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日曜日も待ち遠しい! アリオスに会える日なら、いつだって待ち遠しい。 アンジェリークはいつもよりもかなりバッチリお洒落をして、アリオスとの待ち合わせ場所に向かった。 歩くだけでも、何をするにもうきうきする。 唇にはほんのり色づくグロスを塗って、少し大人になった気分だ。 時計を見るとそろそろ約束の時間だ。アンジェリークはそわそわと、何度も爪先立ちになり、視線もキョロキョロと定まらない。 視界にアリオスが入って来た。それはもう辺りをばら色に染め上げる勢いで、アンジェリークの瞳もきらきらと輝いた。 はにかむように手を振ると、アリオスがゆっくりと傍まで近づいて来てくれる。 普段のアリオスは、モノトーンスタイルでとても素敵で、見惚れずにはいられない。 「待たせたな?」 「そんなに待ってないですよ?」 本当は待ち合わせの時間の20分も前に着いた癖に、アンジェリークはいけしゃあしゃあと言った。 「だったら、うどんを食いに行くか?」 「はい。勿論!」 アンジェリークは明るく返事をし、少し遠慮がちにアリオスの隣を歩く。 「今日行くうどん屋は、本場のさぬきうどんを食わせてくれるんだ。おまえが好きなカレーうどんも絶品だが、やっぱり、鍋焼き肉うどんは最高だな。良いだしが出てる」 アリオスの話を聞くだけで、よだれが出てくる。アンジェリークはお腹が更に急速に空いて行くのを感じた。 ついつい腹の虫も大暴れして、アリオスに聞かれてしまう。 「急がないとな」 ニヤリと笑われて、アンジェリークは恥ずかしさの余りに真っ赤になった。 アリオスが連れていってくれたのは、古びたうどん屋だった。雰囲気からして、絶対に美味しそうな気がする。 それどころか、流れてくる匂いもかなり食欲をそそる。また腹の虫が派手に大暴れしていた。 「ほら、ハラヘラシー入るぞ」 「はい!!」 アンジェリークは胃袋と心に期待を膨らませて、店に入る。 店はとても落ち着いた雰囲気で、どこかほっと出来るような雰囲気が醸し出されていた。 「鍋焼き肉うどんでいいか?」 「はい!」 もちろんとばかりに頷き、アリオスが注文するのを期待を込めて待っていた。 「凄く素敵なお店ですね…」 「ここのうどんを食ったら、学食のうどんは食えなくなるぜ。それだけは言っておいてやるよ」 「それぐらい美味しいんですか! 何だか想像出来ないですけれど」 「学食は所詮は冷凍うどんだ。丹念に打ったうどんを食ったら、目から鱗が出るぜ」 アリオスが本当に美味しそうに言うものだから、アンジェリークの期待もいやがおうでも高まってくる。 「学食もあの値段では、かなりイケてると思うんですけれどね」 「まあな」 アリオスはよほどここのうどんに思いれが深いのだろう。来るまで非常に楽しみでしょうがなかった。 「うわあ!」 うどんが運ばれてきて、アンジェリークは感嘆の声を上げた。 ぐつぐつと煮だっている鉄鍋の中には、透き通るほど白いうどんと、白菜、肉、えのき、卵、ふなどがたっぷり入っている。それだけで、かなり感激だ。 「先ずはだし、その後はうどんだな」 アンジェリークは頷くと、アリオスと同じように、先ずはだし、そしてうどんをすすってみた。 本当にモチモチっとして、うどん自身にこしがあり、そのうえ喉越しもかなり良い。だしを飲んでみると、これまたかなり素晴らしい。 正直、アンジェリークは感動していた。こんなに美味しそうなうどんは、今まで食べたことはなかったから。 「アリオスさん! 凄く美味しいです!」 「だろ! どんどん食えよ」 「はいっ!」 アンジェリークは夢中になってうどんを食べる。鍋の中に入っている具材も、程よくだしが染みていて、かなり美味しい。肉も柔らかくて、噛むとじゅっと汁が滲み出て、本当に美味しかった。 「美味しい! 美味しい!」 アンジェリークはそれしか口に出さないので、アリオスは苦笑しているようだ。 「いっぱい食え。少ししたら、美味いケーキのあるカフェに連れていってやるから」 「わーい!」 アンジェリークはそれこそジャンプしそうな勢いで、大喜びしていた。 「なあ、アンジェリーク」 「はい?」 口の周りに少しだけ半熟卵の黄身をつけて、アンジェリークはかわいらしく答える。 「こうやって、外でふたりで会う時は、敬語はやめてもらいてえが、かまわねえか?」 「アリオスさん…。いいんですか?」 アリオスと随分近づけるような気分になり、アンジェリークはかなり嬉しい。 「ああ。かまわねえよ。俺の名前もさん付けはなしだ。堅苦しくて肩をこっちまうからな」 「はいっ!」 アリオスにそう言われるのは本当に素敵で、辺りがばら色に染まる。ぼうっと、嬉しさの余りにアリオスを見ていると、彼は苦笑する。 「ほら、口の周りに卵の黄身がいっぱいついてるぜ?」 「あ…!」 アリオスは親指をアンジェリークの口の周りに這わせて、丁寧に黄身を拭ってくれる。その仕種が妙にドキドキとした。 心臓の鼓動が聞こえるのが恥ずかしいのか、口の周りの黄身を拭ってもらうのが恥ずかしいのか…。 セクシャルな仕種に、アンジェリークは酸素不足になるぐらい興奮していた。 「ほら、綺麗になったぜ。おまえはガキっぽいな…。それがまたいいんだけれどな?」 反論しようとしても、その芽を旨く詰んでしまうアリオスは、やはりかなり大人なのだろう。 「ありがと…」 アンジェリークは少し恥ずかしく思いながら、アリオスに一言だけ呟いた。 綺麗に鍋の中をさらって、食後は幸せ過ぎるぐらい満足だった。 アンジェリークは自然と笑顔が溢れ、アリオスについついにやけた顔を披露する。 「さてと、腹一杯になったところで、おまえにはちょっと付き合って貰いたい場所があるからな」 席を立ち上がり、アリオスは会計に向かう。取りあえずアンジェリークも、いつものがまぐちをにぎりしめて、会計に追い掛けた。 「行くぞ」 既にアリオスは支払い終え、そのままアンジェリークの手を取って、店を出た。 「お金は…」 「気にするな」 「はい…」 アリオスの口調は有無言わせないものがあり、アンジェリークは素直に従うしかなかった。 更に手を強く握りしめられる。 もっと強く握ってもらっても構わない。 恥ずかしさと嬉しさを込めて、アンジェリークはアリオスの手を握り返した。 「これからどこに行くの?」 「秘密。だが、おまえが喜びそうなところだぜ?」 「私が…?」 「そう」 含み笑いのアリオスに、アンジェリークは小首を傾げる。 「美味しいものを食べさせてくれるところとか?」 「クッ、おまえの辞書には食い物しかねえのかよ。今食ったばっかりだって言うのによ」 アリオスはさも可笑しそうに喉をくつくつと鳴らして笑うものだから、アンジェリークは頬を膨らませた。 「だって! 美味しいものは人間を幸せにするのよ! アリオスだって、いっぱい美味しいとこれを知っている所を見ると、かなり美味しいものに幸せにしてもらっているでしょう!」 「まあな」 アンジェリークが拗ねている間、アリオスはずっと可笑しそうに笑っている。それが少ししゃくに触った。 「さっきからアリオス笑ってばっかり!」 「あんまりにもおまえらしいからな。ホントにおまえ見てたら飽きねえよ」 アリオスは本当に楽しそうに笑い、その表情がかなりステキだった。 「ほら、行くぜ?」 「うん!」 青空のもと、アリオスと共に手を繋いで歩くのはとても気持ちが良い。 「アリオスが何処に連れていってくれるか、凄く楽しみ!」 「おまえのご期待に添えるような場所だってことだけは、保証してやるよ」 「楽しみ!」 アンジェリークはふふっと笑い、時折、頬を赤らめてアリオスを見る。 近くにアリオスがいる幸せは、言葉には表現出来ないほど幸せだ。 坂道を上がり、住宅街に入っていく。 どこも素敵な屋敷が多く、アンジェリークはうっとりと見つめた。本当に何処も素晴らしくステキだ。 「凄く綺麗な家ばかり…」 「将来は住んでみてえか?」 「そうね。私は外観より、温かな心がこもった家に、将来は住みたいと思っているわ。いくら外観や内装がきちんと成されていても、そこに家族の温かさがないと、私は嫌…。住んでいて心地良いとは決して感じられないわ…」 アンジェリークは自分の気持ちを素直に言うと、アリオスを見上げる。 「…建築デザインも同じだと思うんです。私がデザインをするとしたら、きっと家族が心から寛ぐことが出来る、デザインをしたいと思ってる。デザインをまだきちんと勉強していない私が言うのは、かなりナマイキなことだと思うけれど…」 アリオスはそれを黙って聞いてくれる。そのさりげない優しさもアンジェリークが好きなところだった。 「俺が推薦試験の試験官だったら、おまえを間違えなく合格にするぜ」 最高の褒め言葉だと思った。アンジェリークはありがとうの代わりに、笑顔を送った。 どれぐらい坂を登っただろうか。息が切れている。 「アンジェリーク、あれだ」 「うわあ!!」 アリオスが指を指した建物に、アンジェリークは感嘆の声を上げる。 それは、アンジェリークが理想とする建物の造りになっていた。 |
コメント 次回に続きます。 厳しい建築かなアリオスさんを もっと書いていきたいな〜。 頑張る。 今回出てきたうどん屋は、 内野近所のうどん屋で、非常に美味くて有名です。 列も出来るのだ! |