Saturday is long in coming!
〜土曜日が待ち遠しい!〜

13


 とうとうアンジェリークは退院の日を迎えた。
 アリオスが迎えにきてくれるだろうと、どこか夢想しているところもあったが、やはり平日の昼間だ。当然アリオスは仕事中で来ない。
 ほんの少しだけときめきが霧散するのを感じながら、アンジェリークは母親と共に自宅に向かった。
「これで学校にもいけるわね? 皆さんに快気祝いをお渡ししないとね…。特にアリオスさんには念入りに御礼をしなくっちゃ」
 アリオス。
 その名前を聞いただけで、アンジェリークはドキリとする。
 同時に、名前だけでときめくことが出来るなんて、相当彼のことが好きなんだろうと思った。
 アリオスのことを総てで想っている。アンジェリークは深く実感せずにはいられなかった。
 家に着くとやっぱり気分的に落ち着くが、どこか切なくもある。やはり、もう、アリオスと毎日のように逢うことが出来ないからだ。
「また…、土曜日だけに会えるようになるのかな…。だったら少し物足りないな…」
 恋をし始めた時は、土曜日に会えるだけでも嬉しかった。だが、入院中はほぼ毎日逢っていたので、アンジェリークには至極物足りないようにも思えた。
「我が儘だよね…」
 アリオスに対する独占欲の強さに苦笑しながら、アンジェリークはアリオスのメールアドレスを何度も見つめていた。
 友人達に御礼と報告を兼ねた携帯メールを送った後、いよいよアリオスにメールを出す。
 初めてじゃないのに、本当にドキドキする。
 今まで、男の子を素敵だと想うことはよくあった。だが、ここまで総てで相手を想い、ドキドキとすることはなかった。
 だがアリオスは違った。
 ドキドキすら通り越してしまった感すらある。
 大人の男性を好きになるのは初めてだったし、キスをしたり抱き合ったりするのも初めてだった。
 唇に指先を宛ててみる。一昨日貰ったとろけるような甘いキスを思い出し、血液が全身に逆流してしまうのではないかと、思った。
 思い出して幸福に感じるどころか、もっと欲しいと想う。
 アンジェリークは自分の甘く淫らな思考が恥ずかしくなってしまい、ついじたばたと足を動かしてしまう。
「あっ! 痛いっ!!」
 ひびの入った足を不用意に動かしてしまい、涙が出るほど痛かった。
 色々とアリオスと自分のことを夢想した後、アンジェリークはようやくアリオスにメールを打ち始めた。
 余り気の利いたフレーズは思い付かない。

 アリオス様。
 怪我をしてから入院中、有り難うございました。お忙しい中、毎日のようにお見舞いに来て下さって、本当に有り難うございます。
 毎日が土曜日のようで、私には最高に楽しい日々でした。
 痛いのは嫌だけれど、こんなに幸福だったらまた怪我をしても…、だなんて、馬鹿なことを考えたりしています。
 無事に明後日からは学校に行けそうです。
 また土曜日の午後は食堂で相手をしてやって下さい。お願いします。
 入院中は色々本当に有り難うございました。
 カティスさんところのお菓子をいっぱいいっぱい有り難う!
 本当に美味しくて、幸福でした。また食べたい(笑)
 改めて御礼をさせて頂きますが、今日はメールで代えさせて頂きます。
 愛を込めて。アンジェリーク。

 アンジェリークはここまで打って満足そうに溜め息をはくと、送信ボタンを押した。
 満足な気分に浸っていると、玄関先が俄かに騒がしいのが解る。
「アンジェリーク、アリオスさんが来てくれたわよ!」
「え!?」
 母親の言葉に、アンジェリークは驚かずにはいられない。何せ、アリオスが来てくれるとは思わなかったのだ。
 ちょうど、スーパーで特売だったクッキーを食べていたので、慌ててそれを隠した。
「クッ、バレバレなんだよ。アンジェリーク」
 アリオスが愉快そうにくつくつと喉を鳴らしながら太くわらっていたので、アンジェリークは恥ずかしくて堪らなくなってしまった。
「本当は病院から迎えに行ってやりたかったんだが、仕事が終わるのが一足遅かったからな。退院祝いに行くぞ」
 アリオスはアンジェリークの返事を聞く前に、いきなり抱き上げる。悲鳴を上げる時間すらも、アンジェリークには無かった。
「じゃあお借りします」
「はい、アンジェリーク、いってらっしゃい」
 母親に笑顔で見送られて、アンジェリークは複雑な気分になる。
 ほぼ母親公認の仲になっているようで、嬉しいような、母親のはやとちりだと思いながらも、何だかちゅうぶらりんだ。
 玄関を出ると、アリオスは愛車を回してくれていた。先に助手席に乗せてもらい、シートベルトをしてもらう。
 アリオスととても密着が激しくてドキドキする。鼻孔には煙草とアリオスの匂いが混じり合ったものが入って来て、心が甘く乱れた。
 最後に松葉杖がトランクに入り、出発となる。
「美味いもんいっぱい食わせてやるよ!」
「久し振りのシャバだもんね〜!」
「クッ、そうだよな。シャバをめいいっぱい楽しめよ」
 アンジェリークは頷いて、ご機嫌にも音の外れた鼻歌さえ出てくる。
「よほどシャバが嬉しいらしいな。食い逃げの罪で服役していたからな、おまえ」
「もう! 食い逃げなんてしてないよっ!」
 アンジェリークは一理あるかもしれないアリオスのツッコミに、真っ赤になりながら答えた。
「食い逃げお嬢様のシャバ復帰祝いをしねえとな」
「だから、食い逃げなんかしてないって!」
 わきあいあいとした雰囲気の中にも、甘い雰囲気を感じる。
 アンジェリークは素敵なアリオスからの贈り物に感謝しながら、幸福に浸っていた。

 車が到着したのは、やはりカティスのレストランだった。アンジェリークはとても行きたい場所だったので、本当に手放しで嬉しく思える。
「今日はランチコースじゃなくて、本格的なコース料理を頼んでおいたから、たっぷり食えよ、胃下垂食い逃げ娘!」
「嬉しいな! 全部平らげるぞ!」
「かなりの量だがおまえなら食えるだろ。菓子をあれだけ食ってたが、大丈夫だろ?」
「そんなに食べてない!」
 とは言いつつも、アンジェリークはスーパーで売っているお得用特売クッキーを殆ど食べてしまっていた。
 アリオスにはからかわれるので、決して言えないことだけれども。だがバレバレなのは勿論、気付いてはいない。
 アリオスは先にアンジェリークのシートベルトを緩めてくれた。自分でこれぐらいは出来るが、アリオスにしてもらうことが凄く嬉しい。
 先にアリオスは車から出て、松葉杖を出してくれて、それを渡してくれた。
 流石に抱き上げてもらうわけには、この状況ではいけないだろう。
 カティスのレストランに支えて貰いながら入り、席に座る。
 そのタイミングで、明るい紳士であるオーナーカティスがやってきてくれた。
「ようこそ! お嬢さん、退院おめでとう!」
「有り難うございます!」
 オーナーの挨拶に、アンジェリークはかちこちに固まってしまう。
「今日は腕によりをかけて料理を用意させてもらうからね。楽しみにしておいて下さい」
 カティスは一瞬、アリオスをちらりと見てから、幸福そうな微笑みを浮かべてくれた。
「それじゃあお嬢さん、またね」
「はい!」
 カティスが行ってしまうと、それをタイミングとばかりに料理が運ばれてくる。
 久し振りの立派な食事に、アンジェリークは手放しで喜んだ。
「いっぱい食えよ?」
「もちろん!」
 久し振りの美味しい食事にありつけるというわけで、アンジェリークは味わいつつも、かなりのスピードで食べていく。
 それをアリオスが楽しそうに見ていてくれたので、更に気合いを入れて食事をした。
「ホントに美味しくてたまらなーいっ!」
「どんどん食え!」
 アリオスに言われると安心の余りに、するすると食べた。
 サラダも美味しい、スープも美味しい。魚料理も肉も頬が落ちるほど美味しい。
「ホントに美味しい!」
「デザートも出るからな。たっぷり食え」
「うん!」
 たっぷり食事をした後に出たデザートはワゴンサービスで、食べ放題だ。そこでもアンジェリークは総ての種類を制覇して食べきってしまった。
「おなかいっぱい!」
「だろうな。おまえすげえ食っていたもんな」
 アリオスは感心するように言うと、アンジェリークの口元に手を伸ばしてくる。
「また、ついてるぜ、食べかす」
 顔が熱くなるのを感じながら、視線でアリオスを追い掛けると、またアンジェリークの食べかすを食べてくれた。
「腹ごなしに教会にいかねえか?」
 浪漫溢れる素敵な教会。アリオスと初めてキスをしたのもそこだった。
 アンジェリークはしっかりと頷くと、アリオスに助けて貰いながら教会に行くことにした。

 教会は記憶と同じように素晴らしく、緊張しながらふたりで祭壇に向かって歩き始める。
 祭壇まで来ると、ふたりはしっかりと向かい合う。
「アンジェ。以前訊いたよな? おまえのことが好きかって?」
「うん…」
 アンジェリークが恥ずかしそうに小さく頷くと、アリオスは穏やかに微笑んで、手を伸ばしてくる。
 胸の鼓動が高まってくる。
「一度しか、言わねえからな…。誰よりもおまえが好きだ」
 返事をする前にアリオスが唇を重ねてくる。アンジェリークは最高の幸福者になった気分だった。

コメント

次回に続きます。
厳しい建築かなアリオスさんを
もっと書いていきたいな〜。
頑張る。




back top next