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「話って…」 望美は反芻すると、視線を緩やかに将臣から外す。まともに見れば、また辛いだけだ。 「…俺に、話をするチャンスを与えてくれねぇか?」 望美が視線を将臣に上げると、苦しげな笑みが視界に入って来た。 「…チャンスって…」 「俺が酷いヤツてのは、俺が一番解っているつもりだ。だが、お前にチャンスを貰いたい。んなこと言っても、お前には迷惑な話かもしれないけれどな」 将臣は呼吸を浅く整えると、望美の横に腰を下ろす。 「将臣くん、チャンスを上げるとか上げないとかはないと思うよ。話して、将臣くんが思うように」 「有り難な」 将臣は、空に視線を這わせながら、総てを振り切ったような表情をしている。スッキリした横顔は、もう憂いなど感じられなかった。 「…俺、絵梨とちゃんと別れた」 胸が大きく震える。そんなことがあっていいのかと望美は将臣を見る。まだ信じられない。あんなに美しい絵梨と別離したのが。 心臓が喜びに激しく高鳴っていく。 望美は今にも走り出してしまいそうな衝撃を抱え、将臣を見た。 「別れたって…」 「お前と一緒に逢った日があっただろ? あれが最後。お互いにきちんとけじめをつけなきゃならなかったからな。ただ、寄り掛かるように、俺達はつるんでいただけなのかもしれないな。そんなことをお互いに気付いていて気付かないふりをしていたのかもしれない…。それを解消しなければならないって、お互いに気付いたんだよ。だから、割り切ることが出来た。スッキリ、お互いにどろどろはなく」 将臣は砂浜を握り締め、指からさらさらと零す。まるで手持ちぶたさの子供のようだ。 「絵梨と俺はちゃんとした恋じゃなかったと、俺は思う」 将臣の言葉はある意味衝撃的で、望美はその瞳を覗きこむかのように見つめてしまう。インクブルーの瞳は、望美の心を激しく揺さぶる。 「…恋じゃないって…。私には夢中になっている将臣くんを見て、充分にそう思っていたよ。恋じゃなかったら…」 聞くのは恐い。だがそれがどのような意味を持つのか、見極めなければならない。 「…寄り掛かりと欲望だな…」 「今流行りの”セフレ”?」 望美は声を震わせながら、確信を突く。本当はこんなことは聞きたくない。だが聞かなければ、蟠りが残ると思った。 将臣は傷ついたように眉根を寄せ、望美はうかつな発言を後悔する。 「…ごめん。私こそデリカシーがないね」 「いいんだよ。お前にはごまかしてもしょうがねぇし。ある意味、母さんや譲よりも俺を識っているところがあるからな。まあ、鈍感過ぎるところもあるだろうけれどな」 将臣は苦い表情を浮かべると、また、砂を掴んだ。 「…こんな俺をさ、お前はキタナイって思うか?」 将臣にしては珍しいどこか弱気を感じられる。声のトーンで、将臣の苦悩を感じられる。 望美は間髪置かずに、直ぐに首を横に振った。 生まれてからずっと、それどころか恋を自覚してからもこんなに苦しい想いをしてまでも、望美は将臣をキタナイなどと思ったことは一度としてなかった。 「ホントに一度もそんなことを思ったことはないよ。だって…、そんなこと思えないぐらいに…」 そこで望美は言葉を切った。これでは愛の告白ではないか。恥ずかしくて俯くしかなかった。 「思えないぐらいに…、何だよ?」 将臣の声は真摯で、いつものようなからかい混じりのものではなかった。甘く響く男の声だ。だからこそ、望美は余計に意識をしてしまった。 「それだけ…将臣くんを…その大切に思っているってことだよ」 好きだとは中々言葉には出来なくて、望美は少ない語彙から一生懸命、相応しい言葉を探した。 「有り難うな。正直、他のヤツらにはキタナイって思われても構わねぇけれど、お前だけは痛いんだよ。お前にそう思われたら、俺は終わりだ」 将臣は誠実に包み隠さず話してくれる。それが将臣流の誠意なのだろう。そんな真っすぐなところが、望美は好きでたまらなかった。 「なあ、仲直り記念に、ガキの頃みてぇに砂の城を作らねぇか」 「仲直りって、元々、私たちは喧嘩なんかしていないよ」 望美がくすくすと穏やかに笑うと、将臣もまた眩しそうに笑った。 「まあ、いいじゃねぇの。そんなお堅いことは」 「もうっ!」 ふたりで笑いあうと、向かい合わせになり砂の城を作り始めた。 「よく作ったよなあ、ガキの頃」 「そうだよね! 本当に! 懐かしいなあ」 ふたりでこうしてひとつのものを作り出して行くというのはいつぶりだろうか。 このような遊びは最近は全くしなかった。 「トンネルがある、ゴージャスなのにしようぜ。セレブとかが住めそうなヤツ」 「あははー。じゃあ私たちがセレブじゃない?」 「そうだな」 一生懸命、まるで犬が宝物を掘って隠すかのように、ふたりは穴を掘り続ける。 「こんなに掘って埋蔵金が出たらどうするよ」 「山分けだねー。さしずめ、頼朝埋蔵金とか北条埋蔵金じゃない!?」 「だろうな」 先程まで、あんなに深刻な話をしていたというのに、今のふたりはすっかり子供に戻っていた。 17歳とは微妙な季節。ちょうど大人と子供の通過点だ。だからこそ、どちらの立場にも立つことが出来るのだ。 だから今は、ふたりで城を作ることで、絆を確かめ合う。 「あっ!」 何かを引っ掛けたような気がした。温かくてがっしりとした感触。そこにあるのは、将臣の手だ。 望美は息が詰まりそうなぐらいにドキドキすると、その手を引っ込めようとした。 「あっ…!」 将臣の大きな手に握り締められて、更に心臓が鼓動を早める。このままひっくりがえってしまうのではないかと思うぐらいに。 手を握られて、将臣を見つめると、視線で縫い止められてしまった。 「あ、あの…、将臣くん…」 「俺が絵梨に恋をしていないと気付かせてくれたのはお前だ」 「えっ!?」 望美は将臣の真意を確かめたくて、その瞳を見入る。だが綺麗で艶やか過ぎて、結局は魅入られてしまう。 「…ま将臣くん」 「びっくりしたよな。いきなりだからしょうがねぇか」 将臣は早急過ぎたと笑いながら、望美の手を離す。 離されると、胸を焦がす甘い温もりを無くした気分になり、望美は泣きそうになった。 その瞳に反応して、将臣は苦しげに目を閉じる。 「ちょっと頭を冷やしてくる」 「ま、将臣くん!?」 将臣はおもむろに立ち上がると、波打ち際まで歩いていく。そこで風に吹かれて立ちすくんでいた。 来る波を何度も蹴っ飛ばしている。 望美はその姿を見ながら、将臣が今更ながら魅力的な男だということに気付く。 望美は、まるで磁石に吸い寄せられるように、将臣に向かって走り出す。 もしかして、もしかして。 自分の恋心が花開く日が着ているのかもしれない。 「将臣くん!」 望美は想いの丈を込めてその名前を呼ぶと、将臣の広い背中ごと抱きしめた------ |
| コメント パラレルな幼なじみです。 もう少しおつきあい下さいませ。 |