Tea For Two

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 叔父ちゃん、遅いな・・・。

 アンジェリークは時計を見ながら溜め息を吐く。

 今日は遅くなるから、夕食ないらないって言ってたけど、一日に一度は叔父ちゃんに逢って、”おやすみ”とか言いたいのに・・・。

 じっと時計とにらめっこするものの、アリオスはなかなか帰ってこず、代わりに眠気だけがひどくなる。
 とうとう我慢できずにベッドに潜り込んでしまった。
 うつらうつらと眠っていると、ドアが開く音がして、はっと眠りから覚める。
 アリオスだ。すぐにベッドから起きて玄関先に向かうと、そこには珍しく酔ったアリオスがいた。
「あんぢぇ〜、帰ったぞ〜!!」
 アリオスは上手く呂律が回っておらずふらふらとしてしまう。
「叔父ちゃんっ!」
 玄関先でうだうだとしているアリオスを抱え込み、取りあえずはキッチンに連れていく。
「叔父ちゃん、お水飲んだらましになるから!」
 取りあえずは椅子に座らせて、冷たく冷えたミネラルウォーターをコップについでやる。
「ほら、叔父ちゃん、お水よ!」
「あ〜」
 アリオスはコップを受け取ると一気に飲み干した。
 豪快に飲み干したコップをアンジェリークは受け取ると、少し心配そうな表情をアリオスに向ける。
「大丈夫? もう一杯お水を飲む?」
 潤んだ瞳を向けて一生懸命なアンジェリークを、アリオスはじっと見つめる。
「叔父ちゃん、何かあったの? 私に出来ることがあったら何でも言って!! ねぇ、叔父ちゃん?」
 小首を傾げた瞬間、抱き締められた。
「・・・!!」
 肋骨が軋むほどの強さに、アンジェリークは息を呑まずにはいられない。
 オスとしてのアリオスの香りが鼻孔をくすぐり、胸が切なくなった。
「叔父ちゃん・・・」
 名前しか囁けない。
 この状況が嫌なものでは決してなく、逆にずっとこうしていたいとすら感じた。
 アリオスが艶やかな瞳を向けてくる。
 それは、いつもの叔父としての表情ではなく、男としてのそれであった。
 見つめられるだけでドキドキとする。
 唇が近付いてきても抵抗できない。

 叔父ちゃん…!!!

 しかし。

 -----俺は何やってるんだ…。

 直前でアリオスはキスを止め、抱擁を解いた。
「・・・酔っ払っておかしくなっちまったようだ」
 アリオスが引いてしまうと、アンジェリークは切なさを感じずにはいられない。
「寝る・・・」
「うん、おやすみなさい・・・」
 アリオスはさっさと自分の部屋に入っていってしまった。

 俺は一体…。
 あいつが愛しくて、一人の女に見えた…。
 あいつは姪だぞ。
 変な気を起こしてはならねえのは判っている…。
 だが…。
 禁断の紐をほどいてしまいたくなる…。
 真実を言えば、楽になるのに…。

 叔父ちゃん・・・。
 あの抱擁の意味はいったい何・・・。

 アンジェリークは華奢な躰を腕で抱き締めながら、切なくなる。
 本当はもっと抱き締めて欲しかった。
 キスをしてもらいたかった。そんな思いがぐるぐると胸によぎる。

 私・・・、まだドキドキしてる。アリオス叔父ちゃんにもっと触れて欲しいと思ってる・・・。

 自室に入って、ベッドに横になる。アンジェリークは肌がざわめいているのを感じていた。
 ドキドキしながら、アンジェリークはベッドで何度も寝返りを打つ。
 アリオスのことを思い浮かべながら、切なくなってしまった。

 うとうととしている間に朝が来てしまい、起き上がった。
 でもなぜか頭はすっきりとしている。今朝ははりきってごはんを作ろうと思う。
「今日は豆腐のみそ汁かな〜」
 豆腐を切るのにひどく緊張する。
「どうしてこんなにぷるぷるしているのかなあ」
 豆腐を震える手の上に置いて、包丁でカッティングをする。
「うわあっ!!!」
 アンジェリークは何か恐ろしい声を出しながら、みそ汁の中にぶち込んだ。
 ぜえぜえと言いながら、アンジェリークは味噌汁を煮込み始める。
 納豆を念入りにかき混ぜて、スクランブルエッグを作った。
 だし巻きはまだまだ力不足で出来ない。
 朝食の時間になり、アリオスがようやく部屋にやってきた。
「おはよう」
「お、おはよう、叔父ちゃん・・・」
 どうしても顔を合わせると、少し意識をせずにはいられなくなってしまう。
 ごはんを茶碗についでいても何だか、どきどきする。
 ふたりでいただきますをした時も、あえて何も言わなかった。
 ちらりとアリオスの様子を見た後、アンジェリークは思い切って口にだしてみる。
「叔父ちゃん、あのね、何かあったら、家族だから、私に言ってね? 何も役に立たないけど・・・」
 しどろもどろに言いながら、アンジェリークはアリオスを純粋なまなざしで捕らえる。
「ああ・・・。昨日はおまえに迷惑をかけたかもしれねえな。酒飲んでたから、良くはおぼえちゃいねえが、これからはこんなことねえように、何かあったら言う」
 アリオスは淡々と語りながらも、瞳は切なく影っていた。
「み、みそしる食べよ」
 ふんわりと素直に笑った後豆腐を食べてみる。
「あ〜、豆腐にすが入っている〜!!!」
「まだまだ修行だな」
「また頑張る」
 わざと明るく振る舞いながら、アンジェリークは一生懸命食事をする。

 叔父ちゃん・・・。
 昨日のことを全く覚えていないんだ・・・。
 何だか少し切ないな・・・。
 覚えてもらいたかったて、やっぱりそう思ってる・・・。

 しっかりと朝食を取りながらも、どこか切ない朝になった。


「今日は最高だった! 毎回これぐらいの完成度だったら、準主役に指名してもおかしくないな。明日もこの調子だったら、是非次の映画に推薦する」
 昨日アリオスを罵倒した厳しくて有名な監督が、今日は一転アリオスの演技を褒めちぎった。
「これぐらいの気合いが入ってたら、映画の主役も遠くない。昨日、映画の三番手の役で推薦しておいたからな」
 これにはアリオスは驚く。
 罵倒は期待の裏返しだと、この時初めて知った。
「おまえの演技、最近角が取れてきたぞ。あともう一息だ。がんばれよ」
「はい」
 肩をぽんと叩かれて、アリオスは監督を見送る。

 オスカーと同じことを言われたな・・・。
 角が取れてきた・・・。
 それはアンジェのおかげだ。あいつがいたから、ここまで来ることが出来た。

 アンジェリークの横顔が思い浮かぶ度に、アリオスは優しい気持ちになる。

 あいつに感謝していることを伝えねえとな・・・。

 アリオスは撮影終了後、閉店間近の雑貨店に寄り、愛らしいネックレスを買い求めた。

 あいつによく似合う・・・。

 それを大事に家まで持って帰ってやった。

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
久しぶりです。
前回のは阪神がマジック49でしたが今回は36!
早いね〜




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