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「やっぱり気持ちが良いな…。散歩って」 「うん…。そうね」 アンジェリークは胸をドキドキさせながら、アリオスに相槌を打つ。ほてった頬を撫でる風が心地良い。 「おまえもこうして息抜きが必要だぜ。あんな病室に篭ってばかりだったら、それこそ気が狂っちまう」 「うん。やっぱりたまに外に出るのは良いみたい」 「散歩なら、俺に言え。こうやっていつでも連れていってやるからな」 「うん。有り難う」 アンジェリークは嬉しさの余り涙が出てくるのを何とか抑えるように、じっと天を仰いだ。 「アリオスとこうやって過ごすことが、私にとっては何よりもの息抜きになるんだ…。それってやっぱり凄いことよね…。私はこうしてアリオスに癒されているんだから、この森もアリオスも凄いってこと…」 こうしていると本当に素直に自分の言いたいことが言える。それがアンジェリークにとっては嬉しいことであり、魔法にかかった気分だった。 「今日はやけに素直じゃねえか? 昼間にへんなもんでも食ったか?」 明らかにアリオスの声がからかいを含んだものだったので、アンジェリークは拗ねるように唇を尖らせる。 「あら、私はいつでも素直なアンジェリークですよ」 「そうか?」 「そうよ」 少しだけすましたように言うと、アリオスが車椅子の前に回り、じっと顔を見てくる。 ドキドキした。 本当に素敵で艶やかな眼差しだったから…。 「おい、何をそんなに色っぽい目で見つめてくるんだよ? 流石のアンジェリーク・コレットさんも色気づいたか?」 アリオスはあくまでからかいを止めなくて、アンジェリークは益々拗ねた風になる。 「もうー、アリオスてばからかわないでよ〜!」 アンジェリークがアリオスに向かって軽く拳を振り上げようとすると、直ぐに手首を押さえ付けられた。 「あっ…」 じりじりとした熱い痛みが手首に響く。 「…アリオス…!?」 「…暴力は反対だからな? バイオレント・アンジェ?」 「あっ…!」 そのままアリオスの唇が触れ、甘いキスが降らされる。先ほどのキスよりも更に甘くて、アンジェリークは頭の芯がくらくらとした。 キスの後も、アンジェリークは余韻に浸ってぼんやりとする。 「…アリオス…、キスするのは…」 「キスするのは何だよ?」 アリオスはニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。それがまた魅力的で、アンジェリークは吸い込まれるような感覚を覚えた。 甘い感覚に支配されて、感じる。 やはりアリオスが一番大好きなのだと。アリオスを総てで想っているのだと、改めて感じた。 「…続き、言ってみろよ? アンジェ?」 アリオスの視線には逆らうことが出来ない。 「…少なくとも、私を少しは好きだと思ってくれているってこと?」 アンジェリークがおずおずと言うと、アリオスはふっと笑う。 「アンジェリーク、好きって言う感情がもっとおまえの中で明確になったら、個別に教えてやるよ」 「好きって感情が明確? 明確って…、私はあなたのことが好きなのは…はっきり…しているし…」 アンジェリークはどきどきしながらしどろもどろでアリオスに言ったが、彼はそれをただじっと聞いている。 「アリオスの中の”好き”はどうなの…?」 アリオスが黙っているものだから、アンジェリークは痺れを切らすように聞いてみた。 「…男はな、そんなことを言わねえもんなんだよ。愛情は態度で示す」 「その態度が曖昧だったらどうなの?」 アンジェリークはアリオスにツッコミを入れると、意外に優しい手が答えるかのように頬に触れて来た。 「アンジェリーク、おまえの怪我が直ったら、ちゃんと教えてやるよ。それまでは怪我の治療に専念しろよ?」 「ちゃんと治ったら、教えてくれますか?」 「ああ」 アリオスが頷いて請け合ってくれたので、アンジェリークは素直に頷いた。 「じゃあ、楽しみに取っておこうぜ」 アリオスはそれだけを言うと、軽いキスをくれた。 「じゃあ、戻るか」 「うん…」 アリオスは元来た道を戻り始める。 上手くごまかされた感じは否めないが、怪我が治った時の楽しみが増えたというのも、また事実であった。 アンジェリークはアリオスに車椅子を引かれるのをとても楽しく想いながら、ゆらゆらとした心地良い揺れを楽しんでいた。 病室に戻り、再び勉強の特訓が始まった。アリオスの教え方は、本当に解りやすくて、アンジェリークは再び内部進学をしたいと思うようになっていた。元々、外部進学を希望したのは、アリオスが他の女性と仲良くするのを見たくはないという感情が働いてのことだったので、直ぐに心の転換は可能だった。 アリオスの期待に応える為にも、ここはしっかりと勉強をして遅れを取り戻したいアンジェリークだ。 アリオスの授業は本当に容赦がなかった。 優しさなんてかけらもないし、本当に厳しい。けれども本当の意味でのやり甲斐も充分にあった。 「さてと。今日はすげえ頑張ったな。おまえは今日一日で、かなり賢くなったはずだぜ? 俺様のおかげでな?」 言葉は憎らしいのに、アリオスはなんて素敵な笑顔になるのだろうか。 「私がちゃんと頑張ったからだもん!」 アンジェリークがはにかみむ態度とは裏腹に、きっぱりと言い切ると、アリオスは苦笑していた。 「さてと。そろそろ夕食の時間か」 「帰っちゃうの?」 まだ面会時間は終わっていないのに離れないで欲しくて、アンジェリークは潤んだ瞳でアリオスを見つめる。我が儘なのは解ってはいたが、それでもアリオスの傍にいたくてしょうがない。 「そんなに俺に、傍にいて欲しいのかよ?」 アリオスに瞳を覗くような仕種をされ、アンジェリークははっとする。 アリオスに傍にいて貰いたいんだ…。私…。 アリオスの傍にずっといたいんた…、私…。 アリオスの傍に、どんな状況でもいたいんだ…。 本当の素直な自分の気持ちに気付き、アンジェリークは驚かずにはいられない。 「おい、俺が傍にいて欲しいのか?」 「…うん。面会時間ギリギリまでいて欲しい…」 アンジェリークは真っ赤になりながらも、自分の意思を明確に伝えた。 「アンジェ…。欲しいものやして欲しいことははっきりと伝えろよ。意思を明確にすることは決して悪いことじゃねえからな。おまえは色々ややこしく考え過ぎなんだよ。先ず自分の気持ちと意思ありきだ」 「それだと我が儘に見られないかな?」 「そうだな…。だが、そうやっておまえがきちんと立ち止まって考えることが出来るんなら、ちゃんと意思を伝えても構わねえ。意思をきちんと相手に伝えなきゃ、何も始まらないだろう?」 「うん…。そうね」 「だから俺もこうして今、ギリギリまでおまえと一緒にいる。違うか?」 「うん」 アンジェリークは改めて想う。今まで何をぐちぐち思っていたのだろうかと。きちんと自分の想っていることを言えば、誤解だとかややこしいことは回避出来ると言うのに。 「少なくても、俺の前では、はっきりと言え。そのほうが俺も嬉しい」 「はっきりと自分がしたいことを言うのは、アリオスの前ばかりになると思うけど…」 「だったら、それ以上に嬉しいことはないな」 アリオスにくしゃりと髪を撫でられて、胸がしゅんと締め付けられるような気がする。 「アンジェ、ごはんよ」 母親が気を遣ってか、そっと覗いてくれる。 「有り難う!」 アンジェリークの声を合図に、母親が夕食を持ってきてくれた。 「後は俺がやります」 「すみません。いつも。じゃあアンジェ、また明日ね」 「うん。また明日」 母親に手を振って挨拶をした後、アリオスが出したテーブルに夕食を置いてくれた。 「おまえのご飯は普通なんだな」 「うん。病気じゃないから、最近は、こんな普通食なの」 アンジェリークはご機嫌に言うと、ぎこちない手で食べ始めた。 「食べさせてやろうか?」 「有り難う…」 頬を赤らめながらも、アンジェリークは素直に頷く。やはり大好きな男性には色々と世話を焼いて欲しかった。 「まだ打撲の傷は痛いか?」 「少しだけ。足のひびもでも随分マシ。松葉杖を使って、随分と歩けるようになったし。ホントに驚異の回復だって先生も…」 「普段しっかり食べてるから、回復も早いんだろうな。おまえは。骨も硬そうだし」 「かな? 先生が、骨折しなかったのは奇跡だって言ってくれたしね」 アンジェリークは自分の躰の丈夫具合を自慢するように言った。 「普段から良く食っているからだぜ?」 「そんなに大食いじゃないもん。入院してから食は細くなったし…」 「ホントにそうかよ? だったら俺が見舞いにやったお菓子は?」 アンジェリークははたと目を丸くした後、真っ赤になって俯いた。 「……ちゃった」 「何?」 「食べちゃった!」 一気にまくし立てるように言うと、アリオスが愉快そうに吹き出す。緊張感のないアリオスの表情は、アンジェリークにとってかなり魅力的に映った。 「おまえらしくていいぜ。俺は素直なおまえが一番可愛いって思うぜ?」 可愛い。 そう言われた瞬間、アンジェリークは心がとろけるような気分になる。 アリオスの甘い台詞に、本当に砂糖のように溶けてしまうのではないかと思った。 |
コメント 次回に続きます。 厳しい建築かなアリオスさんを もっと書いていきたいな〜。 頑張る。 |