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「好き」という気持ちは、相手と近い存在であればあるほど、中々伝えるのが難しくなる。 例えば望美と将臣。 生まれてからずっと知り合いだなんて、ある意味反則技だと思う。 お互いに今までの関係が心地良くて一歩が上手く進めない。 「兄さん、また先輩を巻き込んだんだろう? 好い加減にしろよ。面倒臭いからだってホントに…」 夕食を食べながら、譲がちくちくと針の先端で攻めてくる。 だがそれを将臣はさらりと交わした。 望美について言えば、譲は立派なライバルだ。 だからこそ、将臣は堂々と受けて立つ。 勿論、何よりも望美の気持ちが一番大切なのは昔から変わらないから、それを優先するのは当たり前のことだが、今のところ”特別”がいない望美だから、こうして譲に牽制もする。 「あいつが手伝ってくれるっていうんだから、それでいいじゃねぇか」 「無理矢理だろ!?」 「んなことはねぇだろ」 将臣はさらりと呟くと、更に食事を進める。だが譲は気に入らないようだ。 それは恋するものならしょうがないことだ。 「まあ、お前も望美と何かが出来て嬉しいだろ?議論はおしまいだな」 将臣は夕食を食べ終えると、議論をキッパリと打ち切って、後片付けをする。 「兄さん、話は終わってないだろ!?」 「お前と議論をしても堂々巡りだろ? 解決はしねぇ、時間の無駄。俺は、金と時間の無駄遣いはしねぇことにしてるからな」 将臣は言い返す隙も与えずに、後片付けをすると部屋にひっこんだ。 「春日さん! この書類をまとめておいてもらって構わない?」 「はい、良いですよ会長」 生徒会長から手渡された書類を、望美はにこやかな笑顔で受け取っている。 あんなに輝く笑みを将臣に向けてくれたことなんて、今までで一度としてなかった。なのにあんな輝かしい笑みを向けるなんて、悔しくてしょうがない。 望美は何を考えているのだろうか。 会長の手助けをしたいのだろうか。 それとも、会長を本気で好きなのだろうか。 様々な考えがぐるぐると頭の中に渦巻いて、窒息してしまいそうだ。 「だったら頼んだよ。ごめんね、雑用を押し付けて」 「大丈夫ですよ」 素直に仕事を受ける望美が恨めしくてしょうがない。 将臣は苦々しい気分になると、ふたりの間に割って入った。 「俺も手伝う」 「有り難う。だけど大丈夫だよ。少ないし、出来そうだから」 望美が会長に良い顔をしようとするのが恨めしくて、しょうがない。 だからこそ間に入って邪魔をしたくなってしまう。 「大丈夫だよ有川くん。春日さんもああいっていることだし。他の仕事を手伝って貰っても良いかな」 先輩風を吹かせる目の前の男が気に食わない。将臣はムスッとしてしまい、何も言えなかった。 「じゃあ頼んだよ、春日さん。じゃあ有川くん、委員会で」 「はい」 爽やかな笑顔を崩してやりたい衝動にかられながら、将臣は生徒会長を見送った。 「望美」 「ん?」 「マジでムリなら手伝ってやるから」 いつもならぎりぎりまで手を貸さない。望美が自分が出来るめいいっぱいのところまで頑張ったところで、いつも助太刀をしていた。 そのお陰か、望美は凛とした媚びのない、将臣にとっては理想の女に成長した。 だからこそ手にしたい。 この腕の中に閉じ込めたら最後、誰にも触れさせやしない。 「珍しいね、将臣くんがそうやって甘やかせてくれるのは。だけれど大丈夫だよ」 「そうか?」 「うん、少ないし」 ニッコリと笑う望美を見ると何故だか無性に腹が立ってくる。 理由は解っている。 明らかに女々しい嫉妬だ。それ以外に何もない。 「さてと、そろそろ教室に戻ろう? 将臣くん、とっても嬉しかったよ、手伝うって言ってくれて」 幼さの遺る愛らしい笑顔で微笑まれてしまったら、もう何も言えなくなる。それどころか幸福でたまらなくなった。 「戻るか、教室」 「そうだね」 ふたりで肩を並べてこうして教室に入ることが出来るのが、何よりも嬉しかった。 「それでは中央委員会を始めます。本日の議題は、鎌高祭についてです。今年は体育祭の年にあたります」 将臣が落ち着いた声で進行をするのを横で聞きながら、そのスマートさに惚れ惚れする。 正直言って、生徒会長よりも進行は上手いのではないかと思ってしまう。現に、会長は少し悔しそうにしていた。 思わず幼なじみを自慢したくなってしまう。 こんな素敵なひとが、幼なじみづ大好きなひとなのだと。 「…後夜祭のフォークダンスですが、今年は自由参加で、相手はチェンジしてもしなくても良いという意見が出ていますが、俺としてはそれでも良いかと思っていますが、みなさんはどう思いますか?」 似合わない敬語を使いながらも、それが妙に似合っていて、将臣をおとなびて見せる。 それが素敵だと思うのと同時に、どこか淋しくも思えた。 無事に委員会が終了し、将臣は大きな深呼吸をする。 「ったく、面倒臭いうえに疲れるなんてなあ」 「ご苦労様」 将臣は髪をかきあげながら、けだるく笑っている。その笑みが甘くて、望美はうっとりと見つめてしまっていた。 「何だよ?」 「ううん、何でもない」 「へんなやつ」 幼なじみの素敵さは自分が誰よりも解っているつもりでいる。だからこそ少し淋しく感じてしまう。 「有川くん、ちょっと良いかしら?」 綺麗で生徒会長と付き合っていると噂の副会長が、将臣に声をかけてきた。 相変わらず艶やかなひとだと思う。 将臣が副会長の前に立つと、誘うような眼差しを送っている。まるで女郎蜘蛛のようだと望美は思った。 「後夜祭のフォークダンスの選曲なんだけれど、手伝って貰いたいんだけれど」 そんな蜘蛛の誘いになんかは乗らないで欲しい。どうかそんなことは決してしないで欲しい。 望美がヤキモキしながら祈るような気持ちでいるのとは裏腹に、将臣の言葉はハッキリキッパリとしていた。 「良いですよ」 一瞬、副会長の唇に狡猾な笑みが浮かぶ。まるで獲物を前に舌なめずりをしているかのようだ。 それをどうしても阻止しなければならない。 「あ、私も手伝います!」 頭の中で結論が出るよりも先に、手が上がってしまっていた。流石にこれには苦笑いをする。 「手伝ってくれるのか? サンキュな。お前のが選曲センスは良さそうだしな」 将臣は嬉しそうに弾むような声で言ってくれたが、先輩はそうはいかなかった。 すっかり不機嫌な顔になり望美を睨みつけている。 だがそんなことでは怯まない。 この宣戦布告を、望美は見事に受けてやろうと構えた。 |