*白く甘い日*


 もう少しだけ一緒にいたい。

 恋い焦がれ、深く愛する相手ならば、それは当然のことなのだ。

 小松も同じ気持ちでいてくれたことが、ゆきは何よりも嬉しかった。

「ゆっくりと話したいから、うちに来ない?」

 小松はあくまでさらりと呟くと、ゆきの手を取って立ち上がった。

 小松の家に行く。

 ドキドキし過ぎて、ゆきは真っ赤になりながら、俯くことしか出来ない。

「ゆき、うちで良い?」

「……はい」

 ゆきは恥ずかしさが頂点に達するのを感じながら、何とか返事をした。

「君は、こういう時には、きちんと返事が出来ないよね」

「は、恥ずかしくて」

 ゆきがしどろもどろに返事をすると、小松はあくまでしょうがないとばかりに溜め息を吐いた。

「本当に君は、どうしようもないね。全く……。まあ、馴れてしまた君は、全く君らしくないのだけれどね」

 小松はフッと官能的で意地悪な笑みを滲ませると、ゆきの手を引いて、個室を出た。

 

 静かに小松の家に向かう。

 ロマンティックなホワイトデー。

 その締め括りは、とっておきの甘いドキドキが待っている。

 妙に落ち着かなくて、ゆきはそわそわとしてしまっていた。

「ゆき、力を抜いて。もう少しだけ一緒にいたいと、君も望んでいることでしょ?だったら、力を抜きなさい」

「はい」

 力を抜けと言われても、ゆきはカチカチになってしまい、どうして良いのかが分からない。

「ゆき、どうしたの? 緊張し過ぎだよ」

「は、はあ」

 どうしても緊張はなかなか抜けなかった。

 車は駐車場に入る。

 停まった瞬間、ゆきは更に身体を硬くしてしまった。

 ゆきは、深呼吸をしながら、車から降りる。

 すると、落ち着かせるようにと、小松がしっかりと手を握り締めてくれた。

「さあ、行こうか」

「はい」

 小松にまるで子供のように手を引かれて、家へと向かう。

 もっともっと一緒にいたいから。

 ゆきはその想いだけを胸に、小松に着いていった。

「さ、どうぞ。うちは何もないから、しんぷるだよ」

「有り難うございます」

 ゆきは部屋に部屋に通されて、奥の和室に連れていかれる。

 小松が一番大切にしている部屋だ。

「どうぞ、座って」

「有り難うございます」

 ゆきは座蒲団の上に座りながら、妙に緊張してしまう。

「ホワイトデー、なる、行事にはきちんと相手に答えなければならないらしいからね、私からのお返し」

「お返しはこの服では?」

「それもプレゼントするけれど、それとは別。服は戯れ、こちらが本物のプレゼント」

 小松はスッと然り気無く、小さなジュエリーケースを差し出す。

「私は君を捕まえて離さないから、そのつもりでいて」 

 小松はケースの蓋を素早く開けた。

「私の妻になりなさい、ゆき。誰よりも幸せにしてあげるよ、ゆき」

 まさか。

 いきなりプロポーズされるとは、思わなかった。

 しかも、定番のお伺いを立てるのではなく、完全に命令口調だった。

 ゆきはびっくりして目を見開く。

 小松らしいプロポーズではあるけれども、唐突でビックリしてしまった。

「……なるべく早く、出来る限りに早くに、君を妻にするよ」

 ここまでキッパリと宣言されると、ゆきはもう逃げることは出来ないと思う。

 元々、逃げることなど考えてはいないのだが。

「返事は、ゆきくん」

「は、はい、よろしくお願いします」

 ゆきは心臓が口から飛び出してしまうのではないかと思うぐらいにドキドキしながら、返事をした。

 すると、小松は優しく甘く微笑むと、ゆきの左手を取った。

「離さないからね、ずっと」

「はい」

 ゆきは胸が高まり、嬉しさで瞳に涙がたっぷりと滲んでくるのを感じた。

 喜びに心が震えてしまう。

 愛するひとに望まれる。

 こんなにも嬉しいことはない。

 ゆき自身が、小松を深く望んでいるのだから。

「有り難うございます。私は小松さんの妻になります。だから、小松さん、私の旦那様になって下さい」

 ゆきは泣き笑いの表情を小松に真っ直ぐ向けながら、キッパリと凛と宣言をする。

 すると小松もフッと官能的で甘い堂々とした笑みを浮かべてきた。

「望むところだよ、ゆき」

 小松は、ゆきのほっそりとした左手薬指に指環を嵌める。

「ね、ゆき、知っていた? この指環は、君を縛りつける枷以外の何物にもならないということを」

「……あ……。だけどそれでも良いです。同時に、帯刀さんも私に縛りつけられているんですから」

 お互い様だ。

 愛し合っている者同士ならば。ゆきは強く思う。

「そうだね。私も君にしっかりと縛りつけられているよ」

 小松は甘く囁くと、ゆきを抱き寄せてくる。

「幸せにするよ」

 小松はゆきにゆっくりと顔を近付けてくると、そのまま唇を重ねてくる。

 体温よりもほんのりとひんやりする唇は、とても情熱的で、ゆきの心をかき乱してゆく。

 小松のシャープな身体を抱き締めて支えていないといられないぐらいだった。

 何度もキスをしても足りない。

 それぐらいに小松を愛し、嬉しく思っていた。

 唇が離されても、小松はしっかりと抱き締めてくれる。

「君は私だけのものだよ。同時に、私も君だけのものだ」

「はい」

 小松はゆきの唇に、もう一度触れるだけのキスをする。

「……君に触れたい。君の一番情熱的な部分に……」

 小松が、ゆきの華奢なのに柔らかな身体をなぞってくる。意味ありげに撫でられて、ゆきは身体を震わせた。

「……帯刀さんっ」

 ゆきが甘く肌を震わせるのを楽しむかのように、小松は更に丁寧に身体を撫でてきた。

 肌が粟立って、呼吸が早くなる。

「ゆき、もっと熱くなって、もっと震えて」

 小松の低い艶のある声に、ゆきはさらに心を震わせる。

「……ね、ゆき、男が愛しい女性に衣類をプレゼントする意味は何か、知っている?」

 意味なんて今まで考えたことがなくて、ゆきは首を横に振った。

「……考えたことない、です……」

「色々と考えるくせをつけないとね、君は……」

「はい……」

 ゆきはぼんやりしながら返事をした。

「教えてあげようか?それは、その服を脱がせたいということだよ」

 小松が艶やかな声で囁く。

 その理由に、ゆきは耳たぶまで真っ赤にする。

 ドキドキし過ぎて、つい狼狽えてしまう。

「だから、私も実行させて貰うよ」

「きゃっ!」

 小松はいきなりゆきを抱き上げると、寝室へと向かう。

「た、帯刀さんっ!」

「契りを交わすのには良い日よりでしょ」

 小松は抗議など受け付けないとばかりに言うと、ゆきを情熱的に愛しにいった。




マエ モクジ