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アリオスはすぐに手紙を握り締めて、アンジェリークを探しに出ていく。 味噌汁やおかずはまだほんのり温かかった・・・。 それほど遠くへは行っていないはずだ・・・。 雨は激しくなってきた。 アリオスは傘もささずに、なりふり構わずにアンジェリークを探しに行く。 アンジェ! アンジェ!! アンジェ!!! 心に浮かぶは、愛らしい姪の姿だけ。 いつもにこにこと笑っているアンジェリークや失敗して謝るアンジェリークの姿が思い浮かぶ。 「アンジェ!!!」 激しく名前を呼びながら、アリオスはアンジェリークを探す。探して、探して、探しまくる。 「アンジェ!!!」 アリオスの切ない叫びも今は届かない------ アンジェリークはどうしていいのか判らずに、公園の木立ちに雨宿りをしていた。 ・・・帰りたい。けれども、帰れない・・・。 アンジェリークは恨めしさと切なさで空を見つめた。 「お嬢ちゃんじゃないか!」 聞き慣れた声に、アンジェリークが顔を上げると、そこにはオスカーがいた。 「オスカーさん・・・」 「そんなところで立っていたら風邪を引くぜ? 送っていってやるから・・・」 これにはアンジェリークは何も言わずにただ首を横に振る。 ここにいる以上、アリオスとの間に何かあったとしか考えられない。 「おふくろの家が近い・・・。このままじゃ風邪をひいてしまう。来なさい」 まるで子供のようにオスカーに手を引かれ、アンジェリークは付いていく。 傘をさしてもらうその姿は、まだほんの子供のようだ。 近くのオスカーの実家に入ると、彼の母親が温かく迎えてくれた。 「まあ、アンジェちゃん! すぐにお風呂に入って温まりなさい!」 「・・・はい」 温かな風呂を用意してくれ、アンジェリークはそこで躰を温める。 躰の寒さは確かに遠のいたものの、心の寒さは遠のくことはなかった。 それどころか痛みは増し、切なさの余りに息が出来なくなる。 じっとしていれば、いやがおうでもアリオスのことを考えてしまうので、さっさと風呂からは出てしまうことにした。 濡れた服はオスカーの母親が乾かしてくれているので、とりあえずはオスカーの母親のスウェットを借りて着ることにした。 「有り難うございます」 温かなスープも、オスカーの母親が用意をしてくれる。 「しっかり、躰を温めなさい」 「・・・はい」 スープを飲みながら、アンジェリークははっとした。アリオスが名前を呼んだような気がしたからだ。 叔父ちゃん・・・! アンジェリークはその声に切なくなる。 叔父ちゃん、大好きな叔父ちゃん・・・。 本当は戻りたい、だけれども戻れません・・・。 アンジェリークは唇を噛み締めると、じっと雨が降る外を見ていた。 「すぐにアリオスに連絡をしようか」 アリオスという名前を聞くと、アンジェリークはびくりとした。 「・・・叔父ちゃんには言わないでくださいっ!」 アンジェリークは切なさと哀しみが入り交じった表情を見せ、オスカーはすべてを解する。 そこにはアンジェリークの清らかな恋心が見え隠れしているのを見逃さなかった。 「・・・判った、連絡は止めておく」 アリオスが雨の中、びしょ濡れになりながら探してくれているとは、アンジェリークは思わなかった。 アンジェ! いったいどこにいやがる!? 不意にアリオスの携帯電話が鳴り響く。 一縷の望みにすがり、電話に出た。 「アリオスだ」 「オスカーだ。伝えたいことがあってな・・・」 「伝えたいこと?」 「お嬢ちゃんは、しかるべき場所に保護されている。無事だ」 無事と聞いてほっとするものの、もちろんそれだけでは気持ちが治まらない。アリオスはすぐにオスカーに噛み付いた。 「アンジェを返せ!! 居場所を知っているんだったら教えろよ!!!」 「今はだめだ。きちんと彼女の頭が冷えてからの方が良い。もし、あの子がおまえのところに帰りたいと言えば別だが・・・」 「そうに決まっている!!」 アリオスはいきり立つ思いを電話の前で一気に爆発させた。 「おまえの頭も冷えないと駄目じゃないのか? アリオス」 「俺は十分冷静だ!」 「そうじゃないだろう? じゃあそういうことで、また連絡する」 オスカーはあくまで冷静に言い放つと、電話を切った。 「おい、オスカー!!! 俺はまだ話は終わっちゃいねえんだよ!!!」 すぐにリダイヤルをするものの、”こちらの電話は電源が切られているか、電波の届かない場所にいらっしゃいます”というアナウンスが流れるだけだ。 「くそっ・・・!」 アリオスは悪態を吐くと、何度もアンジェリークのために電話をかける。 しかし、全く反応がなかった。 くそっ! アンジェどこにいるんだ!!! 雨の中、アリオスはアンジェリークを求めて探す。 アリオスの気持ちも、今のアンジェリークには全く届かなかった。 あの雨の夜から一月経った・・・。 アンジェは帰ってくるどころか、連絡すらよこして来ない。 アリオスは食卓に置いたままにしているアンジェリークの茶碗を見つめると、苦しくてしょうがない。 アンジェリークと生活していた頃の、楽しい日々を思い出す。 「何だこの料理は!!」 「あ、生煮え! ごめんなさい叔父ちゃん! すぐに作り直すからね!!!」 下手くそながらも一生懸命料理を作ってくれたアンジェリークの姿をふと思い出した。 「アリオスちょっといいか?」 大家のクラウ゛ィスがやってきた。 「ああ、どうぞ」 クラウ゛ィスは徳利とリュミエールが漬けた漬物を片手に部屋に入ると、アリオスの横に腰をかけた。 不意にクラウ゛ィスの目に、アンジェリークの茶碗が入る。 「アンジェ・・・。私たちがうっかり話してたばかりに・・・」 「それはいいっこなしだぜ? クラウ゛ィスさんよ・・・」 アリオスはふっと自嘲気味に笑う。 そう、俺とアンジェが血が繋がらないのは事実なんだから・・・。 「・・・確かに、おまえさんとアンジェが血が繋がらないのは事実かもしれんが、私から見れば、血の繋がり以上の繋がりを感じた。おまえさん、アンジェが来てから随分変わったよ・・・」 淡々と話すクラウ゛ィスの言葉に、アリオスは胸を突かれる。 確かに、アンジェリークが来てからというもの、日々に光がさし始めたのは確かだ。 アンジェリークがいるからこそ、家に帰るのも楽しかったし、安らぎもあった。 俳優という職業柄、現場は緊張感を増しており、そんな中から緊張をほぐしてくれるアンジェリークは、アリオスにとっては最高の癒しだった。 「・・・そうだな。そうかもしれねえ・・・」 蘇るのはアンジェリークの影ばかり。アリオスはウィスキーのロックに視線を落とすと、胸が軋む気分で心の中で叫ぶ。 アンジェ!!! どこにいっちまったんだ!!! |
コメント 昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。 悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。 後少しです。 |