真夏の影

14


 愛撫だけで全身がけだるい満足感に漂っていた。
 ぼんやりとしていると、将臣は、力が抜けた望美の躰を抱き上げる。
 そのままお姫様抱っこをされて向かった先は、将臣のベッドだった。
 一瞬、言いようのない陰りが心を支配する。じりじりと静かにしかし熱く燃える嫉妬と、ほの暗い感情。
 それらが総て、将臣のベッドに注がれて行く。
 望美の心などお見通しだとばかりに、将臣は耳たぶを優しく口づける。
「このベッドでは、誰も抱いてはいねぇ。安心しろ」
 望美は返事をする代わりに、将臣を強く抱きしめる。
 将臣の整った唇に、なまめかしい笑みが浮かんだ。
 ベッドに優しく寝かされた後、将臣は美術品を愛でるかのように望美の裸身を眺める。
 真摯な色を湛えた瞳には抵抗出来ない。望美はただ隠すことも出来ずに、恥ずかしさに肌を染め上げた。
「…綺麗だな、やっぱりお前は…」
「そんなことない…」
「そんなことないわけねぇだろ? お前はとことんまで俺を追い詰めているんだからな…。狂おしいぐらいに…」
 掠れた低い声というのは、なんてセクシィなのだろうか。声を聞いているだけで、全身がとろとろに溶け出してしまうほどに感じていた。
 将臣は熱い吐息を宙に投げ付けると、衣服を一気に脱ぎ捨てる。
 現れた裸身は、筋肉が作りものよりも綺麗につき、思わず見惚れてしまうほどだ。
 均整が取れたラインや躰は、きっとどんな芸術家だって出せやしないだろう。
 綺麗過ぎて、こんな素敵な躰に抱きしめられると思うと、望美の鼓動は激しさを増す。
「綺麗だね…」
「お前の躰のが、何十倍も綺麗だぜ? こんなに余裕がねぇのは初めてだからな」
 将臣はベッドを軋ませながら望美に被いかぶさるように、抱きしめてきた。
 下腹部に将臣の硬くて熱い昂ぶりを感じ、腰が無意識に揺れた。
「…お前が欲しい」
 将臣の囁きは、満月や星よりもロマンティックに聞こえる。
 もう幼なじみにも、屈託のないイノセントな時間にも戻れないのだ。
 ”のんちゃん”ではいられないのだ。
 だが、そのハードルを越えなければ、将臣とは進展は見られない。
 そして、強くそれを欲している。
 ただ純粋な気持ちで愛を表現していた時期とは、さよならをしなければならないのだ。
 失う時間の喪失感よりも、得られる時間の歓喜が大きい。
 望美は将臣を真っ直ぐ見つめると、ただ一度、頷いた。
 将臣は微笑むと、望美の骨が軋んで折れてしまうのではないかと思うほどに、抱き締められた。
 熱い将臣自身が入口に押し当てられる。
 そこから感じる欲望や愛情は、今までで一番強いものだった。
 こんなに熱くて、硬くて、男らしくて。
 こんなものを本当に受け入れられるのかと思うだけで、目眩がする。
 不安が全身を彩り、それを吹き飛ばすように、望美は将臣に抱き着いた。
 目を強くつむり、肌を小刻みに震わせているのに、不思議と止めようとは思わない。
 ただ将臣の肩に縋り付いて、総てを託した。
「…んっ…!」
 鋭い金具で入口を押し広げられるような感覚に、涙が零れ落ちる。
 痛くて堪らないのに、止めて欲しくないなんて、なんて奇妙な感覚なのだろうと思った。
 だが我慢しきれない痛みが表情に出たのか、将臣は心配そうに瞳を覗き込んでくる。
「…平気か?」
「ちょ、ちょっとだけ平気じゃないかも…」
「どっちなんだよ…」
 掠れて笑う将臣が素敵過ぎて、望美は頬を染める。
「大丈夫だから…将臣くんの思うように…して欲しい…」
「バカ、可愛いこと言うんじゃねぇよ」
「あっ…!」
 心臓が止まるかと思うほどの痛みが頭を突き抜けて、望美は将臣に躰をぶつけた。
 躰の一部をえぐられるような痛みに、望美は涙をぽろぽろと零さずにはいられない。
「…痛いよ…」
「我慢してくれ」
 望美は頷くが、無意識のうちに腰が引ける。将臣はそれを引き寄せると、更に奥深い場所まで掘削してきた。
 望美が逃げないように、将臣は鋭利な角度で唇を重ねてくる。舌を絡め取られて、将臣の欲望に溺れてしまう。
 長くてしっかりとした将臣の指先が、結合部分をなぞってきた。
「…やっ…! まさおみ…くん…っ!」
 痛みを助長するような快楽に、望美は背中を綺麗に反らせた。
 将臣はその間も、容赦なく先を進めてくる。
 痛みと快楽。
 相反する感覚が、望美の胎内でぶつかり合い、爆発する。
「やああっ!」
 将臣が胎内で更に大きくなる。最も飛び出た部分が望美の内壁を擦り、窒息してしまうのではないかと思った。
 圧迫で総てが破れて壊れてしまいそうだ。
「…望美っ…!」
 将臣が鋭い尖端で、望美を突き破ってきた。
「やああああっ!」
 唇から漏れた痛みの悲鳴を飲み込むように、将臣はキスを深める。
 尖端が深い場所を突いた感覚がした。将臣の侵入が止まる。
 鼓動のリズムと同じように、将臣の欲望は波打っている。
 ダイレクトに感じる将臣の熱が、望美の深い場所を溶かしていく。
 唇を離された後、望美は一番近い場所で抱きしめられた。
 ふたりは今繋がり、ひとつの物体のようになっている。
 肉芽を弄られると、子宮が上下して将臣が突き刺さった。
「…やっ、ん…っ!」
「お前が泣いても喚いても、ずっとこうしたかった…。もうずっと前からな…。想像してたより…、お前は良すぎるんだよ…」
 将臣は余裕ない笑みを浮かべると、緩やかに動き始めた。
 ゆっくりとしたリズムなのに、まだピリピリと下腹部が痛む。
 滲む痛みに涙が零れたが、それよりも将臣と結ばれた喜びのほうが大きかった。
 習ったわけではないのに、望美の腰はなまめかしくダンスをする。
 ダンスに刺激されてか、将臣の動きは加速がついてきた。
「…やっ! あっ! んっ…!」
 痛いのに、どうして甘い声が零れるのだろうか。
 涙が滲んで、こんな痛みは二度としたくないと思っているのに、離れたくない。
 総ては愛があるからだ。それがなければ、到底、耐えられる痛みなんかじゃない。
 将臣の動きが激しくなり、望美は縋り付くことしか出来なかった。
 快楽なんてない初めてのセックス。
 だけどとても幸福だ。
 みずみずしい生まれたての幸福に包まれて、望美は将臣を抱きしめる。
 将臣の躰が大きなうねりを上げて震える。
 命の証が、望美の胎内に注ぎ込まれた。

 ゆらゆらとふたりで抱き合って漂うのはなんて気持ちが良いのだろうか。
 ぼんやりと幸福に浸っていると、将臣の声が染み通ってきた。
「痛かったか?」
「うん。だけど大丈夫だよ」
 将臣は眩しそうに微笑むと望美の頬を辿った。
「…避妊しなかったぜ、わざとな…」
 将臣は甘い声で呟くと、望美を抱きしめてくる。
 告げられた言葉に、望美は何故だか幸福を感じた。
コメント
想い合うのことに気付くのに遅れてしまったら?
のコンセプトの、パラレル的な物語です。
恋の甘さと切なさ、愛の厳しさがテーマです。
果たしてちんくまんは完走出来るか(笑)





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