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「これなんかいいんじゃない?」 「そうだな。良い感じじゃねぇ? 学校のライブラリで探せばいいな」 ふたりは手を繋いだままで、CDの試聴をお互いにしあう。 ぴったりとくっつきあい、まるで恋人同士のようだ。 こうやって自然にくっついているだけでドキドキする。 望美は、将臣が幼なじみとしてではなく、女として見て欲しい。 何度も横にいる将臣を見上げた。 男らしく、なんて綺麗なのだろうと思う。望美はうっとりと将臣に見とれずにはいられない。その辺の俳優とかよりも、ずっと素敵に思えた。 「おい、これで良いよな?」 見とれている最中に声をかけられてしまい、望美は心臓が大きく跳ね上がった。 「あ、う、うん」 「リストに書いとけ」 「有り難う」 望美が慌てて書いているのを、将臣は冷たい眼差しで見つめている。クール過ぎて、望美は喉が渇くくらいにときめいていた。 「オッケ、んなもんで良いだろ。行くぜ」 「うん」 将臣は望美の手をしっかりと握り締めたままで、エスカレーターを下りる。 力強い手が心地良い。 望美は離したくなくて、その手をぎゅっと握り締めた。 こんなに密着しているというのに、まだ”幼なじみ”なのだろうか。 異性として見てはくれないのだろうか。 望美は胸がキュンと締め付けられるのを感じながら、将臣を見つめた。 どうして幼なじみなのだろうか。 幼なじみの壁がふたりの間に立ちはだかる。 将臣は結ぶ手に汗が滲むのを感じ、望美に想いが滲まないかと、少しばかりドキドキした。むせ返るような熱に、酔っ払ってしまいそうになる。 望美を何度もちらちらと見つめると、頬をほんのりと紅潮させている。 初々しい色気が、将臣の心を乱した。 どうしてこんなに綺麗なのだろうか。 どうしてこんなにも女なのだろうか。 将臣は抱きしめたくなる衝動をなんとか抑えると、その代わりに望美を傍に寄せた。 「あ…」 「ぼんやりするなよ。通路を空けねぇと、誰も歩けねぇだろう?」 「そうだね」 照れ隠しだった。 もっと望美に近付きたい。 抱きしめたいという想いが、掌に集中して、汗を吹き出した。 カッコ悪いと思いながらも、将臣は望美を離せなかった。 ショッピングモールを出て、真っ直ぐ横須賀線のホームへと向かう。 雑踏から望美を護るように、将臣は手を繋ぎ続けた。 普通なら、こんなに密着をするのならば、誰もが恋人同士だと思うだろう。 だが、ふたりに横たわる”幼なじみ”の枠は余りにも大きくて、手を繋ぐぐらいではそこから出ることは出来なかった。 キスでもすれば。 視線が唇に向く。 望美の唇はふっくらとしており、ぷるるんと甘く揺れている。 まるで甘くて美味しい果実のようだ。 噛りたい衝動を何とか抑えながら、将臣は目を話せずにいた。 横須賀線に乗り込むと、人込みの多さに息が詰まりそうになった。 望美を抱きしめて、将臣は静かに護ってやる。本当は護っているのではなく、抱き寄せていると識ったら、望美はどう思うだろうか。 将臣の腕と胸にすっぽりと包み込まれて、望美は息が止まりそうだった。 男らしい将臣の香りにドキドキしてしょうがない。 何時からこんなにも色気のある香りを放つようになったのだろうか。 望美は息を乱しながら、将臣に甘えるようにもたれかかった。 気付かれないように、満員電車のせいにして、望美は将臣に甘える。 恋人へのステップアップをしたいのに、中々思い通りにはいかない。 幼なじみは、なんて甘酸っぱくて厄介な関係なのだろうか。 鎌倉に着く頃には、車内は随分と楽に出来るようになっていた。 苦しいから満員電車は嫌いな筈なのに、こうして将臣と一緒にいるだけで、苦しみが楽しみに変わるのが不思議だ。 出来たら着いて欲しくなんかないのに、電車は予定通りに鎌倉駅のホームに滑り込んだ。 将臣はちらりと望美を見ると、手を引いたまま電車を降りた。 「腹へったから、鎌倉カスターでも買ってから、江ノ電に乗り込まねぇ?」 「賛成!」 ふたりは鎌倉駅前で、鎌倉カスターを買い求めた後、仲良く電車に乗り込んだ。 必要ないとき以外は、ずっと手は離さずにいた。 ここまで密着をしていればお互いの気持ちなんて気付いてしまうだろうに、全く気付かないふりをしていた。 「久し振りに食うと、カスターって美味いよな」 「そうだねー。甘くて美味しいね」 望美が笑うと、将臣がずっと唇を見ていることに気付いた。 視線が男っぽくて、望美はときめく余りにくらくらする。耳の下が痛くなるぐらいにドキドキしながら、舌で唇を確かめると、カスターのクリームの味がした。 「まるで小学生の子供みたいだよね。これじゃあ!」 照れ隠しで笑うと、将臣は一瞬顔を反らせてしまった。 呆れたね、きっと。 余りにも子供っぽいから。 自分は、将臣にとってはいつまでも幼なじみのような気がして、望美はたまらなくなる。 あれほどまでにハイにときめいていた心は、いつの間にか深い沼に沈んでいた。 望美の舌が唇に走り、見ているだけで背筋に甘い快楽が走り抜けた。 望美の舌の代わりに、自分が舐めてやりたいという衝動を、将臣は感じずにはいられなくなる。 望美の唇を舐めたい。 キスをしたい。 ただのエロ親父のような気分になり、将臣は恥ずかしくて顔を背けた。 望美の瞳が一瞬揺らぐ。 そんな表情をされたら、何処かれ構わずにキスをしてしまいそうになった。 幼なじみと恋人のテリトリーをいきなりブチ破ってしまったら、望美は驚くどころか口もきいてもらえなくなるだろう。 それは絶対に避けたかった。 徐々にテリトリーを壊して、自然な形で、恋人を自覚したかった。 だがそれは至難の技。 特に、望美に深い欲望を抱いている将臣には。 極楽寺の駅に着き、ふたりは手を繋いだままで家路についた。 お互いに余り話さず、牽制するように見つめあう。 微妙な視線の絡め合いが、ふたりの関係を表していた。 視聴覚教室で、放送部から借りたCDを、色々と整理をしていると、生徒会副会長が現れた。 相変わらず美しく、色香が滲み出ている。 「有り難う、有川くん、春日さん。ピックアップしてくれたのよね」 「みんなが喜びそうなやつ、候補に入れたつもりですから、チェックして頂けると助かります」 「解ったわ」 副会長は将臣ばかりを見て話をする。 まるで望美などここにはいないような雰囲気を出すものだから、ひとり疎外感を感じずにはいられなかった。 「…春日さんは、後夜祭楽しみにしているよね? 誰か踊りたいひとはいるの?」 いきなり振られてしまい、望美はわたわたとする。つい本音が出てしまった。 「います」 その瞬間、将臣にひどく睨み付けられた。 |