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久しぶりにしたオシャレは誰のためなのかと目の前に座る将臣を恨めしく見る。。 望美は、春らしいワンピースに白いGジャン、ハイヒールの女の子らしいスタイルで、コンパに向かった。 将臣と一緒に出掛けるために買ったワンピースだ。 可愛くて一目惚れをしたのだが、結局は出掛ける機会もなく、着るチャンスを逸してしまったワンピース。 将臣がコンパにやってくるのは知っていたから、可愛いところを見せて、自分だけを見ていて欲しかった。 なのに、将臣は自分とは違う女の子の横に座ってしまった。 そこは自分の席なのにと、望美は叫びたい。 「望美、それすごく似合っているよね! スタイル良いし、モデルみたいじゃないっ! 望美がメチャモテ女子になっちゃうだろうなあー」 友人はこちらが照れるぐらいに褒めてくれるものだから、とても恥ずかしかった。 「そんなことないよ」 「そんなことあるっ! だって望美を狙っている男子が多いって聞いたもん」 一瞬、将臣に睨まれたような気がして、体がすくむ。まるで針の筵にいる気分だ。 楽しそうに笑う友人たちを尻目に、望美は笑えなくなってしまっていた。 望美は友人に隠れるように目を伏せる。 ここで小さくなって、時間をやり過ごせばいいのだ。 「有川くん、やっぱり、あなたのレポートは素晴らしいと思うの」 甘ったるい声が聞こえる。 何故か背中に虫酸が走る。 望美が顔を上げると、将臣の横にいる今時の巻き髪が映えるスタイルの良いモデル風の女の子が、甘えるように肩に凭れているのが見えた。 ふたりは仲よさ気に、楽しそうに話をしている。 そんなに将臣にベタベタしないで欲しい。 そこにいるべきは自分なのに。 我が儘の恋心が頭を擡げ、望美を苦しめる。 「あ、有川くんっ! 私、高橋って言いますっ!」 気付くと、横にいる友人が、将臣に一生懸命挨拶をしている。 そのうえ、次々に女の子たちが将臣に自己アピールをしているではないか。 流石にこの展開には驚く。 もてるのは何となく察しがついたが、学部を越えてこんなにもてるとは思わなかった。 高校生の頃、将臣と望美は公認の仲だったせいか、誰もちょっかいを出すような相手はいなかった。だが、今は違う。 ここにいるものたちは、ふたりの関係を全く識らないものばかりだ。 気分が悪くなる。 総ての女の子を蹴散らして、将臣が自分のものだと宣言してしまいたくなる。 拳を強く握り締めた。 「あ、春日さん、いたんだ」 よく講義で一緒になる山崎が、望美の横にさりげなく座る。 ホスト風な雰囲気だが、その整った顔立ちと優しい雰囲気で、女の子たちにも人気があった。 「暗いね? 気分でも悪いの?」 「そんなこと…」 「だったら笑ってよ。俺は春日さんがいるから今日ここにいるんだし」 甘い台詞をはかれて、望美は正直驚いてしまった。 「春日さん、俺はずっと君を気にしているんだよ? いつになったら俺の気持ちに気付いてくれるかって…」 「あ…」 確かに魅力的な男の子であるとは思うが、ただそれだけだ。惹かれることなんて、考えられないのだから。 ふと、将臣と目が合った。 切れるように冷徹な眼差しをこちらに向けている。あれは還内府のそれだ。 背筋が凍るような気分になった。 その上、わざとなのだろう。巻き髪の美女には甘い微笑みを向け、いちゃつくような仕種すらしている。 こんなのは見たくもない。 「どうしたの…? 具合悪い?」 「…うん。ちょっと席を外すね」 「付添しようか?」 「大丈夫だから」 優しい言葉をさりげなくかわして、望美はハンカチを口に宛てながら、バッグを持って立ち上がった。 新しい酸素がいる。 どうにかなってしまいそうだ。 「悪ぃ、トイレ」 将臣が少しずらして、望美の後を追ったことに、勿論気付かなかった。 吐きそうになっていると、急に背中を掴まれた。 「大丈夫かよ!?」 「あ…」 怒ったように睨み付けてくる将臣に、望美は思わず俯く。 「大丈夫だよ。少しだけ休憩した良くなるし…。将臣くんは、みんなのところに帰っても大丈夫だから…」 ひとりにして欲しい。 そんな願いとは裏腹に、将臣は腕を掴んで離さない。 「んなに顔色が悪ぃのに、ほっとくわけにはいかねぇだろっ」 将臣はそこまで言ったところで、眉間にシワを寄せる。 「望美…、まさか…お前…」 すぐに将臣が言わんとしていることは、理解することが出来た。 「してないよ…。大丈夫。将臣くんが…心配しているようなことは起こってないよ…。そうなったら…、私がひとりで何とか…するから…大丈夫だから…」 将臣が間違いを嫌がっているのを解っているから、望美は心配させないように言った。 顔を見ずに言い、そこから立ち去ろうとする。だが、将臣の指が腕に食い込み離してはくれなかった。 「来い! お前にはちゃんと言い聞かせねぇと解らないみてぇだからな」 「ちょっ! コンパの途中だよっ!」 「会費を置いて帰れば、何も言わねぇさ。お前が気分が悪いって言い訳も出来るしな」 有無言わせないような眼差しを送られ、望美はそれ以上は逆らえなかった。 将臣に子供みたいに腕を引かれたまま、望美は幹事にお金を払う。 「こいつ気分が悪いみてぇだから、連れて帰る」 「了解」 ふたりで店を出た後、将臣は急に優しい眼差しになった。 「気分は?」 「大丈夫だよ。ひとに酔っただけかもしれないし…」 将臣はぎゅっと強く手を握り締める。強いのに優しい雰囲気がある。 「…お前、勘違いしてると思うが、俺自身は別にガキが出来ても構わないと思っている。だから、もし、出来たりしたら、正直に申告してくれ。お前が嫌がるような、傷つくような結論は出さないから」 将臣は静かな声で語る。 聞けないと思っていた言葉が聞かれ、望美は泣きそうになった。 「…将臣くんは…間違いを起こすのが嫌だと思ってた…」 望美は声を振り絞るように言いながら、涙を堪えることが出来ない。 「嫌じゃねぇさ。お前に負担がかかったら困るから、避妊してただけだ。俺だって、お前を直に感じたいさ…。ホントはな。でももし出来ていたら…、俺はお前に産んで欲しいって言ったと思う」 将臣は、望美の肩を引き寄せ、守るように抱いてくれる。それが切ないぐらいに嬉しかった。 「…ありがとう…。将臣くん…が…、凄く避妊にこだわってたから…、私…ちょっとショックだったんだ…。だって、私の子供はいらないのかなって…。それで切なくなって…」 「で、よそよそしかったのか…」 「だって将臣くんだって、よそよそしかったじゃない。直ぐに寝たりして…」 望美が恨み節を言えば、将臣は慰めるように髪を撫でる。 「…俺はお前がよそよそしいから、不安になっただけだ…。ガキのことでなんかじゃない」 「…じゃあ、もし、赤ちゃんが出来たとしたら…」 「いるに決まっているだろ!?」 低い声で叱るように言われて、望美はまたべそをかいてしまう。 「取り越し苦労だ、ったく…」俺がどれだけお前に惚れているか、解ってねぇだろ?」 「将臣くんだって、私がどれぐらい好きか解ってないよ」 将臣はフッと微笑むと、望美を自信溢れる眼差しで見つめてくる。 「俺がどれぐらいお前が好きか、躰の奥のところで感じさせてやるよ」 淫らな期待に、望美の肌は艶やかに輝いた。 「直でお前を感じさせろよ…?」 |
| コメント キリ番で書いた「筒姫」の前段階のお話です。 |