*ホワイトディの魔法*


 小松は、デパートで貰ったカタログを見直す。

 ゆきへのホワイトデイのお返しは、その名前に相応しい、雪の結晶をモチーフにした、リングを贈ろうと思っていた。

 左手薬指を予約するためへの、第一段階だと、思っていた。

 確実に階段を昇って行こうと思っていたのだが、それではもう、物足りないと思った。

 そんなまどろっこしいことはせずに、一気に階段をかけ上がりたい気分になった。

 腹は括った。

 小松は、ゆきを一気に妻にしたいと、強く考える。

 この時空に来た時から、ゆきを妻にしようと決めたのだ。

 それがほんの少しだけ早くなるだけの話だ。

 ゆきとは、もう離れては暮らせない。

 それに、あれほどの女性は、確実に現れないだろう。

 誰かに浚われてしまう恐れだってあるのだから。

 小松は完全に腹を括る。

 いや、腹を括るというよりは、もう待てないから突っ走るというのが、正確なのかもしれない。

 ゆきを自分のものにする。

 妻にして、一生、離さない。

 ゆきの気遣いや、あのおにぎりの差し入れで、決意が出来た。

 ゆきは常に、自分ではなく、相手を軸にして考えられるひとだと。

 小松は、ゆきのその心根を誰よりも愛している。

 ならば、ホワイトデイは、単なる気持ちのお返しではなく、愛を高める日にしても良いのではないかと小松は思った。

 ゆきへのプレゼントを急遽変更をする。

 きちんと選び直さなければならないと、小松は思った。

 

 ゆきは、小松が差し入れを喜んでくれたと知って、心から嬉しかった。

 こんなに嬉しいことはないと思うぐらいに、嬉しかったのだ。

 小松の役に立てる。

 それだけで、ゆきは嬉しかった。

 ホワイトデイまで小松に逢うことは出来ないが、逢えるのが益々楽しみになる。

 小松と逢えるだけで、幸せだからだ。

 それに、小松のことだから、ロマンティックなサプライズもあることだろう。

 ゆきにはそれが何よりも嬉しくてしょうがなかった。

 ゆきにとって、小松と過ごす時間が、最も贅沢で大切なように思えた。

 

 ホワイトデイのプレゼントを変更したこともあり、小松は少しばかり慌ただしい時間を過ごしていた。

 ゆきに似合う、エンゲージリングを用意するのに、宝飾店をわざわざ呼び寄せたのだ。

 ゆきのリングサイズは分かっているから、注文は、何とか間に合った。

 ゆきは、余り華美で派手なものを好まないから、気品がありシンプルなものを探して貰い、決めたのだ。

 ゆきが喜んでくれたら良い。

 それに、この指環をゆきがつけてくれたら、自分自身が最高に幸せになれる。

 ゆきがそばにいるだけで、心から幸せをかんじられるのだ。

 小松は、ゆきのためならば、何もいとわない。それぐらいに愛している。

 だからこそ、もう充分すぎるぐらいに待ったと、自分でも思わずにはいられない。

 ゆきを妻にする。

 ゆきと一緒にいるために、この世界に来たのだから。

 もう充分すぎるぐらいに待ったと思っている。

 小松は、意を決して、ゆきを妻にすることにした。

 

 ホワイトデイの当日、ゆきはかなりそわそわしてしまい、落ち着けない。

 小松に逢うのは、夕方なのに、朝からドキドキしてしまう。

 いつものデートよりも、念入りに服を選び、念入りにメイクをする。

 ゆきは、何度も、何度も、鏡を見る。

 綺麗になりたくて、小松と釣り合いたくて、ゆきは何度も、何度も、鏡で確認した。

 ナルシストでも何でもないけれど、とにかく綺麗になりたかった。

 それは、大好きな小松と釣り合いたかったに、他ならない。

 そわそわしながら一日を過ごすものだから、母親には苦笑いをされたぐらいだ。

 本当は早く小松の元に行きたかったが、それだと小松に迷惑をかけてしまう。

 ゆきはギリギリに行かなければと、自分に言い聞かせた。

 電車に乗り、小松の会社に向かう。

 ときめき過ぎて、ドキドキが止まらない。

 息が出来ないくらいの甘い緊張だ。

 好きすぎたひとに初めてふたりきりで逢うようなときめきに、ゆきはおかしくなるぐらいにときめいてしまう。

 だが、それは幸せ過ぎるときめきなのだ。

 小松の会社に着いたのは、約束の時間の五分前だ。

 ドキドキする。

 ホワイトデイのプレゼントも、今の格好も万全だろうか。

 そればかりが気になってしまう。

 ホワイトデイのプレゼントに、手作りのぬか漬けだなんて、ふざけていると思われるかもしれない。

 腐らないようにと、ゆきは保冷バッグに入れてきた。

 今更ながら、小松は、こんなにも漬け物なんて食べないだろうとも、ゆきは考える。

 だが、ベストな贈り物だと、ゆきは思ったのだ。

 小松の会社は、セキュリティがきちんとしているから、先ずは受付に声をかけて、特別なエレベータに乗り込んだ。

 もうすぐ小松に会える。

 それだけでゆきは嬉しかった。

 小松がいる、CEO室に向かう。

 ここに入ると、緊張が更に高まってゆく。

「帯刀さん、ゆきです」

「どうぞ、ゆき」

 小松の艶やかな声が響き、電子ロックが解除された。

「こんばんは、帯刀さん」

 ゆきが部屋に足を踏み入れると、小松は既に支度をしてくれていた。

「さあ、行こうか。ゆき」

「はい」

 小松は、ゆきの手をしっかりと握り締めると、そのままCEO室を出た。

「今日は、楽しい時間にしようか。久しぶりだからね」

「はい、有り難うございます」

 ゆきは頷くと、小松を見つめる。

「帯刀さんと久しぶりにこうして逢えて、とても嬉しいです」

「私も君に逢えて嬉しいよ。まあ、会えないでいるのは、もう限界に来ていたけれどね」

 小松は苦笑いを浮かべると、ゆきを真っ直ぐ見つめた。

 小松と駐車場に向かい、車に乗り込むと、いきなり抱き寄せられた。

「あ、あのっ、帯刀さん!?」

「……言ったでしょ?君に逢いたかったって、君に飢えていたって……。ね?」

 小松は、くすりと官能的に笑うと、ゆきを更に抱き寄せてきた。

 こうして、小松に抱き締められるの久しぶりで、ゆきの心臓はおかしくなりそうだった。

 喉がカラカラになるぐらいに、ゆきはドキドキしていた。

 こんなに緊張するなんて、思ってもみなかった。

 小松は艶やかな笑みを浮かべると、ゆきに唇を重ねてくる。

 そのまま情熱に呑み込まれていった。

 激しいキス。

 それはふたりが会えなかった時間に燻った情熱の塊を、少しずつ優しく溶かしてゆく。

 とても温かなものだった。




 ウシロ マエ ツギ