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欲望で頭がぼんやりとしたままで、夕食時間を迎えた。 お気に入りのノースリーブワンピースを身に纏い、海の見えるロマンティックな食堂で食事を楽しむことになった。 あかね色から紫だちる夕焼けが、海に映えてとても美しい。 望美はうっとりと海を見つめた。 湘南の夕陽がノスタルジックのならば、沖縄の夕陽はロマンス映画のラブシーンにふさわしいほどロマンティックだ。 このような風景を将臣とシェアが出来るのが、何よりも嬉しかった。 こころが甘い恋の色でいっぱいになる。 食事が運ばれて来たのに、望美は海にこころを奪われていた。 「ほら、カルパッチョが来たぞ」 「うん」 将臣に声を掛けられて、望美は顔を上げた。 夕陽に照らされた将臣は、とても精悍で、いつもよりも数倍素敵に思える。 ドキドキし過ぎて、感覚がおかしくなりそうだった。 「ほら、食えよ」 「うん、有り難う」 将臣が、カルパッチョを取り分けてくれ、望美に差し出してくれる。 ずっと子どもの頃から一緒にいるせいか、将臣は望美の食べ物の好みや、食べられる量を熟知していた。 そのせいか、皿に乗せられたカルパッチョも適度な量になっている。 「夕陽が何よりの演出になっているね」 「確かに綺麗だが、夕陽は俺たちの腹をいっぱいにはしてくれねぇ」 「確かに。将臣くんらしいね」 望美がくすくすと笑いながら、将臣を見ると、少し照れの混じった膨れ面をした。 「悪かったな。ロマンティックのかけらもない男で」 「そこが良いんだよ」 望美はつい本音を言ってしまい、慌てて口をつぐんだが、既に後の祭りだった。 将臣はほんのりと顔を赤らめながらも、望美をこの上なく優しい瞳で見つめてくる。 優しさのなかに、艶やかな甘さを見つけ、望美は心臓が音を立てて暴れ出すのを感じた。 どうしようも出来ないほどに暴れ狂った鼓動は、最早、暴走の域を越えてしまっている。 「あ、カルパッチョ、美味しそうだから食べようかなー」 動揺し過ぎているのを知られたくなくて、望美は乱暴にフォークを皿に突っ込んだ。 「なかなかだねー」 誤魔化すように口をもぐもぐと動かしたが、全く味なんて感じない。 カルパッチョというよりも、ゴムと雑草でも食べている気分だった。 「新鮮な魚だからな」 将臣は気付いているのかいないのか、おかしそうに望美をちらりと見つめた後で、フォークを進めていた。 将臣ばかりを意識し過ぎてしまい、望美の視線は、つい形の良くて薄い唇に集中してしまう。 食べる姿はなんてエロティックなのだろうか。 益々、躰の熱も、鼓動もヒートアップしてしまう。 「おい、しっかり食べておけよ。これから体力使うからな」 体力を使う。 望美の妄想は、これから起こるかもしれない夜の出来事に集中してしまう。 確かに体力はいるかもしれない。 想像するだけで耳まで真っ赤になってしまった。 具体的にどうするのか、ああするのかなんて、経験も知識もない望美にはサッパリ解らない。 故に、妄想は歪んだ形になってしまう。 「そ、そうだね。た、体力ってやっぱり、い、いるよね」 望美が言葉を吃らせながら焦っていると、将臣は直ぐに何を考えているのか、気付いているようだった。 「確かに体力はいる。明日は、一日、海でダイビングのレッスンをするんだ。当然だろ?」 笑いを堪えきられずに、将臣は喉を鳴らしながら呟く。望美を見つめる瞳は、たっぷりとからかいが含まれていた。 「あ、そ、そうだよね。た、体力、体力、つけなくっちゃ!」 声を上づらせてしまったものだから、益々、将臣の思う壺だ。 望美は不自然に視線を泳がせて、余り味のしない料理を食べ続けていた。 デザートが始まると、望美の意識は更に鉄のように熱くなる。 甘くて美味しいデザートも、今日は緊張し過ぎてしまい、いつものように別腹だと騒げない。 折角のとっておきのデザートも、もうどうでも良いことのように思えた。 デザートが終わると、将臣が立ち上がる。 「明日もダイビングでしごくからな。朝早いし、部屋に戻るか」 「う、うんっ」 いよいよだ。 そう思った瞬間、心臓が今までにないぐらいに大きく跳ね上がった。 望美は潤滑油が行き渡らないロボットのように、ギクシャクと立ち上がった。 その姿を、将臣は苦笑いをしながら見つめている。 その態度が姿が、自分に比べるとたっぷりと余裕があるように思えてならない。 同い年。 だけれど、異世界に飛ばされた際の時空軸の影響で、将臣のほうが精神的に随分と大人びている。 望美には、それが切なくてどこか悔しい。 緊張の余りに、足元がおぼつかないままでいると、将臣の大きな手が、しっかりと握り締めてくれた。 「ほら、酒も飲んでねぇのに、ふらふらすんなよ」 「大丈夫だよ。だって意識はスッキリハッキリしているんだもの」 「ホントかよ?」 プールサイドを歩きながら、将臣は疑いの目を望美に向けて来る。 それが悔しくてムッとすると、望美は繋がれた将臣の手を離した。 「だってまともだよ。私は平気だもん」 望美は、小さな子供のように、わざと、プールサイドとプールのギリギリ境界線を歩いて見せた。 「酔っ払いじゃ、こんなこと出来ないじゃないっ!」 「そうだが、マジで危なっかしいから止めとけ。プールに落ちちまうぞ!?」 将臣が手を差し延べたが、望美はそれを振り払った。 「大丈夫だっ…、きゃあっ!」 「おいっ!」 これぞ余りにもお約束。 望美は体操選手も一目置いてしまうほどに、見事な美しさでバランスを崩す。 プールにこのまま真っ逆様に落ちるのを阻止しようと、将臣の鍛えられた腕が伸びたが、無駄だった。 将臣がしっかりと望美の腕を掴んだ瞬間、真っ逆様にプールに落ちた。 激しい水飛沫が舞い、沈みそうになったが、直ぐに将臣に引き上げられた。 びしょ濡れになった躰を力強く抱き締められる。 「ったく、このバカっ!」 「ご、ごめん…」 望美がうなだれると、将臣の腕の力は更に強くなる。 「ったく、人騒がせなヤツだぜ」 将臣の呆れ返る声に、望美はうなだれるばかりだった。 将臣は軽々と泳いで、プールサイドまで辿り着くと、望美を抱き上げたままで、プールから上がった。 ずぶ濡れのままでお姫様抱っこをされて、客室へと向かう。 「だ、大丈夫だよ。ちゃんと歩けるから」 「信用出来るかよ。それに」 将臣は一旦言葉を切ると、ちらりと望美を見つめた。その瞳は、潤んでいる。 「…白いワンピースだから、透けて見えるんだよ…」 「えっ!?」 思わず息を呑むと、将臣は瞳の縁を赤らめる。 「お前のそんな姿、誰にも見せたくはねぇんだよ…」 ぶっきらぼうに照れる姿が、とても可愛い。 望美はこころから微笑むと、将臣にしっかりと抱き付いた。 「…有り難う…」 本当にこころから思う。 このひとを好きになって良かった。 このひとにならば、総てを預けることが出来ると。 |