Tea For Two

16


 アリオスに名前を呼ばれたような気がして、アンジェリークははっとした。

 叔父ちゃん・・・。
 探してくれているはずなんてないのに・・・。

 オスカーの実家に世話になって、そろそろ一月になる。
 これ以上は迷惑をかけられないので、そろそろ本当にこの場所も後にしなければならない。
 時々、オスカーも心配してか、様子を見にきてくれる。
 それにはとても感謝していた。
 オスカーの母もすっかりアンジェリークを気に入ってくれている。
「お嬢ちゃん、お茶が入ったそうだ」
「はい、有り難うございます」
 僅かに微笑みを浮かべると、アンジェリークは頷く。

 以前のような笑顔がお嬢ちゃんから見られなくなったな・・・。
 それは当たり前か。
 アリオスがいないんだからな・・・。

「あ、お手伝いします」
 オスカーの母親が準備をしているのを見て、アンジェリークはほんの僅かだが手伝う。
「いつも有り難う」
 オスカーの母の言葉に、アンジェリークは笑顔で返した。

 こんなに豪華じゃなかったけど、叔父ちゃんと飲んだお茶は美味しかった・・・。

「ねぇ、アンジェちゃん、オスカーとも話していたんだけれど、うちの養女にならない?」
「養女・・・」
 突然の申し出に、アンジェリークは正直驚いた。
 考えても見なかったことを言われて、正直驚いた。
「私・・・」
 俯いて前を見ることができない。
 オスカー母子には感謝している。
 感謝してもしきれないと思っている。
 だが、”養女”という言葉に戸惑いを覚えるのも、また事実だ。
 自分勝手だとは思う。
 だが、血は繋がらなくても、アリオス以外の人間と家族になりたくないし、なれなかった。
「よく考えてくれたらいいんだ。お嬢ちゃん」
「・・・はい。有り難うございます」
 そう言ったものの答えなんて決まっていた。
 逡巡することなんてない。
 直後に口づけたお茶は、妙に苦かった。


 最近演技にも全く実が入らない。
 アンジェリークのせいだ。
 オスカーからはあれから連絡は一切なく、こちらから連絡をしようにも、出来ない状態だった。

 オスカーのやつめ、いったいどこにいやがる・・・!!!

 アリオスは今日の役柄であるチンビラの格好をして、スタジオの廊下をぶらぶら歩いていた。
 目の前を歩いている男を見てはっとする。
 オスカーだ。
 最近、正月スペシャル時代劇の”あさきゆめみし”で光源氏を演じているせいか、直衣スタイルだ。
「オスカー、オスカー!!」
 何度か名前を呼ぶが、オスカーの返事はない。
 アリオスは少し苛ついて、更に追いかける。
「オスカー!!!」
 直前で肩を掴んで呼び止め、ようやく立ち止まった。
「何だ・・・、アリオスか・・・」
「”何だ、アリオスか”じゃねぇ!!!」
 アリオスの激しい苛立ちに、なるべく反応しないようにオスカーは努めた。
 だが、冷たい激情の炎が瞳の奥に燃え盛っているのが判る。
 オスカーが無反応でいると、アリオスはいきなり掴み掛かってきた。
「アンジェをどこに隠しやがった、この野郎!!!」
 アリオスは冷静ではなく、完全に恋するひとりの男だった。
「お嬢ちゃんは、うちの養女にすることになったんだ」
「・・・!!!」
 アリオスの表情が瞬時に変貌する。
「勝手なことをするな!! あいつの保護者はこの俺だ!!!」
 かなりいきり立ったアリオスは、手に追えないほどだった。
「血が繋がってない以上、あの子はそうは思っちゃいないよ」
「・・・アンジェがそう言ったのか?」
 アリオスの表情が煙る。
「ああ。そうだ・・・」
 本当は同意してもらったわけではない。だがオスカーは思わず言ってしまった。 
「くそっ!!! アンジェを返しやがれっ!!!」
 いきなりアリオスが殴りかかり、勢いでふたりして倒れる。
 アリオスが殴りかかる時、その瞳を見て、オスカーははっとする。

 こいつ本気であの子のこと・・・。

「返せ! アンジェを返せよ!!!」
 アリオスの燃えるような瞳と、切ない表情にオスカーははっとする。

 おまえたちはこんなに好きあっている・・・。
 俺はそれを邪魔しているってことか・・・。

 オスカーは胸の奥がひどく痛くなるのを感じる。何だか笑ってしまう。
「何がおかしい!?」
「いいや。すぐに撮りだ。決着は後でつけよう」
「後で決着なんて温いことなんか言うんじゃねえ! 今だ! 今決着を付けろ!!!」
 アリオスがかかってくるのを、オスカーは一瞬早くかわして立ち上がる。
「決着は必ずつけさせてやる。心配すんな。おまえたちには絶対に必要だ」
 オスカーは低い声で呟くと、ゆっくりと立ち去る。

 そう、おまえたちはちゃんと決着を着けなければならないんだ・・・。

 凛として背筋を延ばすオスカーを見送りながら、アリオスは苦しい思いを感じていた。

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
後少しです。
次回最終回と言いましたが、もう一回おねがいします




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