Tea For Two

11


「おかえりっ」
「ただいま。ほら、アンジェ」
「何?」
 出迎えるなり、突然アリオスに箱を渡されて、アンジェリークはきょとんとした。
「叔父ちゃん!?」
 驚いているアンジェリークを尻目に、アリオスはまたいつものポーカーフェースに戻り、部屋に入っていく。
 慌ててパッケージを開けると、そこには可愛らしいアクアマリンの石が光り輝くペンダントが入っていた。

 叔父ちゃん・・・。

 アパートの蛍光灯に翳してみてもとても綺麗に輝いている。
 じんわりと嬉しさが込み上げてきて、非常に嬉しかった。
 嬉し過ぎて涙が溢れてしまう。
「アリオス叔父ちゃん・・・」
 部屋のドアを開けるなり、ベッドに座って煙草を吸っているアリオスに思わず抱き付いた。
「おいっ!」
 アリオスは、アンジェリークのいきなりの行動に、狼狽する。
「嬉しかった・・・」
 アリオスは軽く抱き締めると、アンジェリークの栗色の髪を優しく撫でた。
 お互いの心臓の音が甘く聞こえる。
 それが心地好くて、しばらくは離れたくはなかった。

 ・・・アンジェ・・・。
 ずっとこのまま離れたくねえが、このままだと・・・。

 アリオスは軽く深呼吸をすると、アンジェリークを静かに離す。
「メシ、食おうか」
「あ、うん、そうね!」
 アリオスが離れていくのをとても切なく感じながら、アンジェリークは何とか頷いた。
「すぐ、準備をするね?」
「ああ」
 もっとアリオスのそばにいたかったがそうはいかない。
 甘い気分を引きづりながら、夕食の準備をした。
 手早く済ませて、一端部屋に戻ってアリオスから貰ったペンダントをしてみる。
 鏡で見る度に嬉しくてしょうがなかった。
「叔父ちゃん、ごはんが出来たよ〜!」
「ああ」
 アンジェリークの胸に、誇らしげにペンダントが揺れる。
 それがアリオスには眩しくてしょうがなかった。
「今日はトンカツか?」
「うん、学校で習ったの」
 まだまだぶきっちょなせいか、手には軽い火傷あとがあるが、それもまた愛嬌があって可愛らしかった。
 眩しい目の前の少女の姿の眩しさに、アリオスは胸が苦しくなる。

 アンジェリーク、おまえはまだ、大輪の花を咲かせる前の蕾だ。
 花を美しく咲かせる前に、俺はおまえをもぎ取ってしまいたいと思っている・・・。

 アリオスは込み上げてくる抑え切れない感情を必死に押し殺す。
 目の前の少女を見つめるだけで、息が詰まる想いだった。

 ペンダント、嬉しかったな・・・。

 夜、ベッドに入った後も、アンジェリークは胸にかけたペンダントを握り締めていた。
 それだけでほわほわとした気分になる。
 温かくて、久し振りに心が豊かだった。

 今日は良い夢を見られるかもしれないわ・・・。

 アンジェリークは小さな”幸せ”をようやく感じることが出来た。
 ペンダントがあるおかげで、ずっと楽しい気分でいられる。
 鼻歌すらも出てくるような気分だ。
 ペンダントがあれば、どんなことでも乗り越えていけるような気がした。
 学校に行くのも楽しい。
 ペンダントが肌に密着しているのが、妙に嬉しい。

 叔父ちゃんといつも一緒みたい・・・。
 私っていやらしいのかな・・・。

 自分でそう考えるなり、顔を真っ赤にさせた。
 ペンダントが制服の下で揺れる度に、アリオスと密着しているようで、恥ずかしさと胸のどきどきが全身を支配する。
 だが、それは決して心地の悪いものではなかった。

 放課後、クラブで作った簡単マドレーヌを片手に、おしゃべりに興じる。
 夕飯の支度をしなければならないアンジェリークだが、今日は時間があるので参加している。
「昨日のドラマ見た!?」
「見た、見た! オスカーが凄くかっこ良かったよね〜!」

 オスカーさん、やっぱり人気あるんだなあ・・・。
 昨日のドラマは叔父ちゃんも出てたけど、叔父ちゃんの方がやっぱり素敵だな・・・。

 友人のやり取りを聞きながら、アンジェリークはしみじみと思っていた。
「昨日アリオスも出てたよね〜」
 名前を聞くなり、アンジェリークはどきどきとする。
「そうね。今度は殺し屋だったけ? 似合うわよね、あんな役」
 話を聞いていてもアンジェリークは、はらはらしてしまう。
 まるで自分自身の評価を聞いているようで。
「アリオスって言えば思い出した! うちの兄弟校のエレミア学院にいる、オリオスって銀髪のやつがいて、もう、女の子とえっちやったら捨てるみたいな感じで。みんな、”アリオス”って影で呼んでるって」
「それ、知ってる〜!」
「ぶっ!!!」
 アンジェリークは飲んでいたジュースを思わず吹き出した。
「きたないなあ」
 レイチェルは苦笑いして片づけてくれる。
「ごめん…」

 みんな、叔父ちゃんのことを言いたい放題に言っちゃって!!!
 叔父ちゃんが本当にどれぐらい素敵か知らないくせに!

 アンジェリークは頭に血が昇るのを感じる。
「もうっ!!!」
 突然声を上げると、アンジェリークは立ち上がった。
「な、何怒っているのよ、アンジェ!?」
 いつもは温厚なアンジェリークがぷんすかと怒っているものだから、誰もが驚いている。
「ア、アリオスは私の実の叔父よ! 本当はもっと素敵なんだから! そんな悪い人じゃないんだからっ!」
 アンジェリークの余りにもの勢いに、誰もが黙っている。

 言い過ぎたかな・・・。

 一瞬沈黙があった。
 だが・・・。
「うそっ!!! 逢わせて!!!」
 誰もが我先にとばかりに声を張り上げる。
 先程の態度とはえらく違うので、今度はアンジェリークが驚いてしまった。


「ねぇ、叔父ちゃんいいでしょう?」
「んなもんメンドクセー」
 アリオスに友人たちが逢いたい旨をつたえるが、アリオスにはきっぱりと断られてしまった。
「おじちゃんのケチ、ケチ、ケーチ!!!」
「ダメなものはダメだ!」
 煙草を吸いながら、アリオスは冷たく言い放つ。
 だがアンジェリークはだだっこのように暴れて引かない。
 この騒ぎを聞き付けてきたリュミエールが顔をひょいと出す。
「アリオスさん、おこづかいぐらいあげたらどうですか?」
 にっこり微笑んで、リュミエールはどこかに行ってしまった。ふたりが顔を見合わせ溜め息を吐いた------

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
久しぶりです。
前回のは阪神がマジック36でしたが今回は2!
早いのか、わすがさぼっていたのか(笑)




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