Tea For Two

9


 叔父ちゃんのこと、どんどん好きになっていく。
 叔父ちゃん以外好きになれない。
 私の白い皇子様・・・。

「アンジェ、素敵な男性がいるんだけどさ。逢ってみたいとか思わない?」
 ”素敵な男性”
 その一言にアンジェリークはドキリとする。

 そんなことひとりしか考えられない。
 私にとって素敵な男性は叔父ちゃんだけだもの・・・。

「素敵な男性・・・。まだその気ないかな」
 少し言葉尻を濁しながら、アンジェリークはぽつりぽつりと呟く。
「そうなんだ。また、その気になったら言ってね〜!!」
 レイチェルの言葉に、コクリと笑顔で頷いてみせた。

 他の男性なんて考えられない。
 だって叔父ちゃんが一番だもの・・・!!!
 叔父ちゃんに、私、どうしようもないほど惹かれてる・・・。


 鬘を床山にセットされ、アリオスは溜め息を吐く。

 今日は流れものの浪人役か。久し振りに良い役だけれどな。

 出番までまだ少し時間があるので、スタジオの喫茶室で時間を潰すことにした。
「おいアリオス!」
 声をかけられ振り返ると、そこにはオスカーがいる。
「オスカーか。何だ、そのおかしなコスプレは・・・」
「ドラキュラだ! 夏休みの最後の週で放送予定の”夜明けのウ゛ァンパイア”の撮りだ」
「妖しいやつかよ」
 しらっと答えると、オスカーは僅かに眉を上げた。
「時間があったら、一緒にお茶でも飲まないか?」
「俺をナンパしてるのか? あいにく血は美味くないぜ」
「アホか・・・」
 ふたりは揃って喫茶室に向かう。
 そこはスタジオの喫茶室なので、色々な扮装をしている俳優の姿が見受けられる。
「ありゃ、タンタンの着ぐるみまでいるぜ? 今日は”ひらけ! パンキッキ”の撮りかよ」
「タンタン、いいよなあ」
 密かなタンタンファンのオスカーは、じっとタンタンを見つめていた。
「おい、そんなにタンタンが好きならサインでも貰ってこいよ」
 ブラックコーヒーをすすりながらアリオスが冷静に言うと、オスカーは向き直る。
「ガキの頃から好きだったんだっ!! おまえだってタンタン好きだろっ!」
「どうでもいい」
 余りにも冷静なアリオスに、オスカーは何も返せなかった。
「そう言えば、この間、おまえの姪っ子のお嬢ちゃんに逢った」
「アンジェに…」
 じっとオスカーはアリオスを見つめた後、フッと笑う。
「あの子、良い子だな・・・」

 ったくこいつは気障な間の取り方でしか話せんのか。

「あの子、明るくって優しいって、おふくろも言ってた。たまたま、俺のおふくろが荷物をおとしちまって、助けてくれたんだ」
 アンジェリークらしい行動に、アリオスは心温まる気がする。
「おまえ、お嬢ちゃんの話を聞く時に、すげえ優しい表情するな」
「そうか?」
 無意識な部分を指摘されて、アリオスは少し照れくさかった。
「変わったな…」
「俺が?」
「ああ。お嬢ちゃんが来てから、おまえ凄く変わったよ。角が取れたというかな。
 演技にも幅が広がって、今、その証拠にオファーがいっぱい来ているだろ?」
 そんなこと考えたこともなく、アリオスは軽く息を呑んだ。
 確かに、アンジェリークがきてからというもの、すべてにおいて張り合いが出てきている。
 家に帰るのが楽しい。
 演じるのに張り合いが出る。
 アンジェリークがいればそれだけで楽しい。
「あの子本当に良い子だからな。大事にしてやれよ」
「ああ」
 アリオスは当たり前だとばかりに頷くとコーヒーを呑む。
 少し甘い味がした。


 アンジェリークはいつものようにアパートに帰り、制服から鼻歌混じりで服に着替える。
 アリオスもまた今日は早めに撮影が終わり帰宅してきた。
「ただいま」
 ドアを開けると、アンジェリークの靴があり、帰っているのが判る。
「何だアンジェ、帰っているのか。いるなら返事をしろよ」
 鼻歌が聞こえ、アリオスは部屋の前に行く。
 丁度ドアが開いていたので、ひょいと部屋を覗きこんだ。
 次の瞬間、はっと息を呑む。
 アンジェリークが下着姿で着替えをしていた。
 眩しくも初々しい姿に思わず見つめてしまう。
 目があった瞬間、アリオスはばたんとドアを閉じた。
「すまねえ。ドアが開いていたから」
「だ、大丈夫」
 そう言いながらも、アンジェリークは胸をどきどきとさせていた。

 一瞬、震えちゃった・・・。
 やっぱり、叔父ちゃんは立派な男の人で、大人で・・・。
 見られるの恥ずかしいけど、嫌じゃなかったな・・・。
 叔父ちゃんだから・・・。

 アリオスは自分の部屋に戻ると、大きな溜め息をひとつ吐く。

 あのまま、あの場にいたら、十中八九抱き締めていた・・・。
 そのまま奪いさえしていたかもしれねえ・・・。
 アンジェだから。あいつだからそう思った・・・。
 姪なのに、姪のはずなのに・・・。
 俺は何を考えている・・・。

 煙草を強引に唇に押し込めると、切なさを落ち着かせる為に、アリオスは宙に紫煙を吐き続けた。

 何だか妙に意識しちゃう。
 ドアが開いてるって知らずに、着替えていた私が悪いのにね・・・。

 料理を作りながら、アンジェリークはどきどきとする。嫌などきどきではない。
 それどころかときめきすら混じっている。
 今日のメニューは夏らしくマーボー茄子で、アンジェリークが食べたくてつくる。
 もちろんマーボー豆腐が難しくて無理だからということもあるのだが。
 野菜をメインにしたおかずと余った茄子で作った茄子の味噌汁。
 漬物まで茄子という、”茄子責め”夕飯だった。
 アリオスを呼ぶ為にドアの前で大きく深呼吸をした後、アンジェリークはノックをした。
「叔父ちゃん、ごはんだよっ!!」
「ああ。今いく」
 アンジェリークがいつもの調子なので、正直ほっとする。
 キッチンに向かうと、とても美味しそうな香りが漂っている。
「今日のメニューは何だ?」
「今日のメニューは、マーボー茄子、茄子のお味噌汁、茄子の漬物」
「・・・茄子の夢を見そうだな」
「茄子は美味しいよ?」「
まあな」
 アリオスは席に座ると、温かな料理に目を細めた。
 心が籠った料理を食べると、心も躰も温まる。アリオスは初めてそんなことを知った。
 教えてくれたのはアンジェリーク。

 オスカー、おまえの言う通り、俺はこいつが来てから随分色々なことを学んで、心が癒されてきた。
 アンジェがいるから、今、こうしてすべてに感謝しながら頑張れるのかもしれない。

「美味いな、茄子」
「ホント! よかった〜! 旬だからね〜!!」
 嬉しそうなアンジェリークの笑顔も最高のスパイス。アリオスは温かさをくれたアンジェリークを真剣に想い始めていた。

コメント

昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。
悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。
定番シーンも織り交ぜての9回目。
阪神もマジック49(笑)
9揃いですな。




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