Tea For Two

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 カトリーヌが作った料理を見つめながら、アンジェリークは悶々とする。
 アリオスがカトリーヌを送りにいった事実が、心に重くのしかかっていた。
 ひとりで切ない気分になり、膝を抱える。

 叔父ちゃん・・・、早く帰ってきて・・・!!!

 ようやくアリオスが帰ってきたが、その表情がまともに見られなくて、アンジェリークはずっと俯いてしまう。
「アンジェ」
 鋭い声が部屋の中に響く。まともに顔が上げられない。
 だが、気配でアリオスがすぐ前に立っているのが判った。
「アンジェ、顔を上げろ」
 言われた通りに顔を上げると、そこにはアリオスが厳しい顔をして立っていた。
「アンジェ、どうしてあんな態度を取ったんだ!? 言ってみろ?」
 鋭く切り込んでくるアリオスに、少し恐れをなしながらおずおずと口を開ける。
「・・・だって、食べたくなかったから・・・」
「どうしてだ? 理由に関わらず、人様の好意におまえの取った態度は許さねえぜ!」
 アリオスの論旨はさらにきつくなる。
「だって、食べたくなかったものはしょうがないじゃないっ! 叔父ちゃんなんか、カトリーヌのごはんを美味しいって食べて! どうせ私は料理が下手だし、あんなに美味しく綺麗に作れないわよっ! なのにこんな風にカトリーヌの肩ばかり持って、そんなに彼女が良かったら、彼女を姪にすればいいじゃない」
 売り言葉に買い言葉的に、アンジェリークは止めどなく反応してしまう。
 アリオスの顔色が一瞬にして変わった。
「アンジェ!!!!」
 はっとした時にはもう遅くて、アリオスの大きな掌がアンジェリークの頬を思いきり叩いた。
 割れるような音が部屋にこだまする。
 アンジェリークはじんじんと痛む頬を思わず手で包みこんだ。
 余りにもの衝撃に、言葉がない。
 心を鋭いナイフで切り刻まれた気分になった。
「うわあああああんっ!」
 アンジェリークは発作的に大泣きをすると、自分の部屋に駆けていく。
 悔しくて、切なくて、哀しくて・・・。
 そんな気分がすべてを支配する。騒ぎを聞き付けた管理人のリュミエールがやってきた。
「アリオスさん・・・、女の子を殴ってはいけませんよ!」
 言われなくても判っている。
 アリオスは少し痺れる掌を切なくも見た。
 平手打ちにした瞬間のアンジェリークの瞳が忘れられない。
 哀しくも切ない光を湛えていた。

 アンジェ・・・っ! あいつがいつもと違っていたのが嫌で、いつものように笑っていないのが嫌で、つい手を上げてしまった。
 本当は、俺があいつに平手打ちされてもおかしくねえのに・・・。

 アリオスは、部屋の中にいるアンジェリークに声をかけることができずに、胸が苦しくなる。
 ふたりの間を隔てる薄い壁が、今日はとてつもなく厚いように思えた。


 いつの間にか眠ってしまっていた。
 目が覚めて時計を見るとお昼近かった。

 昨日は叔父ちゃんに悪いことをしたな・・・。

 アンジェリークがリビングに行くと、アリオスはすでにいなかった。
「叔父ちゃん、出かけちゃったんだ」
 アリオスがリビングで眠っていたことは、その残骸で判る。
「しょうがないな・・・」
 苦笑すると、アンジェリークはその後を綺麗に片付けた。
 その後、気分転換に買い物に行こうと、アパートの一歩外に出た。
 入り口近くで誰かの話声が聞こえて、アンジェリークは歩みを止める。
「しかし、昨日は派手な喧嘩だったな・・・」
 低い呟くような声は大家のクラウ゛ィスだということが判る。
「そうですねぇ。血の繋がりがないんですから、尾を引かなければいいですが・・・」
 リュミエールの言葉に、アンジェリークは顔色を変えた。

 血が繋がらない!?

 衝撃な言葉に、心臓が止まりそうになる。
 呼吸が上手く出来ない。
「だが、なかなか出来るものじゃない・・・。世話になった家族への恩がえしのために、血の繋がらない少女を引き取るなんてな・・・」
 淡々とクラヴィスは語り、その言葉がアンジェリークには突き刺さってくる。
 心が麻痺をして何も考えられない。
 泣きたかった。
 唯一の繋がりすらなくなってしまった落胆は激しすぎる。
 アンジェリークは無意識にふっと笑うと、アパートの一室に戻った。
 そして、まるでロボットのようにぎこちなく夕食を作り始める。
 今はこうするしか出来なかった。
 淡々と麻痺した心で食事を準備する。
 アリオスに作ってやる最後の料理を拵えた。
 
 叔父ちゃんに作って上げられる最後の御飯だもの、一生懸命作ろう。

 アンジェリークは思いの丈を込めて夕食を作り上げる。
 味噌汁と焼き魚、簡単な酢のものと、つけもの。
 綺麗にラップにかけて、準備を整えた。
 後はもう立ち去るだけ。

 叔父ちゃんに嫌われた上に、血が繋がっていないなんて、ここにいる資格なんかないもの・・・。

 アンジェリークは別離と感謝を伝える言葉をメモに書き留めて机に置く。
 これですべてのやるべきことは終わった。
 手文庫から父親が残してくれた預金通帳を持って、外に出る。

 さよなら叔父ちゃん・・・。

 アンジェリークがアパートから出、階段を降りていくと、クラウ゛ィス夫婦に逢った。
「あ、アンジェちゃん!」
 背の姿を見るなり、リュミエールたちは驚いたようだ。
「アンジェちゃん、学校じゃなかったの?」
「やあねえ、リュミエールさん、今日はまだ夏休みよ!」
 にこりと満面の笑顔を浮かべると、アンジェリークはアパートを出た。

 その表情が余りにも明るすぎて、リュミエールたちは不安になった。

 まさか、アンジェちゃんは・・・。

 その不安はまさに現実のものとなる。
 ぶらぶらと行く当てなどなく、アンジェリークは歩いていく。
 ぽつり------
 途中で冷たい前が落ちてきて、彼女の頬を撫でる。

 これだから夏の雨は嫌い…。
 いつも突然降り出すんだもん…。

 雨に濡れたまま、アンジェリークはただ歩く。
 行く当てなど泣く、ただ歩いていた。

 …私、どうするつもりなんだろう…。
 判らない…。
 ただ、判るのは、叔父ちゃんと繋がっているはずだった糸がぷつんと切れてしまった事だけ…。
 それと、叔父ちゃんに嫌われてしまった事…。
 これじゃあ、一緒にもう暮らせない…。


 そのころ、アリオスも雨に降られて慌ててアパートに戻ってきた。
 丁度ノンビリとしていたクラヴィスたちと鉢合わせになる。
「どうした、しけたつら並べて?」
「アリオス…」
 ふたりはお互いの顔見合わせて、心配そうな眼差しを送るが、アリオスはそんな事とは気づかずに自分の部屋に入った。
 部屋に入った瞬間、いつもより冷たい感覚がした。
「アンジェ?」
 ふと視線がダイニングテーブルに行く。
 そこにはアリオスを奈落に突き落とす置き手紙があった-----

 叔父ちゃんへ。
 今まで色々どうも有り難うございました。
 血の繋がらない私を引き取ってくれて感謝しています。
 ご恩は忘れません。
 みそ汁温めて飲んでね。
 アンジェ。

 アンジェ!!!!!!!!!!

 アリオスはもうなにも考えられなかった--------

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
後少しです。
次回はライバルと往生に、アンジェも奮起(笑)




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