*白く甘い日*


 車に乗って、目的地へと向かう。

 綺麗に飾り立てて貰ったので、ドキドキしながら、小松を見つめる。

 夢見ていたロマンティックなデート。

 ゆきは、憧れのシチュエーションにときめかずにはいられなかった。

「帯刀さん、何処に行くんですか?」

「秘密。先程から、質問ばかりだよね、君は。考えなさい」

「なかなか、上手く考えられないです。ドキドキしていて、頭がよく回らないというか……」

「まあ、君らしいけれどね」

 小松は僅に微笑むと、車を高速に乗せる。

 高速に乗ると、夜景が見事で、ゆきは思わず夢中になった。

「帯刀さん、凄いですよ。宝石箱をひっくり返したみたいで」

「私は夜景に負けてしまったということかな?」

 小松は苦笑いをする。

「夜景に恋人を取られるというのは、かなり癪に障るんだけれどね」

 意地悪で艶やかな声で言われてしまうと、ゆきはときめき過ぎて恥ずかしくなり、つい顔を赤らめてしまった。

 その顔をちらりと小松が見つめて微笑む。

 ゆきは更に恥ずかしくて、耳まで真っ赤にさせた。

「君は全くいつまで経っても初々しい反応をするよね」

「帯刀さんの馬鹿……」

「君に馬鹿呼ばわりはされる覚えはないけれど」

 小松のしらっとしたクールな声が、やけに魅力的に感じられた。

 

 車を暫く走らせて、小松は、静かな郊外の街で高速を下りる。

 都心からはそれほど離れてはいないが、とても落ち着いた雰囲気のある町だ。

 小松が車を停めたのは、日本家屋の料理屋だった。

「落ち着いて食事をしようかと思ってね。やはり私は、和風が落ち着くんだよ」

「私も和風は大好きです。落ち着いた雰囲気が良いです」

 ゆきが笑顔で小松を見つめると、手をしっかりと握り締められた。

 小松に手を握られるだけで、蕩けてしまうぐらいに幸せな気持ちになった。

 小松はそのまま手を引いたままで、ゆきを料理店の中に連れていってくれる。

 恥ずかしいが、とても嬉しい。

 恋人として、して欲しいことを小松がしてくれるのが、ゆきには嬉しかった。

 料理店と言っても、高級和風プチホテルの一部だった。

 ゆきたちは座敷に通されて、ゆっくりとくつろぐ。

「まだ、桜には早いですね。だけど、梅には良いタイミングでしたね。今年は、梅の開花が遅かったから、見られるんですね」

「そうだね。私たちは運が良かったね」

 ゆきはにっこりと笑いながら、小松に頷いた。

 食事は、小松が懐石を予約してくれていたので、料理が直ぐに運ばれてきた。

 大好きな和食に、ゆきは夢中になってしまう。

「有り難うございます、帯刀さん。素敵で最高のホワイトデーですよ」

 小松と一緒に過ごせるだけで、ゆきには素敵なホワイトデーになるのに、小松が心を砕いて色々と準備をしてくれたので、更に素晴らしいものになったのだと、感じずにはいられない。

「その洋服は君にプレゼントするよ。ホワイトデーのお返しsだよ」

 小松からの素敵なワンピースのプレゼントに、ゆきは更に笑顔になった。

「帯刀さん、最高のホワイトデーです。小松さんのお蔭です。有り難うございます」

 ゆきは本当に幸せで、小松に感謝をしていた。どうすれば、小松がしてくれたことを、返すことが出来るのだろうかと、考えずにはいられなかった。

「……帯刀さんにどうしたらお返しが出来るんでしょうか……。つい、考えてしまいます……」

「だったら、そろそろ、私に硬い敬語はなしにして貰いたいね。硬い敬語はは禁止だよ。良いね」

 小松はキッパリ言うと、ゆきに艶やかで意地悪な眼差しを向けてくる。

「さあ、硬すぎる敬語を使ったら、お仕置きだからね」

 小松が言うお仕置きを想像するだけで、ゆきは恥ずかしくて逃げ出したくなる。

「お仕置きって……」

「君が真っ赤になって、逃げ回りたくなるような、ね?」

 こんなことを恥ずかしげもなく意地悪に言えるなんて、やはり小松は策士だ。

 ゆきは、具体的には何かが分からなかったが、ジタバタと暴れたくなるようなことであることは、確かだった。

「本当に隔離するようなところで、食事をして正解だったかもしれないね」

「帯刀さんがお悪いです」

「また敬語。お仕置き決定だよ」

 小松は素早くゆきに腕を伸ばすと、強く抱き締めてきた。

 力強く抱き締められると、総ての思考が停止してしまう。

 小松はゆきに顔を近づけてくる。

「お仕置きだよ」

 小松はゆきの唇に、自身の唇に近づけてくる。

 深い角度でキスされてしまい、ゆきはここが、どこであるかを、忘れてしまいそうになるぐらいに、夢中にさせられる。

 小松のキス以外は、何も考えられなくなる。

 無意識に小松をしっかりと抱き締めてしまう。

 強く抱き締めて、お互いの恋の熱を交換した。

 ホワイトデーの恋人たちには、ぴったりの行為なのかもしれない。

 息が限界になるまで、集中してキスをした。

 唇を離された時には、ゆきは酸欠になりそうだった。

「お仕置き終わり。ぼんやりしているけれど、もっとお仕置きが欲しかったかな?」

「……いらないです」

 ゆきは、意地悪に笑う小松を尻目に、照れ臭くて俯く。

 本当はもう少しだけ甘いキスが欲しいだなんて、言えるはずがない。

「ゆき、さっきの理由、どうしてか、解った?」

「いえ、分からないです」

「そう……。分からなければ、分からないで構わないけれど、そのかわり、私からは離れないようにね」

「はい」

 小松と一緒ならば、離れたくない。だから、離れる気など毛頭ないというのに。

 ゆきが恥ずかし過ぎて潤ませた瞳で小松を見つめると、一瞬、神経質そうに目を細めてきた。

「ゆき、そんな瞳で私以外の男を見てはいけない。絶対に駄目」

「え?」

「理由は、君が分からないことと同じ。解った?」

「よく、分からないですけれど……」

 ゆきは分からな過ぎて、つい小首をかしげた。

「君は本当に色恋には鈍感だね……」

 小松は呆れ果てるように溜め息を吐いた。

「え?」

「まあ、良いよ。デザート出てきたよ」

「はい!」

 甘いデザートは大好きだから、ゆきはつい笑顔になる。

「私はデザートにも負けたのかな」

「え?」

「何でもないよ。ほら、食べなさい」

 小松は自分の分まで、デザートをゆきに差し出してくれる。

 ゆきは嬉しくて更ににんまりと笑った。

 デザートを見て、ふと思う。

 これでデートは終わりなのだ。

 ゆきは急に寂しくなった。

「どうしたの?」

「もうすぐ終わりだと思ったんですよ。寂しいなって……」

「だったら、もう少し一緒にいるよ。私も君に話があるからね」

 小松は官能的な声で言うと、ゆきの手を握り締めた。




マエ モクジ ツギ