*旅の甘い香り*

8


 熱い。
 そして呼吸困難になってしまうほどの力を秘めている。
 これを受け入れる。
 そう考えるだけで、望美は思わず生唾を呑んだ。
 一気に、恥ずかしさと嬉しさ、そして恐ろしさが込み上げてきた。
「いいか…?」
 将臣の甘い大人びた声が、望美の欲望をくすぐって来る。
 怖い。なのにひとつになりたい。
 望美は皺が寄ってしまうほどに強く目を閉じると、将臣に小さく頷いた。
「…望美…」
 熱くて甘い指先が、望美の顔をなぞってきた。
 こころがキュンと締め付けられるような幸せな切なさは、望美に幸せな感覚をもたらす。
 ふいに将臣の微笑みが聞こえた。
「…俺に任せていれば、良いんだ…。途中で止めたかったら、言え。お前のためなら、止められるから…」
 将臣の優しい声と心遣いに、望美は涙が出そうになる。
 男のひとは、途中でなんて止められないのは、何かで聞いたことがある。将臣には酷だろう。
 それに、そんなことを将臣に強いることなんて、出来るはずもない。
 将臣が誰よりも大切なのだから、受け入れたい。
 痛みがあるかもしれない。
 泣いてしまうかもしれない。
 それでも、将臣とひとつになってみたかった。
「…大丈夫だよ…。将臣くん…。大丈夫…。だから、…ね?」
 声を掠らせながら、望美は微笑みながら呟く。
 将臣の瞳が欲望に輝くと、一気に強く抱き竦められた。
「…止められねぇからな」
「…うん…」
「止めねぇからな」
「うん…」
 将臣だからこそ受け入れたい。受け入れられる。
 望美は覚悟を含めた総てを、将臣に託した。
 腕を伸して、将臣の逞しい躰を抱き寄せる。
 熱くて逞しい。
「…望美…。愛してるぜ」
「将臣くんのことを、私も愛してるよ」
 将臣は望美の鼻を軽くキスをすると、力強いものをしっかりと入口にあてがった。
「…あっ…!」
 入り口が押し広げられる。
 ピリピリした痛みが、じわじわと入り口から全身へと広がってくる。
 将臣がほんの少しだけ腰を進めてくると、今度は更に痛みが滲んだ。
 言葉に出来ないほど、今までに知らなかったような圧迫が入り口を支配する。
 男と女がひとつになるという行為は、望美の総てを飲み込んだ。
 感覚がそこばかりに集中してしまい、涙が滲んでくる。
 何もかもを忘れ去ってしまいそうだ。
「…痛いよ…」
 怪我をした時とは違う、酷く切なくて無防備な痛みに、望美は声を漏らした。
 余裕なんかない。
 ただ痛みだけで、総てを飲み込まれて行く。
 将臣は望美をなだめるように、瞳に、頬に、唇に、可愛くて甘いキスをくれた。
「…ゆっくり力を抜いて、呼吸しろ…」
 将臣に指摘されてようやく、かちかちになっている自分に気付いた。
「ゆっくり躰から力を抜け…。怖かったら、いつもみたいに俺にしっかりと掴まったら良いんだ…」
 掠れてひっくりがえり気味の将臣の声が、余裕がなくて、とても艶やかに聞こえる。
 望美は、声や躰にようようにゆっくりと力を抜いていった。
「…そうだ…。緊張を抜いていくんだよ…。そうしたらもっと濡れて、痛くなくなる…。緊張し過ぎて濡れないから、痛いんだよ…」
 将臣の余裕ある言葉も、今の望美には関係ない。もう精一杯のことしか出来ない。
「…あっ!」
 将臣の指が、快楽を運ぶように、望美の敏感な肉芽をくすぐってきた。
 甘い旋律が全身を走り抜けて、熱くい気持ち良さが、子宮の奥へと広がってくる。
 すると僅かに痛みが薄らいだ。
 将臣はそれをタイミングとばかりに、更に腰を進めてくる。
「…あっ…ん!」
 躰のなかが圧迫に包まれて、将臣でいっぱいになる。
 幸せな痛みとそれに反する気持ち良さに、望美の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「…ま、将臣くん…っ!」
 将臣の猛々しい雄としての力強さに、望美は思わず抱き付いてしまう。
 怖かった。
 なのに離れたくないなんて、麻薬のような感覚だ。
 望美が抱き付くと、将臣は更に腰を進めて来た。
 先ほどは内壁が抉られてしまうと感じるほどの痛みがあったというのに、今は全くそんなものは感じなかった。
 スムーズに将臣が進み、繋がったところから、淫らな水音が高らかに誇らしく響いていた。
 将臣の呼吸も激しく乱れてきた。
 同時に、痛いほどの圧迫が望美に襲いかかって来た。
「…まっ…っ!」
 将臣の力強い屹立が、望美を一気に貫いてくる。
「やあっ!」
 流石に、心臓が止まってしまうかもしれないほどに、強い衝撃を感じた。
 まるでひとつの時代のピリオドを打ったような喪失感が、望美に襲いかかってくる。
 涙が滲む。なのにそれは、何処か華やかな涙だった。
 将臣は楔で望美の奥を、強く貫いたあとで、一旦、肌を震わせながら、動きを止める。
 乳房に落ちる将臣の汗と、苦しそうな息遣いに、余裕が全くないことを悟った。
 将臣も同じなのだ。
 そう思うと、躰から余分な力が抜けていった。
 将臣は望美を強く抱き締めたあと、まるで様子を伺うかのように慎重に、腰を緩やかに揺らしてきた。
「…あっ…」
 内壁からたっぷりと愛の蜜が滲んできて、望美の痛みを消し去り、代りに、掛け替えのないほどに熱い快楽を運んできてくれる。
 将臣が動く度に、快楽はどんどん力を増して大きくなっていった。
 なんて素敵で気持ち良い行為なのだろうか。だが、そんなことを感じる余裕などないほどに、将臣の動きに加速がついてきた。
「まっ、将臣くん…っ!」
 思考回路が破壊されてしまうほどに気持ちが良くて、涙が全身を濡らしていく。
 頭のなかなんて真っ白過ぎて、ただ喜びのハレルヤが聞こえるだけだった。
 将臣は、望美の総てを自分色に染め上げてしまうような勢いで、激しく突き上げてきた。
 こんな感覚今まで知らない。
「あっ、あっ! 将臣くんっ…!」
 将臣が激しく最奥を突き上げてくるたびに、周りの景色は黄色く染まっていった。
 将臣に捕まっていないと、どうすることも出来なくなり、望美はただただしがみついた。
 目が開けられない。
 なのに光が満ち溢れた世界が、瞼の奥に広がっていく。
「…あっ! 将臣くんっ!」
 鋭い楔が望美の最奥に、決して消えることがないだろう痕を刻み付ける。
「…将臣くんっ…!」
 刻まれた痛みと快楽。
 それらがひとつになって、望美に襲いかかる。
 躰がふわりと舞い上がった瞬間、総てが溶けて、なくなってしまった。





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