2
|
付き合っているというのに、ゆきに逢うのがままならないなんて、ナンセンス過ぎる。 小松は、なんとか時間を確保するために、懸命に働いていると言っても過言ではなかった。 とにかくゆきと過ごす時間のためならば、多少の無理は出来る。 本当は、毎日でも会いたい。 朝起きたら、夜寝るときに、傍らにいて欲しいと思ってしまう。 ここまでどうしようもないぐらいのゆき中毒になってしまっている。 それぐらいにゆきに依存をしていた。 ホワイトデイは、夕方から翌日の朝まで、ずっと一緒にいたいと思う。 ゆきと一緒にいるだけで、力がみなぎってくるのだから。 小松は、もうゆきをかなりの近くにおかなければ、やっていけないのではないか。 生きられないのではないか。 そんなことすら考える。 離れて暮らしているのは、限界に近づきつつあると自ら感じていた。 時間と仕事をなんとかやりくりすることが出来て、小松は、ようやく、ゆきとホワイトデイを過ごせる時間を確保することが出来た。 小松は、ほっとしながら、ゆきに連絡をすることにした。 ホワイトデイの段取りだけは、既に終わっているから、後は、ゆきと連絡を取るだけなのだ。 小松は、仕事の隙間時間を狙って、携帯電話で連絡をする。 「はい、ゆきです。帯刀さん!」 ゆきはいつも嬉しそうに電話に出てくれる。 小松まで幸せが伝染して、こちらまでもがつい笑顔になる。 「ゆき、ホワイトデイだけどね」 ゆきは、ずっと誘いを待ってくれていたようで、華やいだ雰囲気で息を呑んだのが分かった。 「夕方六時に、うちの会社に来てくれて良いかな?」 「はい!」 ゆきは、待ちに待っていたとばかりに、声を更に弾ませた。 声を聞いているだけで、小松は楽しくなる。こちらまでが、笑ってしまうほどに、ゆきの声は明るかった。 「では、待っているよ」 「はい」 「ホワイトデイまでは、少し忙しくなってしまうから、私が音信不通でも、気にしないで」 「はい。わかりました」 会えない、連絡する余裕がないと伝えると、ゆきはほんのりと残念そうな声を発した。 残念なのはこちらも同様なのだ。 「帯刀さん、時間を作ってくださって、有り難うございます」 ゆきは、小松がかなり苦心をして、時間を捻出したことに気づいているからか、本当に申し訳なさそうな声をする。 ホワイトデイの素晴らしい時間のための我慢を、ちゃんと受け入れてくれるのが、有り難い。 「では、当日に」 「はい!有り難うございます」 ゆきの明るい声を聞きながら、小松は幸せな気分に浸りながら、電話を切った。 切った後も、小松は携帯電話をついじっと見つめずにはいられない。 こうして見つめているだけで、幸せが込み上げてくる。 ゆきと電話で話したあとは、不思議と幸せな気持ちになり、すべてにおいてのやる気がみなぎって来る。 小松の時空にはなかった携帯電話。 愛する者がいると、なんて有り難いものなのだろうかと、思わずにはいられなくなる。 まるで、すぐ近くにゆきがいて、話してくれるような気持ちになる。 だが、同時に、傍らにいないことを、想い知らされるものでもある。 愛する者の温もりが、全く感じられないのだから、当然ではあるのだが。 だからこそ、余計に、ゆきに会いたい。そばにいたいと。想いが募ってしまうのだろうと、小松は思った。 こうして、恋人たちが楽しむ季節の行事が来るたびに、小松は、ゆきをずっと傍らに置いておけば、幸せであるのにと感じてしまう。 恋人行事を重ねるたびに、ゆきがつねにそばにいて欲しいという想いが、かなり強くなっていった。 出来ることならばなるべく早くに、ゆきをそばに置きたい。 小松は強くそう感じるようになっていた。 小松からのホワイトデイのお誘い電話を切った後、ゆきは飛び上がって喜んだ。 ホワイトデイに、小松と過ごすことが出来る。 それはゆきにとって、大きな、大きな意味を持つことでもあった。 ホワイトデイに、恋人とデートをし、甘い時間を過ごすことが出来る。 ゆきにとっては、それだけでとっておきのお返しプレゼントをもらった気分だ。 小松が、壮絶、という言葉が似合うぐらいに忙しいことは充分に分かっている。 忙しいことが分かっているからこそ、この時間は貴重なのだ。 恐らく、小松は、ホワイトデイをゆきと一緒に過ごすために、かなりの厳しいスケジュールで、大量の仕事をこなしてくれているに違いない。 当然、それは、連絡が出来ない状況を生むことだろう。 小松は、ゆきのために、ひたすら頑張ってくれているのだ。 普段は合理的にしか物を考えないひとだから、誤解もあるし、その上、冷たくも見られる。 だが、誰よりも周りのひとや未来について考えているひとだからこそ、合理的になるのだ。 考える軸が、自分ではなく、未来を見据えて誰にとっても、一番最適な選択は何なのかを、直ぐに考える。 ゆきは、誰よりもそこを理解しているつもりなのだ。 ゆきとホワイトデイを過ごすために頑張ってくれている小松のために、ゆきは何が出来るのかを、ひたすら考えることにした。 ホワイトデイのために頑張ってくれている小松のために、ゆきはお弁当を差し入れることにした。 おにぎり、漬け物、味噌汁という、本当にシンプルなものだった。 小松の邪魔にならないように、時間を取らせないように、自分が直接届けるのではなく、秘書に託すことにした。 お弁当のから箱は、洗わずに秘書に託して貰うように、伝言をした。 これくらいのことしか出来ないが、せめて小松の役に立ちたかった。 ホワイトデイになるべく時間を作るように、かなり根を詰めて仕事をしている。 ゆきもそのことを分かっていれしく、連絡なども控えてくれていた。 「CEO、夕食です。ゆきさんが、届けて下さいました」 「ゆきが?」 秘書が小松に手渡してくれたのは、美味しそうなお弁当だった。 中を開けると、玄米ごはんを使った鮭のおにぎり、おかかのおにぎり、梅干のおにぎり、薩摩の味噌豚、野菜の煮物、そして、手作りのぬか漬け、味噌汁。 栄養をちゃんと考えてくれているお弁当だった。 ゆきの心遣いに、小松は、益々愛しく思った。 お弁当を食べたあと、直ぐにゆきにメールで連絡をする。 有り難う と。 もう、ゆきがいなければ、何も進まないように思った。 |