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新しいベッドも届き、ふたりは新しい生活を新たにスタートさせる。 入学式まで、甘い生活を満喫したいという将臣の意向で、毎日、溶けてしまうのかと思うぐらいの生活を送っている。 「大学が始まったら、こんなことは出来ねぇからな。今のうちだ。俺もバイトが始まるし」 名残惜しそうに言う将臣に、望美も頷いた。 「そうね。だけど、凄い堕落した生活みたい」 「嫌か?」 「まさか」 望美がくすりと笑うと、それに同調するかのように将臣もフッと微笑む。 ふたりでこうしてくっついてだらだらするのも、今までは出来なかったこと。一緒に住むから出来る日だまりのような時間に、望美は幸せを感じた。 「たまの休みの日に、こういうふうに過ごしても、構わねぇよな」 「まあね」 将臣はごろりと横になると、望美の膝を枕にして、その脚を撫でる。 「…もうっ!」 「いいじゃねぇか」 「オヤジみたいだよ?」 「いいじゃねぇか、減るもんじゃなし」 将臣は悪びれずに言うと、望美は甘く微笑みながら髪を指ですく。こんな甘えた一面を見せてくれるのは、恐らく自分にだけだろう。ならばたっぷりと甘えさせてあげたかった。 笑ったり、ふざけたり、時間が許せばお互いに抱き合ってみたり。 新しい生活が与えてくれる僅かな時間を、ふたりはたっぷりと楽しんだ。 新しい世界に踏み入れる。 そんな気分で、ふたりは入学式に臨んだ。 桜の香りがする鈍色の光のなかで、望美は頬を染めて、緊張の眼差しを将臣に湛える。 「桜の花片ついているぜ」 指先で将臣に花片を取られると、ドキドキする。横顔がとても精悍で、更に頬を熱く染めた。 「あっ…!」 将臣が隙をついて、首筋にキスをしてくる。 不意に行われた行為に、望美は脚が震えた。 「もう、バカ…」 「お前が可愛いすぎるから、いけねぇんだよ」 「あ! 将臣! 望美ちゃん!」 「ッ将臣くん、望美!!」 母親たちとは大学の入り口で待ち合わせをしたが、ふたりを見るなり意味深の視線を向けるてきた。 望美が着ているピンクのスーツの首筋あたりに、くっきりと将臣がつけた痕が目立っていたから。いくら消そうとしても、どうしても消すことが出来なかった痕だ。 「楽しんでいるみたいね、新しい生活を」 からかうように言われて、将臣は目の周りを一瞬、ほんのりと朱くさせた。それを気付いたのは、望美だけだ。母親たちにはもちろん見せない。 「まあな」 母親たちが余りにもからかうように笑うものだから、望美は真っ赤になり、将臣は冷たく睨みつける。望美以外の人間には、誰であってもクールな表情しか見せないのは、将臣の独特なスタンスだった。 式の後、母親たちと食事をした後、将臣はアルバイトのためにひと足早く退席をする。 「今夜、遅くなるからな。先に寝ておけよ」 「うん」 ルームシェアリングをする仲間というよりは、完全に夫婦のような雰囲気だった。そのせいか、母親たちは更に楽しそうに目を輝かせていた。 「望美ちゃん、将臣とは上手くやっている?」 「大丈夫ですよ。毎日が凄く楽しいですから」 望美はドキドキしながら、母親のインタビューを受けている。こんな状況が想像出来たからか、将臣は先に行ってしまったのかもしれない。 「それでね、ちゃんと避妊とかはしているの?」 いきなりストレートにきかれてしまい、望美は言葉に窮しながら、曖昧に笑った。 「…間違い、起こしてもいいのよ? お母さんたちは応援するし、孫ぐらいはちゃんと面倒を見るしね」 「気持ちだけ貰っておくね」 母親軍団の熱く語る様子を見ると、望美は苦笑してしまう。 こんなに間違いを期待されているカップルは、自分たちぐらいだと思った。 だが、間違いを起こしても構わないような気分になる。 「こんなことを聞いたら将臣くんが怒るよ」 「確かにね。だけど、間違いをしていいからね」 こんな親がいても良いのかと、望美は思わず頭を抱えてしまう。だが、母親たちの想いは、有り難く受け取るだけ、受け取っておこうと思った。 入学式が終わった後、将臣は直ぐに着替えてアルバイトに行ってしまった。 望美は母親たちとランチをして別れた後、望美は主婦さながらにスーパーに向かい、買い物をする。 こうしているとまるで主婦にでもなった気分になり、ほわほわとした幸せな気分に浸ることになる。 それが嬉しかった。 夜遅くに将臣が帰ってきて、すまなそうな表情を向けて来た。 「お袋たち、またやいやい煩かっただろ? 間違い起こせだの、なんだの」 「そうだよ」 望美は苦笑しながら、将臣に同意をしたが、どこかにんまりと笑っていた。 「間違いってよ…、まだまだ俺達はやることいっぱいあるから、んなこと考える暇もねぇのによ」 将臣は水を飲み干しながら、少しイライラしたように答える。それが少し辛い。 「…そうだね…」 まるで将臣との間に出来る子供の存在を否定されているような気がして、望美は切なくてたまらない。 引き攣った笑みしか浮かべられなかった。 「忙しくなるもんね」 「そうだな。これからバイト三昧の日々が続くからな」 「そうだね」 「風呂に入ってくる」 「うん…」 将臣を見送った後、望美は溜め息をつく。 将臣が言うことはもっともだし、不実でないことは解っている。 なのに望美は切なくてたまらない。 「ちゃんと解っているのにね…。なのに女の子の部分が切なくさせちゃうんだよ…」 心ではなく、子宮レベルで感じていることを、望美は充分に解っている。だから辛いのだ。 将臣が浴室から出ると、望美は入れ代わるように浴室に入った。切ない気分を洗い流そうとシャワーを浴び たが、決して晴れやかな気分にはなれやしなかった。 大学生活は、とにかく馴れるのが大変で、望美たちはバタバタとした日々を送っている。 四月は気がついたら終わり、ゴールデンウィークに突入していた。鈍色だった光が、夏に向かって躍動感に満ちあふれている。 なのに、望美の気分は、太陽の光のように上昇はしない。 原因は、将臣の忙しさだ。 望美は折角の休みにも、アルバイトに明け暮れる将臣を許しながらも、どこか疎外感を感じずにはいられなかった。 折角、一緒に住んでいるのに、これでは意味がないような気がする。 大事にされていないかもしれないと、感じてしまう始末だ。 話す機会は鎌倉にいるときよりも少なくなり、セックスする回数だけが増えている。 まるで将臣の性欲処理にされているような気分だ。 接触は本当にセックスしかない。 暇がないぐらいに、将臣はアルバイトに精を出している。かと言って、学業を疎かにしているわけではなく、そのあたりはしっかりしていた。 アルバイト、勉強、そして望美。これが優先準備だと、思わずにはいられなかった。 ゴールデンウィークは、実家に戻ることにしたと宣言すると、アルバイトがあるから余り一緒にはいられないと、将臣はあっさりと認めてくれた。それが冷たさを感じずにはいられなかった。 ゴールデンウイークを鎌倉で過ごした後、望美はリフレッシュした気分で、将臣と関わることが出来た。余りに近くて、いつもかつも一緒にいるが、離れてみると好きだという想いを確認することが出来た。 それでも、将臣の態度は変わらなくて、望美は余計に落ち込んでしまう。 蜜月はもう終わってしまったのだろうか。 自分はただの都合の良い女に過ぎないのだろうか。 そんな想いを払拭できない自分が、嫌でしょうがない。 そんな日常を打開したいと思った頃、望美は新歓コンパに誘われた。気分を変えるために、参加することに決めた。 「今日は新歓のコンパがあるんだよ。だから、遅くなるね」 「俺もそれに行くから、帰りは一緒に帰ろうぜ」 「うん」 望美は元気なく笑うと、将臣の手をぎゅっと握りしめる。 私以外の女の子を見ないで欲しい。 我が儘な感情が剥き出しになる。 コンパの会場でも、望美は将臣の横に座ろうとしたが、それを将臣を狙う女の子たちが許してはくれない。 孤独を感じた------ |
| コメント キリ番で書いた「筒姫」の前段階のお話です。 |