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叔父ちゃんのこと、どんどん好きになっていく。 叔父ちゃん以外好きになれない。 私の白い皇子様・・・。 「アンジェ、素敵な男性がいるんだけどさ。逢ってみたいとか思わない?」 ”素敵な男性” その一言にアンジェリークはドキリとする。 そんなことひとりしか考えられない。 私にとって素敵な男性は叔父ちゃんだけだもの・・・。 「素敵な男性・・・。まだその気ないかな」 少し言葉尻を濁しながら、アンジェリークはぽつりぽつりと呟く。 「そうなんだ。また、その気になったら言ってね〜!!」 レイチェルの言葉に、コクリと笑顔で頷いてみせた。 他の男性なんて考えられない。 だって叔父ちゃんが一番だもの・・・!!! 叔父ちゃんに、私、どうしようもないほど惹かれてる・・・。 鬘を床山にセットされ、アリオスは溜め息を吐く。 今日は流れものの浪人役か。久し振りに良い役だけれどな。 出番までまだ少し時間があるので、スタジオの喫茶室で時間を潰すことにした。 「おいアリオス!」 声をかけられ振り返ると、そこにはオスカーがいる。 「オスカーか。何だ、そのおかしなコスプレは・・・」 「ドラキュラだ! 夏休みの最後の週で放送予定の”夜明けのウ゛ァンパイア”の撮りだ」 「妖しいやつかよ」 しらっと答えると、オスカーは僅かに眉を上げた。 「時間があったら、一緒にお茶でも飲まないか?」 「俺をナンパしてるのか? あいにく血は美味くないぜ」 「アホか・・・」 ふたりは揃って喫茶室に向かう。 そこはスタジオの喫茶室なので、色々な扮装をしている俳優の姿が見受けられる。 「ありゃ、タンタンの着ぐるみまでいるぜ? 今日は”ひらけ! パンキッキ”の撮りかよ」 「タンタン、いいよなあ」 密かなタンタンファンのオスカーは、じっとタンタンを見つめていた。 「おい、そんなにタンタンが好きならサインでも貰ってこいよ」 ブラックコーヒーをすすりながらアリオスが冷静に言うと、オスカーは向き直る。 「ガキの頃から好きだったんだっ!! おまえだってタンタン好きだろっ!」 「どうでもいい」 余りにも冷静なアリオスに、オスカーは何も返せなかった。 「そう言えば、この間、おまえの姪っ子のお嬢ちゃんに逢った」 「アンジェに…」 じっとオスカーはアリオスを見つめた後、フッと笑う。 「あの子、良い子だな・・・」 ったくこいつは気障な間の取り方でしか話せんのか。 「あの子、明るくって優しいって、おふくろも言ってた。たまたま、俺のおふくろが荷物をおとしちまって、助けてくれたんだ」 アンジェリークらしい行動に、アリオスは心温まる気がする。 「おまえ、お嬢ちゃんの話を聞く時に、すげえ優しい表情するな」 「そうか?」 無意識な部分を指摘されて、アリオスは少し照れくさかった。 「変わったな…」 「俺が?」 「ああ。お嬢ちゃんが来てから、おまえ凄く変わったよ。角が取れたというかな。 演技にも幅が広がって、今、その証拠にオファーがいっぱい来ているだろ?」 そんなこと考えたこともなく、アリオスは軽く息を呑んだ。 確かに、アンジェリークがきてからというもの、すべてにおいて張り合いが出てきている。 家に帰るのが楽しい。 演じるのに張り合いが出る。 アンジェリークがいればそれだけで楽しい。 「あの子本当に良い子だからな。大事にしてやれよ」 「ああ」 アリオスは当たり前だとばかりに頷くとコーヒーを呑む。 少し甘い味がした。 アンジェリークはいつものようにアパートに帰り、制服から鼻歌混じりで服に着替える。 アリオスもまた今日は早めに撮影が終わり帰宅してきた。 「ただいま」 ドアを開けると、アンジェリークの靴があり、帰っているのが判る。 「何だアンジェ、帰っているのか。いるなら返事をしろよ」 鼻歌が聞こえ、アリオスは部屋の前に行く。 丁度ドアが開いていたので、ひょいと部屋を覗きこんだ。 次の瞬間、はっと息を呑む。 アンジェリークが下着姿で着替えをしていた。 眩しくも初々しい姿に思わず見つめてしまう。 目があった瞬間、アリオスはばたんとドアを閉じた。 「すまねえ。ドアが開いていたから」 「だ、大丈夫」 そう言いながらも、アンジェリークは胸をどきどきとさせていた。 一瞬、震えちゃった・・・。 やっぱり、叔父ちゃんは立派な男の人で、大人で・・・。 見られるの恥ずかしいけど、嫌じゃなかったな・・・。 叔父ちゃんだから・・・。 アリオスは自分の部屋に戻ると、大きな溜め息をひとつ吐く。 あのまま、あの場にいたら、十中八九抱き締めていた・・・。 そのまま奪いさえしていたかもしれねえ・・・。 アンジェだから。あいつだからそう思った・・・。 姪なのに、姪のはずなのに・・・。 俺は何を考えている・・・。 煙草を強引に唇に押し込めると、切なさを落ち着かせる為に、アリオスは宙に紫煙を吐き続けた。 何だか妙に意識しちゃう。 ドアが開いてるって知らずに、着替えていた私が悪いのにね・・・。 料理を作りながら、アンジェリークはどきどきとする。嫌などきどきではない。 それどころかときめきすら混じっている。 今日のメニューは夏らしくマーボー茄子で、アンジェリークが食べたくてつくる。 もちろんマーボー豆腐が難しくて無理だからということもあるのだが。 野菜をメインにしたおかずと余った茄子で作った茄子の味噌汁。 漬物まで茄子という、”茄子責め”夕飯だった。 アリオスを呼ぶ為にドアの前で大きく深呼吸をした後、アンジェリークはノックをした。 「叔父ちゃん、ごはんだよっ!!」 「ああ。今いく」 アンジェリークがいつもの調子なので、正直ほっとする。 キッチンに向かうと、とても美味しそうな香りが漂っている。 「今日のメニューは何だ?」 「今日のメニューは、マーボー茄子、茄子のお味噌汁、茄子の漬物」 「・・・茄子の夢を見そうだな」 「茄子は美味しいよ?」「 まあな」 アリオスは席に座ると、温かな料理に目を細めた。 心が籠った料理を食べると、心も躰も温まる。アリオスは初めてそんなことを知った。 教えてくれたのはアンジェリーク。 オスカー、おまえの言う通り、俺はこいつが来てから随分色々なことを学んで、心が癒されてきた。 アンジェがいるから、今、こうしてすべてに感謝しながら頑張れるのかもしれない。 「美味いな、茄子」 「ホント! よかった〜! 旬だからね〜!!」 嬉しそうなアンジェリークの笑顔も最高のスパイス。アリオスは温かさをくれたアンジェリークを真剣に想い始めていた。 |
コメント 昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。 悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。 定番シーンも織り交ぜての9回目。 阪神もマジック49(笑) 9揃いですな。 |