片恋の姫君


 シャワーを浴びると、肌がぴりぴりする。細胞のレベルで将臣をひどく意識をしてしまう。
 望美は汗を流した後で、暫く浴槽に浸かった。
 時間稼ぎと思われてもしょうがないが、ドキドキが爆発しそうで、中々、将臣の前に姿を出しづらい。
 ゆっくりと浸かりながら、望美は泣きそうな恋心を抱きしめて、胸を苦しくさせた。
 将臣とは明らかに違う性の躰。だが、絵梨よりも成熟していないボディラインに、益々地震が無くなってしまう。
 逆上せてしまうのではないかと思うほどに躰を温めた後、望美はようやく浴槽から出た。
 何だかふらふらする。
 ドキドキし過ぎて、このまま死んでしまうのではないかと思った。死んでしまうなら病名は決まっている。”将臣病”だ。
 用意されているバスローブを羽織り、望美はポケットからアドマイザーを取り出す。今、お気に入りの幸せを呼んでくれる香りだ。
 望美はそれを膝の裏と耳たぶに僅かに付けた。
 まるで戦闘服を身に纏ったような気分になる。
 絵梨のオードシャルロットには遠く及ばないが、望美は自分らしいと思っていた。
 全身が心臓になったかと思う程に、激しいビートを刻みながら、望美は震える足をゆっくりと先に進ませる。
 どうしてこんなに将臣を意識してしまうのだろうか。
 それこそ自意識過剰ではないかと思ってしまう。
 将臣だって撰ぶ権利ぐらいあるのだから。
 部屋に入ると、将臣は苛々しているように、髪をかきあげた。
「ま、将臣くん…」
 名前を呼ぶと、眉にシワを寄せてくる。あからさまな不機嫌そうな態度に、望美は生唾を飲んでしまった。
「座れよ」
「あ、うん」
 ベッドの上に、少しだけ距離を置いて座ろうとしたところで、望美は足を絡ませてしまい、そのままベッドに突っ込んでいく。
「おいっ!」
 将臣が腕を伸ばして受け止めてくれ、そのまま抱き留められた。
 ダイビング場所が、ベッドから将臣の腕に代わっただけだ。
「大丈夫かよ!?」
「大丈夫だよ…。座れるから、離しても良いよ」
「ダメだ」
 強い調子で言うと、将臣は望美のほわほわとした柔らかい躰を抱きしめて来た。
「…出来ねぇよ。こんなに綺麗なお前を見せ付けられたら…」
「…将臣くん…」
 覆いかぶさるように唇を重ねられた。唇をこじあけられると、なぶるように舌を吸い上げられる。
 ぶつかるような激しさを見せ付けられて、望美はこのまま砕けてしまうのではないかと思う。
 砕けても良い。将臣ならば。
 されるがままにキスを受けながら、自分の経験不足を、望美は怨んだ。
 こういう時に、絵梨ならどうしてキスを返したのだろうか。
 涙が滲んできて辛い。
 同時に、較べてしまう自分が嫌で仕方がなかった。
 唇を離された後、ようやく呼吸が出来るようになり、望美は胸を上下させる。
 将臣は望美を抱き寄せると、背中を撫でてくれた。
「大丈夫か?」
「何とか…」
 抱きしめられて、まだ胸が揺れている。上下する旅に、将臣を意識している大きさを感じた。
「マジ、ごめんな。俺…制御がきかなくて…」
「大丈夫…」
「こんなにコントロール出来ないの初めてなんだよ」
 将臣は困ったように笑うと、望美の首筋に顔を埋める。
「さっき、怒っているかと思った」
「怒っちゃいねぇさ。ただ、お前が可愛い過ぎて、綺麗過ぎて、どうしようかと思っただけだ…」
 何時ものような明るい青空を思わせる将臣はそこにはいない。今目の前にいるのは、望美を惑わせるひとりの男だけだ。
「ヤベ…、マジ、制御出来ねぇ…」
 将臣は望美をベッドに押し倒すと、首筋に思い切り噛み付いてきた。
「…やっ…!」
「お前が良い匂いをさせるから…」
 将臣はもう止めることが出来ないらしく、望美の鎖骨あたりも強く吸い上げてくる。
 この感覚は一体何なのだろうか。
 痛いのに気持ちが良くて、痺れるような甘い感覚は。
 望美は息を弾ませながら、震える指で将臣の髪を撫でた。
 どうしていいか解らない。
 将臣とならとことんまで行ってしまっても構わないと思いながらも、恐怖に震える自分がいる。
 望美は肌を震わせながら、思わず目をつむった。
 将臣の大きな手が、バスローブの合わせ目に入り込んでくる。
 これから変わってゆく自分が恐くなってしまい、躰を持ち上げてしまう。
 将臣がふと動きを止めた。
 望美を労るように抱きしめてくれる。
「大丈夫かよ!? 嫌か?」
「…嫌じゃないんだけれど…ちょっと恐いんだ…」
 望美が正直に話すと、将臣はホッとしたように視線を緩めた。
「俺が優しくしても、傍にいても、恐いか?」
 慈しみ溢れる将臣の声に、望美は躰と心から緊張を抜いていく。
 こんなに甘くてうっとりするような声を、望美は聞いたことがなかった。
 余りにロマンティックで、心までとろけそうな声をもっと聞きたくて、望美は将臣に強く抱き着く。
「…将臣くんが傍にずっといてくれるんなら、大丈夫だよ…」
「解った。お前が不安にならねぇように、恐くないようにするから」
「有り難う」
 望美が笑いかけると、将臣も笑みを返してくれた。とろとろの優しい微笑みに、何だかご褒美を貰った気分だ。
 将臣は、望美を労るように、ゆっくりとバスローブを開けさせる。下着を全く付けていなかったことを、今更ながらに思い出した。
 将臣の手が一瞬止まる。
 こんな肌を見るのは嫌なのだろうか。
 こんな胸は好みじゃないのだろうか。
 様々な不安が渦巻き、躰が揺れた。
「嫌?」
「バカ、嫌なわけねぇだろ? あんまり綺麗だから…、俺が傷つけてもいいのかって思っていただけだ。でももう構わない…」
 何かが将臣のなかで、プチっと音が切れてしまったことを望美は識った。
 将臣は自分のバスローブを投げ捨てると、望美に激しい欲望を見せ付けてきた。
 強く抱きしめながら、望美の肌を凌辱していく。
 汚れを識らない雪のような肌が、将臣色に染め上げられていく。
「…あっ…!」
 望美も自分でどうなっているか解らなかった。
 将臣に肌に刻印される度に、躰が花開くように熱くざわめいてくる。
 下腹部が苦しくて、何も受け入れることが出来ないぐらいに激しく甘くなる。
 乳房を将臣に触れられた。
 それだけで、躰が大きく跳ね上がった。
 子供の頃は、男だとか女だとか全く関係がないように過ごして来た。
 こうして異性を感じるようになり、恋を識ることによって、自分たちがこんなに違っているのかと気付かされる。
 幼なじみの特別な友情を通り越して恋へと進む。こうして男女として愛し合えば、恋は深い愛へと変わっていくのだろうか。
 望美は将臣を抱きしめる。
 愛情と性愛は表裏一体のコインのようだと思いながら。
 愛しているから、その先を進んでいくのだ。
 だからもっと感じて欲しい。
 望美は将臣を強く引き寄せた。
コメント

パラレルな幼なじみです。
もう少しおつきあい下さいませ。




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