Tea For Two

13


 その日は、仕事が遅くなるアリオスをずっと待っていた。

 お礼がいいたい・・・。

 ただそれだけだが、アンジェリークにとっては至極大切なことだった。
 二人分の茶器を用意して、アリオスの帰りを待つのが楽しい。
「ただいま」
「お帰りなさいっ!!!」
 アンジェリークが満面の笑顔で迎えると、アリオスは温かさの余りほっとした気分になった。
 栗色の髪をくしゃりと撫で付けると、アリオスは僅かに微笑む。
「叔父ちゃん、今日はどうも有り難う。みんな凄く喜んでた。これでまた、俳優アリオスのファンが増えるよ!!」
 一生懸命話す目の前にいる少女が可愛くてしょうがない。
 大きな青緑の瞳も、一生懸命話してくれる可愛い唇もすべてなくてはならないものだ。
「俺も楽しかったからな」
「うん、有り難う。お茶を淹れるね?」
「ああ」
 アリオスが自らの部屋に荷物を置きに行っている間、アンジェリークは丁寧にお茶を淹れる。

 これぐらいしか、私には出来ないから・・・。

 アリオスの疲れを癒すために、アンジェリークは心を込めてお茶の準備をする。
 アリオスも部屋から出てきてくれて、一緒にテーブルに着いてくれた。
 お茶を片手に話すことは、他愛のないことばかり。
 アンジェリークにとっても、アリオスにとっても、このひとときは心が休まる貴重な時間だった。
 お茶を飲みながらゆっくりとするのが、こんなに贅沢な気分になれるとは思わなかった。
 特に何も言わなくても、アリオスとゆったりとした時間を過ごすことが出来るだけで、本当に幸せだった。

 叔父ちゃん・・・。
 いつか叔父ちゃんにも、可愛いお嫁さんが出来るかもしれない・・・。
 それまでは、ずっと叔父ちゃんのそばにいたい・・・。
 出来たらこんな時間が永遠に続けばいいのに・・・。

 しみじみと思わずにはいられなかった。


 翌日はアリオスもオフ日で、アンジェリークとふたりまったりとしていた。
 夕飯の買い物をしに出ようとしたところで、インターフォンが鳴る。
 玄関先に出ると、そこには白いワンピースでお洒落をしたカトリーヌがいた。
「カトリーヌ」
「遊びにきたの」
 アンジェリークはその姿に目を丸くする。
 カトリーヌはしっかりとおしゃれをしていた。
「ケーキも焼いてきたの」
 白い箱に視線を落としたまま、アンジェリークは動けない。
「どうした、アンジェ?」
「友達が・・・」
 言葉尻を少し濁しながら、アリオスに言うと欲しい言葉とは違うものが返ってきた。
「友達か・・・。そんなところでは何だ、上がってもらえ」
 アリオスの魅力的なテノールが響き渡り、アンジェリークははっとした表情になり、カトリーヌは笑みを浮かべた。
「お邪魔します」
 アンジェリークがどうぞと言う前に、カトリーヌは部屋に上がり込んでしまう。
「こんにちは、アリオスさん」
 アリオスはてっきりレイチェルが来ていると思っていたので、正直驚いた。
 はっきり言って、レイチェルが仕掛けてきた挑発とアンジェリークのことしかはっきりとは覚えてはいない。
 他の少女たちの記憶は、うっすらとしかなかった。
「・・・確かアンジェとクラブが一緒の・・・」
「そうですっ! カトリーヌです!」
 アリオスは軽く頷いてみたものの、本心はどうでもいいことだった。
「アリオスさんとアンジェのためにケーキを焼いてきました!」
 後からぶらぶらとダイニングに入ってきたアンジェリークは、ケーキを見るなり驚いた。
 白い生クリームをあしらったケーキ。

 白い、白い、叔父ちゃんみたいな天使のケーキだ・・・。
 私にはまだまだ腕不足で出来ないケーキ・・・。

 綺麗に出来ているケーキに、アンジェリークは切なくなった。
「後でデザートに食べて下さい。今日は、たまにはと思って、お料理の材料を買ってきました。夕飯作らせて頂いていいですか?」
 しなを作るしぐさにはあまり魅力は感じないが、せっかく材料を買ってきてメニューを考えてくれているのだから、ここは料理を作ってもらうことにする。
「せっかくだからな。アンジェ、一緒に夕食の準備を手伝ってやってくれ」
「私・・・」
 自分だけが許された城に、他人が踏み込むような気分になり、正直な気持ちが言葉に出てしまう。
「アンジェ、今日はゆっくりとしていてくれて構わないからね。いつもやっているんだから、たまには休んでもいいんじゃない? 今日は私が腕によりをかけるし、アリオスさんの食事はちゃんと作るから」
 きっぱりと言われてしまい、アンジェリークは余計に手伝いたくなる。
「私がふだん使っているキッチンだから、色々手伝うわ」
 アンジェリークは何とか手伝いをさせてもらおうとするが、にっこりと微笑まれた。
「有り難う。でもアンジェ、邪魔しないで」
 一瞬鋭くなったカトリーヌの眼光に、アンジェリークは思わずたじろぐ。
 結局、アンジェリークはキッチンを追い出されるカッコウとなり、アリオスと気まずい気分でダイニングにいることになってしまった。
「私、お料理作るの好きだから気にしないでね」
 ご機嫌なカトリーヌに、アンジェリークは切ない気分になる。

 …叔父ちゃんに、私以外の手料理を食べて欲しくない…。

 そんな事を悶々と考えているうちに、カトリーヌお手製の夕食ができあがってしまった。
 しかも、いつもアンジェリークが作っているものとはクラベものにならないほど品数も多い。
 豪華なおかずを目の前にして、アンジェリークは言葉を失ってしまった。
「すげえな」
「お口に合うかどうかわからないけれど、どうぞ、アリオスさん召し上がって下さい」
「サンキュ」
 アリオスがカトリーヌが作った食事をゆっくりと食べる。

 叔父ちゃん…。
 どうか美味しいって言わないで…。

「うまい!」
 アンジェリークの心の野祈りも虚しく、アリオスは胸に突き刺さる一言を言いはなった。
「よかった! アリオスさんに気に入ってもらえて!」
 カトリーヌはご満悦だったが、アンジェリークは苦しくて息が出来ないほど切ない。
「アンジェも食えよ?」
「…いらない…」
 アンジェリークは不機嫌に言うと、拗ねて俯いてしまった。
「…アンジェ、これ嫌い?」
 カトリーヌが言うにも、アンジェリークはただ首を横に振るだけ。
「気分が悪いのかよ?」
「そんなことないもん」
「だったら食えよ」
「いや」
 アリオスの鋭い視線がアンジェリークを捕らえた。
 余りにもの冷たさに、びくりとする。
「おまえ、いい加減にしねえと怒るぞ!?」
「いいもん」
 いつものように素直な態度が取れない。
 アリオスが爆発しそうな雰囲気を察知してか、カトリーヌがおろおろと立ち上がった。
「…あの、私…帰ります」
「待ってくれ、送っていく」

 アリオスは直ぐに立ち上がると、カトリーヌの後を追う。

 叔父ちゃん、お願い…。
 送ってなんか行かないで…!!

 だがアンジェリークの願いは虚しく、アリオスはカトリーヌを送っていってしまう。

 叔父ちゃんのバカ…。!!!

 アンジェリークの大きな瞳から大粒の涙が零れた------
 

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
後少しです。
次回はライバルと往生に、アンジェも奮起(笑)




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