*ホワイトディの魔法*


 ヴァレンタインデイが、女性から男性に愛を告白をする日というのなら、ホワイトデイが、その想いを男性が受け止めて、お礼と気持ちを返す日なのだという。

 小松がホワイトデイの存在を知ったのは、つい最近のことなのだ。

 ヴァレンタインデイは、素晴らしい時間をゆきと共に過ごすことが出来た。

 それに応えて、ゆきへの愛を示すために、ホワイトデイは、是非とも、一緒に過ごしたいと思っている。

 だが、そこには、大きな壁が立ちはだかっている。

 時期は年度末。平田殿に手伝って欲しいと思うぐらいに、忙しい時期なのだ。

 どうしてこのような時期に、恋人たはちにとって重要な日があるのだろうかと思う。

 小松にとっては、決算次期で、CEOとしては最も忙しい時期なのだ。

 一日、いや、半日で良いから、ゆきとの濃密な時間を過ごしたい。

 小松は時間を作るために、様々なやりくりをすると決めた。

 ゆきは、恋人たちが過ごす甘い行事が大好きなのだ。せめて、幸せに過ごせるようにと、小松は考えずにはいられなかった。

 

 三月に入ると気になる行事がある。

 雛祭りもあるが、やはりホワイトデイが気になって、気になって、しょうがない。

 先月のヴァレンタインデイは、うっとりする程に素敵な時間を過ごすことが出来た。だからこそ、今度は更にロマンティックな時間を過ごしたいというのは、ワガママなのだろうか。

 ゆきは、とびきりの甘くて幸せな時間を小松と過ごしたい。

 ただ、ホワイトデイに逢えるというだけで、幸せな気持ちや、テンションは上がってくる。

 だから、とにかく一緒に過ごせたらそれで良かった。

 レストランや高級ホテルで過ごすデートなんて必要ない。

 ただ、小松と一緒にいる。それだけが、ゆきには必要で、とっておきの時間なのだ。

 だから、ホワイトデイの夜に、ほんの僅かな時間で良いから、小松と一緒に過ごしたい。

 少しで良い。

 ワガママは言わない。

 小松が、先月以上に忙しいのは知っている。

 そして、そんな中で、ゆきのために時間を作ろうとしてくれていることも。

 それ故に、ゆきは小松に遠慮をしてしまう。

 ホワイトデイを一緒に過ごしたいと、こちらから言うのを憚ってしまう。

 それだけ小松が、ゆきを思って、心を砕いていることを、知っているからだ。

 ゆきは、切ない気分に浸りながら、一言が言えなかった。

  

 出先の帰り、デパートに寄ると、ホワイトデイのお返しが沢山並んでいた。

 ゆきが好きそうな、可愛いパッケージのお菓子や、アクセサリー、化粧品まで。

 本当にどれをプレゼントして良いのか、頭を悩ませる。

 甘いものは好きではないから精通してはいないし、化粧品なんて使わない。

 しいて言えば、アクセサリーが少し分かるぐらいだ。

 小松は、ホワイトデイ用のプレゼントカタログを貰い、デパートを出た。

 じっくりと選ぶ時間もない以上、カタログなどをみて決めるしかないと思った。

 本当に女性へのプレゼントは困る。

 あちらにいる時は、手鏡やかんざし、着物など、女性の贈り物は大体把握していた。

 だが、こちらに来ると、女性への贈り物は多種多様で、なかなか良いものを選ぶことが、難しかった。

 ゆきは、ワガママや贅沢を言わないタイプだし、そもそも、きらびやかなものに対しての執着心が皆無だ。

 その為、プレゼントを贈る時にいつも困ってしまうのだ。

「折角の贈り物だから、出来たら、嬉しい驚きをあげたいのだけれどね……」

 小松の思惑を秘めながら、どのような贈り物が良いのか、思案していた。

 

 逆チョコレートを貰ったから、小松にも何かプレゼントをしたい。

 ホワイトデイにも、ゆきは、小松に、“大好き”を伝えたかった。

 いざデパートに行ったものの、小松へのお礼がなかなか思い付かない。

 小松の財力ならば、欲しいものなんて、なんでも手に入るだろうし、ゆきがプレゼント出来るものも、それほど豪華なものを贈ってはあげられない。

 それを考えると、ゆきはなかなか難しいと思った。

 小松は甘いものを好んでも食べない。

 漬け物なら好きなのは知っているが。

 ゆきは、手作り漬け物キットを売っている店へと向かった。

 ホワイトデイ目指してぬか漬けを漬ける。これが一番のプレゼントではないかと思う。

 思い付くと、やはり俄然、やる気が出てきた。

 ぬか漬けならば、小松も喜んでくれるに間違いないと、ゆきは思った。

 これ以上のことはないだろう。

 いそいそとぬか漬けキットを買うと、ゆきはスキップでもする気分で、家に帰った。

 野菜は厳然無農薬のものを買い、何だかうきうきする。

 茄子、人参、きゅうり、白菜、うり、のぬか漬けを作ることにする。

 あまり作りすぎると、ひとり暮らしの小松には、多すぎるかもしれない。

 ゆきはそんなことを思いながらも、嬉々として漬け物をつけた。

 

 ゆきへの贈り物。

 何が一番喜ぶかと言われたら、きっと一緒に過ごす時間だと言うだろう。

 それぐらいに、ゆきは、小松と過ごす時間の大切さ、貴重さを考えてくれている。

 忙し過ぎるのは、本当に申し訳ないと思っている。

 出逢った頃は、目的と目指すものが一致していたが、今はそうではない。

 お互いに、支えあってはいるが、動くフィールドが変わってしまっている。

 それもいずれは重なると、信じているが。

 だからこそ、一緒にいられる時間は貴重なのだ。

 一緒にいてゆっくり出来る時間。

 やはり、ホワイトデイの夕方から時間を作るのが、一番のプレゼントになるのだろう。

 決算時期ではあるが、小松はその時間だけは、どうしても取ろうと思っていた。

 まずは食事をする場所から確保することにする。

 流行りの高級レストランも考えたが、それだと落ち着いて食事をすることが出来ない。

 ふたりでゆっくりとしたかった。

 そのあとも落ち着いて過ごせるように、様々な手配をする。

 後は時間をやりくりするしかない。

 時間は作るものだから、小松はなんとかしようと思った。

 そして、肝心のプレゼントは何をしようか。

 小松は、ふと、カタログを見て、最適なものを見つける。

 そこには、ゆきに相応しいアクセサリーが載っている。

 それを見ながら、小松はホワイトデイは必ず喜んで貰えると、確信していた。

 ホワイトデイが、俄然、楽しみになる。

 ゆきが楽しんでくれる。

 それが小松にとっては、何よりも嬉しく、幸せなことだった。




 マエ ツギ