Tea For Two

12


 結局、姪の執拗な攻撃に折れてくれて、アリオスとクラブ仲間の対面が実現することとなった。
 場所は、撮影スタジオ近くのこじゃれたカフェ。
 上品な白が印象的な場所だった。
「私、色紙を10枚も持ってきちゃった!」
 料理クラブの部長が恥ずかしそうに笑っている。
「私も〜!」
 誰もが華やいだ微笑みと期待に満ちた瞳を持って待ち構えている。
 お洒落も明らかにいつもよりは気合いが入っている。
「俳優さんに逢うなんて初めてで嬉しくて緊張しちゃう〜」
 誰もがきゃっきゃっと声を上げ、本当に楽しみにしているのが手にとるようにして判った。

 もうすぐ…、もうすぐ叔父ちゃんの本当の姿をみんなに判ってもらえる…。
 私の大好きな人の…。

「皆さん、今日は叔父ちゃんのお仕事の関係で、あまり時間が取れないので、ごめんなさい」
 アンジェリークは先にきっぱりとした断りを入れておいた。
「そんなの構わないわよ。こっちこそ無理して合わせて頂いているんだから」
 料理クラブ部長は、部長らしく理解のある話をしてくれていた。
 不意に誰もが黙り込み、まっすぐと視線を集中させる。
 どの瞳もうっとりと輝いていた。
 「待たせたな、アンジェ」
 頭を軽く手でぽんと押さえられ、躰の奥から染み出る甘い声に、アンジェリークもどきりとせずにはいられない。
「叔父ちゃんっ!」
 横に座るアリオスを見つめながら、みんながうっとりとした理由を重々と理解した。
 きなり系のすっきりとしたサマースーツで現れたアリオスは、カフェの雰囲気と絡み合い、類いまれな王子様のように思える。

 みんな、素敵でしょう? わたしの叔父ちゃん・・・。

 ふたりは一瞬視線を絡ませる。
 それを一番冷静なレイチェルがじっと観察するように見ていた。
「みなさん、私の叔父のアリオスです」
「アリオスです。いつもアンジェがお世話になっています」
 アリオスが軽く会釈をすると、誰もがカチコチの笑顔で応えた。
「いつも料理クラブで皆さんのお世話になっているの。あの金髪の女の子が親友、レイチェルなの」
 レイチェルがアリオスにいかにも好戦的な視線を投げたことを、アンジェリークは知らなかった。
 アリオスはただ頷いただけで、ちらりとレイチェルを見た。
 ふたりはお互いにアンジェリークへの深い想いを感じて、火花を散らしている。
 そのことに、当然ながらアンジェリークは気付いてはいない。
 他のクラブのメンバーたちは、いつもの言いようとは違い、アリオスに参ってしまっている。
 特に金色でふわふわの髪を持つカトリーヌが、熱心にアリオスを見ている。
 その瞳の輝きにアンジェリークはどきりとした。

 暗い影が心によぎる。まさか、カトちゃんは叔父ちゃんのこと・・・。

 出された沢山の色紙を、アリオスはサインをしながら、少女たちの相手を上手くこなしている。
 時折煙草を吸う姿は、素敵すぎて、店の雰囲気とあいまって、王子様に見えた。
 じっとアリオスの横顔を見ずにはいられない。

 叔父ちゃん…。
 どうしてこの人が私の叔父ちゃんなんだろう…。
 どうして血なんか繋がってるんだろう…。
 みんなと同じような出逢い方をしなかったんだろう…。
 普通の男と女として…出会えなかったんだろう…。
 あの腕にも、あの胸にも抱かれる事はないんだもの…。

「アンジェとは随分年齢が近いんですね、それに似てないし」
 レイチェルは冷静に探るように訊いてくる。
「ああ。こいつの親父と俺は年の離れた兄弟だからな。こいつのガキの頃は、よくおむつを替えてやったよ」
「そうなんだ。ワタシはこのコと一緒にお風呂に入ったことがあるよ」
 明らかにふたりの間には火花が散っており、その雰囲気はアンジェリーク以外の者にはひしひしと伝わっていた。

 短い間ではあるが色々と話をし、アリオスは時計を見て立ち上がる。
「時間だ」
「叔父ちゃん、本当に今日はありがとう!!!」
 アンジェリークは満面の笑顔で礼を言い、アリオスを送りに行く。
 目の前にある笑顔があれば、それ以上のものは何もいらないと、アリオスに思わせる。
「アンジェ、戸締まりちゃんとしておけよ」
「うん!」
 くしゃりと髪を撫でられて、アンジェリークは胸が締め付けられるような気がした。

 叔父ちゃん・・・。本当に大好きよ・・・。

 帰り道、頬を染めたままカトリーヌはうっとりとアンジェリークを見つめる。
「・・・。私、アリオスさんに一目ぼれをしちゃったみたい・・・」
 あまりにもの突然の告白は、尖ったナイフで胸を割かれるような気がした。
 躰が震えてしょうがない。
「・・・そうなんだ、叔父ちゃんのこと…」
 余りにもショックで、アンジェリークはそれ以上言葉を繋げることが出なかった。
 家路をとぼとぼと歩く間、カトリーヌのことばがりを考えてしまう。

 ああやって、叔父ちゃんのことをまっすぐに好きと言えるのが羨ましい・・・。
 私には言うことが出来ないもの・・・。

 そう思うと、大きな瞳から涙が出てきた。
 胸が苦しくてしょうがない。
 アンジェリークはこの日、初めて”嫉妬”という名の恋煩いを経験した--------

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
後少しです。
次回はライバルと往生に、アンジェも奮起(笑)




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