Tea For Two

15


 アリオスはすぐに手紙を握り締めて、アンジェリークを探しに出ていく。

 味噌汁やおかずはまだほんのり温かかった・・・。
 それほど遠くへは行っていないはずだ・・・。

 雨は激しくなってきた。
 アリオスは傘もささずに、なりふり構わずにアンジェリークを探しに行く。

 アンジェ! アンジェ!! アンジェ!!!

  心に浮かぶは、愛らしい姪の姿だけ。
 いつもにこにこと笑っているアンジェリークや失敗して謝るアンジェリークの姿が思い浮かぶ。
「アンジェ!!!」
 激しく名前を呼びながら、アリオスはアンジェリークを探す。探して、探して、探しまくる。
「アンジェ!!!」
 アリオスの切ない叫びも今は届かない------

 アンジェリークはどうしていいのか判らずに、公園の木立ちに雨宿りをしていた。

 ・・・帰りたい。けれども、帰れない・・・。

 アンジェリークは恨めしさと切なさで空を見つめた。
「お嬢ちゃんじゃないか!」
 聞き慣れた声に、アンジェリークが顔を上げると、そこにはオスカーがいた。
「オスカーさん・・・」
「そんなところで立っていたら風邪を引くぜ? 送っていってやるから・・・」
 これにはアンジェリークは何も言わずにただ首を横に振る。
 ここにいる以上、アリオスとの間に何かあったとしか考えられない。
「おふくろの家が近い・・・。このままじゃ風邪をひいてしまう。来なさい」
 まるで子供のようにオスカーに手を引かれ、アンジェリークは付いていく。
 傘をさしてもらうその姿は、まだほんの子供のようだ。
 近くのオスカーの実家に入ると、彼の母親が温かく迎えてくれた。
「まあ、アンジェちゃん! すぐにお風呂に入って温まりなさい!」
「・・・はい」
 温かな風呂を用意してくれ、アンジェリークはそこで躰を温める。
 躰の寒さは確かに遠のいたものの、心の寒さは遠のくことはなかった。
 それどころか痛みは増し、切なさの余りに息が出来なくなる。
 じっとしていれば、いやがおうでもアリオスのことを考えてしまうので、さっさと風呂からは出てしまうことにした。
 濡れた服はオスカーの母親が乾かしてくれているので、とりあえずはオスカーの母親のスウェットを借りて着ることにした。
「有り難うございます」
 温かなスープも、オスカーの母親が用意をしてくれる。
「しっかり、躰を温めなさい」
「・・・はい」
 スープを飲みながら、アンジェリークははっとした。アリオスが名前を呼んだような気がしたからだ。

 叔父ちゃん・・・!

 アンジェリークはその声に切なくなる。
 
 叔父ちゃん、大好きな叔父ちゃん・・・。
 本当は戻りたい、だけれども戻れません・・・。

 アンジェリークは唇を噛み締めると、じっと雨が降る外を見ていた。
「すぐにアリオスに連絡をしようか」
 アリオスという名前を聞くと、アンジェリークはびくりとした。
「・・・叔父ちゃんには言わないでくださいっ!」
 アンジェリークは切なさと哀しみが入り交じった表情を見せ、オスカーはすべてを解する。
 そこにはアンジェリークの清らかな恋心が見え隠れしているのを見逃さなかった。
「・・・判った、連絡は止めておく」
 アリオスが雨の中、びしょ濡れになりながら探してくれているとは、アンジェリークは思わなかった。

 アンジェ! いったいどこにいやがる!?

 不意にアリオスの携帯電話が鳴り響く。
 一縷の望みにすがり、電話に出た。
「アリオスだ」
「オスカーだ。伝えたいことがあってな・・・」
「伝えたいこと?」
「お嬢ちゃんは、しかるべき場所に保護されている。無事だ」
 無事と聞いてほっとするものの、もちろんそれだけでは気持ちが治まらない。アリオスはすぐにオスカーに噛み付いた。
「アンジェを返せ!! 居場所を知っているんだったら教えろよ!!!」
「今はだめだ。きちんと彼女の頭が冷えてからの方が良い。もし、あの子がおまえのところに帰りたいと言えば別だが・・・」
「そうに決まっている!!」
 アリオスはいきり立つ思いを電話の前で一気に爆発させた。
「おまえの頭も冷えないと駄目じゃないのか? アリオス」
「俺は十分冷静だ!」
「そうじゃないだろう? じゃあそういうことで、また連絡する」
 オスカーはあくまで冷静に言い放つと、電話を切った。
「おい、オスカー!!! 俺はまだ話は終わっちゃいねえんだよ!!!」
 すぐにリダイヤルをするものの、”こちらの電話は電源が切られているか、電波の届かない場所にいらっしゃいます”というアナウンスが流れるだけだ。
「くそっ・・・!」
 アリオスは悪態を吐くと、何度もアンジェリークのために電話をかける。
 しかし、全く反応がなかった。

 くそっ! アンジェどこにいるんだ!!!

 雨の中、アリオスはアンジェリークを求めて探す。
 アリオスの気持ちも、今のアンジェリークには全く届かなかった。


 あの雨の夜から一月経った・・・。

 アンジェは帰ってくるどころか、連絡すらよこして来ない。
 アリオスは食卓に置いたままにしているアンジェリークの茶碗を見つめると、苦しくてしょうがない。
 アンジェリークと生活していた頃の、楽しい日々を思い出す。
「何だこの料理は!!」
「あ、生煮え! ごめんなさい叔父ちゃん! すぐに作り直すからね!!!」
 下手くそながらも一生懸命料理を作ってくれたアンジェリークの姿をふと思い出した。
「アリオスちょっといいか?」
 大家のクラウ゛ィスがやってきた。
「ああ、どうぞ」
 クラウ゛ィスは徳利とリュミエールが漬けた漬物を片手に部屋に入ると、アリオスの横に腰をかけた。
 不意にクラウ゛ィスの目に、アンジェリークの茶碗が入る。
「アンジェ・・・。私たちがうっかり話してたばかりに・・・」
「それはいいっこなしだぜ? クラウ゛ィスさんよ・・・」
 アリオスはふっと自嘲気味に笑う。

 そう、俺とアンジェが血が繋がらないのは事実なんだから・・・。

「・・・確かに、おまえさんとアンジェが血が繋がらないのは事実かもしれんが、私から見れば、血の繋がり以上の繋がりを感じた。おまえさん、アンジェが来てから随分変わったよ・・・」
 淡々と話すクラウ゛ィスの言葉に、アリオスは胸を突かれる。
 確かに、アンジェリークが来てからというもの、日々に光がさし始めたのは確かだ。
 アンジェリークがいるからこそ、家に帰るのも楽しかったし、安らぎもあった。
 俳優という職業柄、現場は緊張感を増しており、そんな中から緊張をほぐしてくれるアンジェリークは、アリオスにとっては最高の癒しだった。
「・・・そうだな。そうかもしれねえ・・・」
 蘇るのはアンジェリークの影ばかり。アリオスはウィスキーのロックに視線を落とすと、胸が軋む気分で心の中で叫ぶ。

 アンジェ!!! どこにいっちまったんだ!!!

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
後少しです。




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