*ホワイトディの魔法*


 唇がしっとりと官能的に膨れてしまうぐらいに、小松のキスは激しく、情熱的だった。口づけられるだけで、ゆきはこのまま溶けてしまうのではないかと、思うほどだった。

 ごく自然に、小松に抱き付いて自分を支える。

 そうしなければ自分を支えられないほどに、小松の情熱に溺れていた。

 身体が潤む。

 これがどのようは感覚かを、ゆきはもう知ってしまっている。

 それぐらいに、小松のキスは、夢中になれた。

 ようやく唇を離されて、ゆきはぼんやりとした視線を、ついつい小松に向ける。

 すっかり情熱に溺れて、このままでも良いと思った。

 小松の肩に、ゆきが甘えるようにして顔を埋めると、柔らかく抱き締めてくれる。

「ゆき。続きは後にしようか……。このまま、直ぐに続きに突入してしまいたいぐらいだけれど、折角、準備をした、ホワイトデイのデートだからね。私としては、それを情熱に流されて、そのままお流れにするのは、本意じゃないかな」

「そうですね……」

 ゆきも苦笑いをしながら、小松に同意をする。

 ゆきもこのまま流されても構わないと思った。

 だが、仕方がない。

 今日はホワイトデイ。ロマンティックな日なのだから。

「さあ、行こうか」

 お互いには物足りないのは分かってはいる。

 だが、いつまでもここにいるわけにはいかないのだ。

 小松は車を駐車場から出すと、速やかに目的地へと走らせた。

 穏やかなドライブ。

 こちらの世界に来てから、小松は、馬の代わりに、車を好むようになった。

 小松の運転は正確で隙がなく、安心して乗っていられる。

 車は、鮮やかに都心を通り抜けてゆく。

 こうして走るのも爽快だ。

 ご機嫌なドライブだ。

 車は、落ち着いた町に入る。

 昔ながらの風情を残した町だった。

 落ち着いた和風な雰囲気に、ゆきもホッとした。

 車が止まったのは、昔ながらの料亭だった。

 高級感もあって、そうやすやすとは、出入りが出来ないところだ。

 入り口に向かうと、恭しく女将が出迎えてくれた。

「小松さま、お待ちしておりました」

 女将はゆきたちを出迎えてくれると、部屋まで案内してくれた。

「ここは、料亭旅館だからね。ゆっくり出来るよ。以前は料亭のみだったらゆうだけれど、これも時代の流れかもしれないね」

「そうですね」

 小松とふたりで通された部屋は、梅木が愛でられる部屋だ。

 落ち着いた気持ちになる。

 座敷につくと、直ぐに料理が運ばれてきた。

 見た目も味も最高級の懐石料理が運ばれてくる。

「凄く、美味しそうです。たまにはね。なんだか懐かしいけれど」

「懐石料理が似合いそうです」

「だけど、私は、ぬか漬けとおにぎりやお茶漬けのほうが好きだけれどね」

 小松はフッと笑みを浮かべる。

「おにぎりとぬか漬け、有り難う。美味しかったよ」

 差し出がましいことをしたと思っていたが、小松が喜んでくれたことが、ゆきには何よりも嬉しかった。

「喜んで貰えて、嬉しいです」

「私としては、君に毎日、ぬか漬けとおにぎりやお茶漬けを用意して貰いたいと思うけれどね」

 心を鷲掴みにされたぐらいに、ドキリとした。

 甘い鼓動にどうにかなってしまいそうだ。

「……それって」

「お料理をお持ちしました」

 仲居が料理を持って来たため、ゆきはそれ以上のことは訊けなかった。

「……まあ、後のお楽しみだよ。後のね」

 小松の言葉に、ゆきは益々甘いときめきを抱かずにはいられない。

「帯刀さん、それは……」

「後だよ、後。さあ、食事を続けようか」

「はい」

 ゆきは、上手くはぐらかされたような気持ちになった。

 

 食事を進めながら、他愛のない話をする。猫の話をすることも、多かった。

 デザートは、気品溢れるくず切りで、口のサッパリして、ちょうど良かった。

「サッパリしていて、ちょうど良いですね。おいしいです」

「それは良かった」

 のんびりと梅の花を見ながら、懐石料理を食べて、話をする。

 なんて贅沢なのだろうか。

 小松と一緒に過ごすだけで、ゆきには贅沢な時間なのだ。

 小松との時間。

 これは何物にも代えがたい。

 ふと、小松の眼差しが艶やかになり、ゆきを見つめてくる。

「ゆき、今夜は時間を貰えるかな?」

「……はい」

 ゆきがはにかんで答えると、小松はフッと甘く笑う。

「有り難う……」

 小松と同じ夜を過ごす。

 ゆきにとっては、最高の時間になる。

「ホワイトデイのお返しをしないとね」

「私もありますよ! あ、あのっ、これです」

 ぬか漬けなんて流行らないと思いながら、ゆきは恥ずかしさをにじませる。

「に、二十四時間は冷気を保てるので、だ、大丈夫ですっ!」

「そう……。有り難う」

 小松は艶然とした笑みを浮かべると、ゆきを真っ直ぐ見つめた。

 ゆきが差し出したクーラーバッグを小松は受けとると、嬉しそうに微笑んでくれた。

「有り難う、嬉しいよ。このぬか漬けがなくなったら、また、補充をしてくれるかな?」

「はいっ!」

 小松が喜んでくれることが、ゆきには本当に嬉しくて、笑顔を滲ませた。

「これからはずっと、君が作ったぬか漬けを食べたいと思っているけれどね」

 小松の言葉も声も艶やかで、ゆきはドキリとしてしまう。

「……ゆき、左手を出して」

「はい」

 ゆきは何も考えずに、小松に左手を差し出した。

「どうぞ」

「有り難う」

 小松はゆきの左手を手に取ると、ジュエリボックスから、ダイヤモンドの指環を取り出した。 

 そのまま左手薬指にはめられる。

「……これで、君は逃げられないよ……」

 小松は妖艶に微笑むと、真っ直ぐゆきの心を射抜くように、見つめた。

「ゆき、学生でも構わない。私の妻になりなさい」

 小松は半ば命令のような口調で、ゆきに伝えてくる。

 ゆきの鼓動は激しくなる。これ以上ないぐらいに。

「もう逃がさないよ」

 小松は、ゆきの手をしっかりと握り締めたまま、離さない。その手の強さに、ゆきは身体を震わせた。

 小松らしいプロポーズ。

 ゆきは、静かに頷いた。

 小松と共に歩いてゆく。

 その喜びに頷く。

 ずっと一緒にいたかった。

 そんな想いが、ゆきに頷かせた。

「有り難う、ゆき」

 小松はゆきを抱き締めると、顔を近づけてくる。

「さっきの続き……」

 小松は艶やかに囁くと、唇を重ねてきた。

 しっとりと艶やかなキスに、ゆきは身体から徐々に力を抜いてゆく。

 身体が、甘い期待にうち震えた。




 ウシロ マエ ツギ