込んでも、まだ分からなかった。




マエ モクジ ツギ