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「女子はダンスか…。目の保養になるよなあ…」 将臣の横にいるクラスメイトが、女子の体操着姿をうっとりと見ている。 オヤジと同じぐらいに始末に終えないと思いながら、将臣は溜め息を吐いた。 「特に春日が良いよなあ。身長もほど良くて、ウェストはキュッとしてるしなあ。手足はすんなりと長いのに、 胸はあるし…。マジで良いよなあ」 本当にまるでアイドル歌手でも見ているかのような目付きで望美を見るのが気に食わない。 望美をそんな視線に晒したくはない。 将臣は苛立ちを覚えながら、思わずクラスメイトに稲妻ラリアートを食らわせた。 「痛いって! 将臣っ!」 「んなやらしい目で見るな。とっととバスケをするぜ!」 将臣は苛立つ余りに、眉間に皺を寄せると、そのままクラスメイトを引っ張っていった。 「いいじゃないか。見るだけなら減るもんじゃなし」 「お前最悪…」 将臣はちらりと望美に視線を這わせる。 最近、目を見張るほどに綺麗になってきている。いつも側にいる将臣ですらも眩しいと思うほどに。 いつ変な虫がついてもおかしくはないと思いながら、将臣はじっと望美を見つめていた。 不意に将臣の視界に、カノジョが入ってきた。 体育はカノジョのクラスと合同だからいるのに決まっているのに、将臣は今まで気付かなかった。 ただ望美だけしか眼中になかった。 手を振ってきたので、ハッとして手を上げる。全く何をしているのかと思った。 笑いかけることも出来ず、ただ偽りのこころのままで応える自分が、どこまで腐っているのだろうかと思わずにはいられなかった。 男子のバスケットが白熱しているのを、誰もが授業そっちのけで見ていた。 望美は友人と肩を並べて、クラスを応援する。だが見ているのは将臣だけだ。 将臣がドリブルをして風のように颯爽とコートを走るのを見ていた。 「ヤッパリ有川くんは素敵だよね! やっぱピカイチだよー! 有川くんがいれば、授業といえど楽勝だね!」 友人はまるでアイドルを応援している女の子のように、黄色い声を上げて楽しんでいる。 将臣を堂々と応援出来る環境に感謝しながら、望美もまた手を叩いて楽しんだ。 「良いなあ望美は。有川くんが幼馴染みでさ。有川くんはクールだし素っ気無いけれど、望美にだけは優しいよね」 友人は何気なく言ったつもりだっただろうが、望美にはときめき以上のものをもたらしてくれた。 将臣と幼馴染みでいられて本当に幸せだ。 苦しい恋ではあるが、女友達としては最も近い位置でいられる。 その分苦しいところもあるが、そんなことは言ってなんかいられなかった。 「将臣ーっ! 頑張ってねー!」 可愛い金切声に望美が視線を追うと、将臣のカノジョが一生懸命応援しているのが見えた。 ただひとり、将臣に堂々と声を掛けることが出来、手を振ることが出来るひと。 カノジョの明るく堂々とした姿を見ているだけで、こころが切り裂かれたような痛みに悩まされた。 「何よ! 自分のクラスを応援したら良いじゃん! カノジョだからってあんなに堂々と応援して、嫌味ぽいっ!」 友人は、まるで望美の代りに憤慨しているように言いながら、カノジョを睨み付ける。 「自慢たらしいじゃない。そう思わない?」 まるで頭の天辺から湯気が出て来てしまいそうな友人に、望美は苦笑いをした。 ふとカノジョの棘のような視線が、一瞬、こちらに向けて放たれたような気がした。 ちらりと見つめると、カノジョはあからさまに怒りをこちらにぶつけている。 恋するが故の独占欲ならば、望美も痛いほどに理解することが出来た。 視線から逃れるように俯いていると、不意に悲鳴が耳に入った。 「望美っ!?」 「えっ?」 友人の悲鳴と同時に、スピードを増したバスケットボールが、望美を目掛けて飛んできた。 避ける時間など、気付いたときにはもう残されておらず、ボールは望美の頭に命中した。 「望美っ!」 一瞬、頭がくらくらしてがくりとなる。何が起こったのか解らないまま、強い力に抱き留められた。 「おいっ!? 大丈夫か!?」 いつでも聞いていたい声が横から聞こえて、望美はぼんやりと姿を認める。 「…将臣くん…」 「頭はくらくらするか?」 「ちょっと…だけ…」 ぼんやりと呟くと、将臣はいきなり望美を抱き上げた。 誰もが溜め息を呑む。 お姫様抱っこをされてしまい、望美自身も驚いて将臣を見上げた。 「ま、将臣くん、大丈夫だよ」 「頭は慎重にならねぇといけねぇだろ? 行くぞ保健室」 将臣は望美の意思など尊重することもなく、スタスタと保健室に行ってしまった。 カノジョがこちらを見て睨んでいるのは判っている。 だか今はほんの少しだけの間は、こうしていることを許して欲しかった。 望美は目を閉じると軽く深呼吸をして、将臣の肩に甘える。 こうしていれば、煩わしい総ての事から解放されるような気がした。 望美のことばかりを気にしてバスケットをしていたから、つい手元が狂ってしまった。 望美が誰を見ているのか。そればかりを気にしていて、カノジョが応援していることすらも気付かずにいたほどだ。 ボールが望美に目掛けて飛んだ瞬間、将臣は一瞬どうして良いか判らなくなっていた。 ただ望美しか見えなかった。 解っている。 もう嘘なんか吐き続けることは出来ない。 こころがこんなにも切迫してしまうほどに、望美を求めているのだから。 誰の視線も気にすることなく、無意識で望美を抱き上げていた。 何かあればどうしようかと、そればかりを考えていた。 保健室に入ると、ふたりの姿を認めた保険医が驚いたように見つめて来る。 「どうしたの? 春日さん」 「俺がパスしたボールがこいつの頭に当たって、軽い脳しんとうを起こしたみたいで」 「解ったから、有川くん、春日さんをベッドに寝かしてあげて」 テキパキと指示をしてくれる保険医に従い、将臣は望美をベッドに寝かせた。 「大丈夫だよ、大袈裟だって! 今はもう平気なんだよ」 ベッドに寝かされるのが望美には不本意らしく、口を軽く尖らせる。このような仕草も子供の頃から変わらない。そこがまた可愛くもある。 「一瞬、ぼんやりとしていたやつが何を言いやがるんだよ」 「取りあえず安静にしていなさい。春日さん」 保険医の一言に望美は不本意そうに納得をすると、渋々頷いた。 「それじゃあ暫くおとなしくしていなさい春日さん。有川くんは授業に戻りなさい。後はちゃんとしておくから」 本当は離れたくない。 だが離れない理由が上手く思い付かなくて、将臣は軽く溜め息を吐く。 「解りました。授業に戻ります。望美を宜しくお願い致します」 「解ったわ。任しておいてね」 後ろ髪を引かれる想いで保健室から出ると、将臣は体育館へとだらだら歩いていった。 「有川くんを帰しちゃったけれど、これで良かった?」 まるで楽しんでいるかのように笑う保険医に、望美は顔を半分上掛けで隠した。 「…いいえ、大丈夫ですから」 動揺しているのか声が揺れてしまう。 「無理しなくて良いのよ。ゆっくりして」 「だけどすぐに戻れますから」 将臣が戻ってしまったことをうだうだと引きずりながら、望美は顔を完全に隠した。 「春日さん、気分が悪くなったら、言うのよ。向こうで仕事をしているから」 「はい、有り難うございます」 将臣が保健室からいなくなるのが、辛くてしょうがない。 カノジョがいる体育館へ戻ってしまったのが、嫌でたまらない。まるでカノジョが将臣の帰るべき場所のような気がするから。 近いのに届かないひと。 それを思い知らされたような気分だ。 望美は瞳に涙を滲ませると、上掛けに染みを作った。 |