愛の手紙

2


 アリオス…。
 手紙を読みながら、私はその名前を何度も反芻した。
 懐かしく、そして心を熱く温める名前。
 どうしても返事をしたくて、私はまた手紙を書くことにした。

 アリオス様。
 お手紙有り難うございました。
 あなた様のお手紙を拝見し、とても嬉しく想いました。
 私の趣味は食べること。おいしいものをいっぱい食べるのが趣味です。太ってはいないのですが、いっぱいいつも食べてしまいます。
 美味しいものをいっぱい食べるのは、本当に幸せです。特に甘いものが大好き。
 ケーキを食べられることがなによりもの幸せなのです。きっとあなたのように青空を眺めながら雲を見ていたら、雲の総てがケーキに見えてしま うでしょう。今度、あなたと同じように、雲を見てみます。きっと楽しいでしょうね。
 ではまた! アンジェリーク。

 私はアリオスからの手紙がとても嬉しくて、するすると返事を書くことが出来た。
 心を込めて、一語、一語、丁寧に綴っていたが、それでも余り時間はかからない。
 アリオスへ届くことを願い、私は手文庫に手紙を預けた。
 翌日、手紙はきちんとなくなっていた。アリオスの元に届いたことを確信し、私はとても嬉しい気分になる。
 学校からの帰り、私は友達から逸れて土手へと向かった。
 アリオスの手紙に書かれていた”昼寝”を実行する為だ。きっと、雲を眺めていると楽しいだろう。
 実際に土手に転がって空を見ていると、本当に楽しい。雲が色々な形に変化していくので、見ていて飽きない。
 雲は全部食べ物に見えてしまい、全く私らしい。ふわふわと浮かぶ雲自体はマシュマロに見えたので焼いて食べて見たかったし、シュークリームにも似た雲もあり、本当に楽しい。
 甘くてとろとろとしていて、本当に美味しそうだった。
 ごろごろしているのもとても気持ちが良くて、私は気持ち良い余りに声を大きく上げたくなってしまった。
 雲を見ながら寝転がるのは、なんと幸せなことなのかと想う。
 大好きなひとときになりそうだと、心から想った。

 気持ちの良いひとときを過ごして家に戻ると、早速手文庫を開ける。すると、また一通の手紙が中に入っていた。
 震える手で、興奮しながら手紙を手に取り封を開ける。
 草原の心地の良い香りが、鼻孔を包み込んでくれる。私はそれを胸いっぱいに吸い込んで、アリオスのいる場所を想像した。
 きっと草原が良く似合うひとなのかもしれない。
 不思議と姿をぼんやりとではあるが想像することが出来、髪が風にたなびいている姿が思い浮かぶ。
 くすぐったい気分になりながら、私はアリオスからの手紙の封を開けた。

 アンジェリークへ。
 愉快な手紙をサンキュな。久しぶりに大笑いさせて貰ったぜ。
 おまえが痩せている太っているなどのジャッジは、逢ってからさせてもらうから、ここでは無しな。
 いつかおまえみたいな愉快な女には、観光がてら見に行かせて貰いたいぜ。
 おまえは甘いものが好きらしいな。俺の住んでいる宇宙にもとても素朴だが美味い焼き菓子がある。甘いものは苦手な俺でも食べられるシロモノだ。ジンジャークッキーといって、甘さの中にはぴりりとしたジンジャーが入っていて、さっぱりとした味わいだ。おまえも是非試してみろ。 甘ったるいケーキとは違った、大人の味だ。ケーキを卒業したら食え。美味いぜ。
 俺が好きなものは素朴な家庭料理だ。心も躰も温めてくれるシチューとかの類いが好きだぜ。
 逆に嫌いなものは、豪華な宮廷料理みてえな形式にこだわったゴタゴタしたものだ。あんなもんは食えたものじゃねえ。俺なら願いさげだな。
 後は、ハーブをふんだんに盛り込んだものが苦手だ。あんなものは何処が美味いんだろうな。正直、吐きそうになるぜ。
 今度、また、おまえの面白可笑しい傑作話を聞かせてくれ。
 俺をまた死ぬほど笑わせてくれるんだろうからな。
 じゃあ、またな。
 アリオス。

 手紙を読み終わった後、楽しい会話をした後のような爽快感を私は味わった。
 心が弾み、楽しくてしょうがない。私は何度も読み返しながら、にんまりと笑ってしまっていた。
「私はそんなに食いしん坊じゃ…、あるか…」
 手紙を何度もつんつんと指先で弾きながら、アンジェリークはとても幸せな気分を味わっていた。
 再び、机に向かってアリオスに手紙を認める。愛を込めた幸せな手紙を。

 アリオス様、楽しいお手紙を有り難うございます。私も楽しくて踊りを踊ってしまいそうになりました。
 ジンジャークッキー! 私も大好きです。「おまえは何でも美味しいと感じるだろう」っていうツッコミは無しです。
 確かに食べている時に、至極の幸せを感じる私ですが、これでも食べられないものはあります。
 …下手物が苦手です。
 そのへんに歩いている虫とか料理にしてたらちょっと…。
 甘いものは何でも大好きなんですけれどね!
 あ、私はハーブ料理は大体食べられるのですが、ハーブの入ったソーセージだけは私もダメなのです。なんか、折角の肉の美味しさを半減させていますからね。
 ところで。
 私は今日、土手で寝転がって空を見ました。
 気持ちが良い、素敵な時間を過ごさせて貰いました。
 風を感じながら眠れるというのは、本当に気持ちが良いものですね。私は心からそう感じました。
 雲の形も楽しくて、ふわふわした感じで、美味しそうです。
 綿あめかマシュマロに見えました。時にはとってもおいしい肉まんにも。本当に私は食べ物ばかりです。
 それと。アリオスさんの意地悪過ぎるご質問にお答え致します。
 私は太ってはいませんよ!正確には162センチ42キロですから! 少し痩せているかもしれません。栄養は全くどこについているのかと想うぐらいです。あんなに食べているのにね。
 アリオスさんはイメージ的には、髪は長めでぼさぼさっぽい感じがします。黒髪とか銀髪とか…そんな感じがします。まあ銀髪は私が好きなんだけれど。
 こうして手紙のやり取りをしながら、アリオスさんがどのような雰囲気の方なのか、想像するのも楽しいものですね。
 また手紙を書きます。
 深い友情を込めて。
 アンジェリーク。

 アリオスへの手紙を書くことが、今、私を精神的に支えてくれていた。そのひとときだけが、私を幸せにしてくれる瞬間。
 かつて祖母が見ず知らずの祖父と手紙を交わして結婚に至ったように、私たちは穏やかな愛を育んでいけるのではないかと、心から思えるのが不思議だった。
 手文庫を介した不思議な文通。
 アリオスはどこのひとかも解らない。不思議さだけが私たちを繋いでくれる。
 それでも私には素晴らしいことのように思えた。
 アリオスとの恋は深く穏やかに進行すると想っていた。
 だが、実際にはあんなドラマティックな展開が私たちの運命には、約束されていた。

 手紙を楽しみに帰りながら、私はイタズラ心が芽生えて、寄り道をする。
 空を眺めていると、何かが光ったような気がした。
 とても綺麗な球体が、空からふわりと落ちて来て、私は想わず手を伸ばす。
 硝子のように繊細な中に入っていたのは、ピンク色の愛らしい小動物がいた。きゅぴきゅぴと鳴く可愛い動物に私は魅せられ、撫でてやろうとした。
 すると硝子のシャボンのような球が弾けて消え、ふわふわと浮いている。
 縫いぐるみのような可愛い動物。
 それが、新しく出来た宇宙の意思だと聞かされたのは、夜遅く、王立研究院の偉い研究者がうちに訪ねてきてくれたからだ。
 新しい宇宙が芽生え、宇宙の意思がわたしを創世の女王候補に選んたからだ。
 初めは信じられなかった。
 だが、聖地からのお迎えが来ると聞かされ、研究院のスタッフも正真正銘の本物だったことから、信じざるをえなかった。
 ほぼ強制的とはいえ、私の気持ちは複雑だった。
 ただ気持ちを吐露出来る相手は、アリオスだけだ。
 私は机に向かい、まだ見ぬ、誰かすらも解らないアリオスに手紙を書いていた。
 アリオス様。
 私の人生において重要な選択の瞬間がやって参りました。
 詳しいことは言えませんが、ある試験を受けなければならなくなりました。その試験に合格すれば、私は家族に永遠の別れを言わなければなりません。ですがその試験は、私にとっては私にしか出来ないことをチャレンジするチャンスでもあります。
 このチャンスは、私の人生においては一度しかありません。
 殻を破り、自ら使命の為に全てを捨てるのか、このまま家族の元にいるのか…。
 お願いです、アドバイスを下さい。
 あなたなら下さるはずです。
 アンジェリーク。

 私は藁をも縋るような想いで手紙を書き、アリオスに伝えた。
 勇気がないと出来ない決断だ。
 自分の一生はおろか、家族の一生すら左右しかねないのだ。
 私は少し気を揉みながら、アリオスからの返事を期待した。
 何処かで背中を押してほしいと想っていたのかもしれない。
 翌朝、美しい白いカードでアリオスからの返事が届いていた。
 達筆で書かれたメッセージは私の心を強くさせる。

 アンジェリークへ。
 勇気がいる決断を選択しろ。
 そうしなければおまえの中で後悔が起こる。
 アリオス。

 短いが意味深いメッセージは、私の決断を高い次元で支えてくれた。

 私は聖地に行き、女王試験を受ける…。
コメント

アリコレの半分パラレル、半分サイドのお話です。
楽しんで下さると嬉しいです。




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