*旅の甘い香り*


 まるで野獣のようなキスが、唇を支配する。
 今までのキスは、将臣が抑えてくれていたことを、ありありと感じた。
 将臣の唇は、望美の唇を強く吸い上げて行く。総てを奪われ、与えられて、望美のこころがきゅんと音を立てて締め付けられた。
 唾液が激しく音を立てて流れても、将臣が吸い上げる。
 恋を超えて愛があるから、どんなことも嫌じゃない。
 むしろそうすることが嬉しい。
 望美もまた、恐る恐る将臣の唾液を飲み込んだ。
 まるで愛を飲み込んだように思えてしまう。
 将臣は更に強く望美を引き寄せてきた。
 将臣はより鋭利な角度で唇を重ねると、舌をそっと差し入れてくる。
 口腔内を舌先でなぞられ、首筋から背中にかけて甘い旋律が走った。
「…んっ」
 自分の声とは思えないほどの悩ましい声が唇から漏れる。
 好きが熱く沸騰してきて、望美の総てをとろとろに溶け出していった。
 将臣の首にしっかりと腕を巻き付けて、抱き寄せる。
 大好き。
 だから怖くない。
 望美が抱き付いたことを同意と汲んだ将臣は、背中に大きな手を回してきた。
 将臣はバスローブのなかに手を差し入れると、乳房の周りをなぞってきた。
 将臣の吐息が激しく乱れて行く。
「ま、将臣くん…っ!」
 恋情に溺れて窒息してしまいそうになったところで、ようやく将臣は唇を離してくれた。
 唾液の糸が、ふたりの間に絡まる。それは離れたくないと言っているようにしか、見えなかった。
 将臣は優しくベッドに寝かしてくれると、バスローブを外してきた。
 ほんのりと琥珀色の照明が灯り、ロマンティックなのか笑える場面なのか、何だか訳が分からなくなる。
 いつもなら、ムーディーなんて雰囲気に吹き出してしまいそうになるが、今日に限ってそれはなかった。
 将臣の手が、白い肌を琥珀色の灯に晒す。
 肌を綺麗に見せる照明の色だが、それでもやはり、見られるのは恥ずかしい。
 肌は白かろ、薄桃の色に変化する。
「ま、将臣くん、は、恥ずかしいんだけれど…」
「そんなことねぇよ。こんなに綺麗な肌をしているのに…」
 将臣の低いかすれた声と、熱い視線が望美の肌を更に焦がした。
 視線も声も男の人そのものだ。
 幼馴染みは、もうこんなにも男なのだ。
 望美がどうしようもないほどに女なのと同じように。
 まるで知らない素敵な男の人のようだ。
 望美の羞恥心は明らかにヒートアップしていく。
 将臣の視線にドキドキして、総てを晒されてしまいそうな気がしてたまらない。
 たまらなくなって、望美は目を強く瞑った。
「…だけど…恥ずかしいから…灯を消して…、お願いだよ…」
 声が震えるのも構わずに将臣に懇願をすると、薄い笑い声が漏れた。
「…だって恥ずかしいんだよ? 大好きなひとに見られるのは、ホントに恥ずかしいんだよ?」
「…だけど俺は見たい」
 艶のあるキッパリとした声だった。
「将臣くん…」
「さっき、バスタブから引き上げたお前は、どうしようもないほどに綺麗だった…。マジで綺麗な躰をしているなって、じっと見てしまうぐらいにな」
 将臣の声には、愛と優しさ、そして欲望と情熱が隠れてしまっている。
 とっておきすぎる素敵な声。
 全身が欲望で濡れてしまいそうだ。
「…やっぱり見たんだ…」
「見た。惚れた女の躰を見たいと思うのは、男なら当然だと思うけれどな」
 将臣は意地悪に笑うと、望美のローブをゆっくりと躰から外していく。
「…マジで綺麗だ…。お前のまっさらな肌に俺を刻み付けたい」
 降参だ。
 将臣の色気にはもう逆らうことなんて出来やしない。
 望美は覚悟を決めると、目をしっかりと開けて将臣を見た。
「…良いよ…。だけど、私の肌を見て、笑わないでね…」
「誰が笑うかよ」
 泣きそうな望美の瞼に、将臣はソフトタッチのキスをすると、ローブを一気に脱がしてきた。
 もう将臣に隠すものなんて何もない。
 将臣だけに、十七の自分を晒す。
「…ホントにマジで綺麗だな…」
 将臣は惚れ惚れするような声で呟くと、眩しそうに望美の総てを見つめた。
 耳が熱くなる。
 称賛してくれるのが嬉しくて、けれども恥ずかしくて…。
 鼓動を高まらせながら、望美は将臣を見た。
「…将臣くんの総ても見たいよ」
 こころからの願いだった。
 生まれた時から殆ど一緒に過ごしながらも、違う性としてお互いを意識し、惹かれ合ったふたり。
 だからこそ、明らかな自分達の違いと、それ故の美しさを確かめたかった。
「…解った」
 将臣は、少し照れたような笑みを浮かべると、シャツを器用に脱ぎ始めた。
 胸から腰にかけてのラインががっしりとしていて、望美の官能を刺激する。
 昼間、太陽の陽射しのなかでみたのとは印象が違った。
 昼間見た将臣の胸は、鍛えられた彫刻のような力強さを秘めた美しさがあったのに、今の将臣の胸は、しっかりと鍛えられたなかに野獣のようなしなやかさを秘めている。闇に似合う麗しさだと、望美は思った。
 本当にこころの総てを支配されてしまいそうな美しさ。
 同じように綺麗なのに、昼と夜とはこんなにも印象が違うのかと、改めて思い知らされた。
「…綺麗だね」
「お前以上に綺麗なもんなんてあるわけねぇだろ」
 将臣は笑いながら望美をしっかりと抱き締めると、耳たぶに唇を寄せてきた。
「一生離さないし、一生どんな男にも触れさせねぇからな。覚悟しろよ?」
「私だって、将臣くんにすがりついたまま、一生離さないんだから。他の女の子には絶対に触れさせないんだからっ! 覚悟してね?」
「そんな覚悟は大歓迎だ」
 将臣はギュッと音を立てるほどの抱き締めてくると、首筋に唇を強く押し当ててきた。
 望美が自分の女なのだと、高らかに宣言をするかのように、痣になってしまうほどに強く肌を吸い上げてくる。
 息が乱れて、それに反応するかのように、望美の繊細な肌が小刻みに震えた。
 まるで音を奏でているかのようだ。
 肌が、声が、感覚が。総てが、将臣を愛していると高らかに合唱しているように震えた。
「…あっ…、将臣くんっ!」
 首筋や鎖骨の周りをキスのアクセサリーで彩られて、下腹部の深い場所が、火傷でもするんじゃないかと思うぐらいに、一気に燃え上がった。
 自分ではどうしようも出来ないほどの、熱くて気持ち良い疼きに、思わず将臣にしがみついた。
 燃え上がり始めたお互いの肌が、ぴったりと重なりあう。
 熱くて気持ちが良いほわほわとした感覚に、望美は目を閉じた。
 このままこの感覚に溺れてしまいそうだ。
 将臣が望美の肌の上で、ゆっくりと唇を動かし始めた。
 まるで期待をするかのように乳房が震えた瞬間、唇がそこに到達していた。
 柔らかな肌に口付けられると、先ほどよりも更に強い感覚が襲ってきた。
 敏感な余りに、唇から呻き声が漏れる。
「…ま、将臣くん…!」
 将臣の大きな手が、とうとう揺れる乳房を捕らえた。
 望美は思わず全身を硬くする。
 触れられるだけで、何もかもがコントロール出来なくなるような感覚に、恐れをなしていた。
 なのに。
 こんなに躰が硬くなるのに、どうして止めて欲しくないんだろう。
 どうしてもっと触れて欲しいと思うのだろう。
 答えにある欲望と愛に、戸惑いを隠しきられなかった。





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