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「あいつ、お嬢ちゃんがそばに来てから随分変わったぜ?」 アンジェリークは僅かに頬を赤らめながら、少し嬉しそうにオスカーを見る。 「ホントですか?」 「ああ。尖ってばかりだったあいつが、少し丸みを帯びてきたからな」 紅茶を一口口に含むと、オスカーはアイスブルーの瞳をまっすぐ向けてきた。 一瞬、どきりとする。 「あいつ俺より良い俳優になるぜ。今はまだ悪役ばかりで、テレビじゃそんなイメージしかないかもしれねえが、あいつは絶対に良い俳優になる。俺なんかより深いものもってるし、だれよりも繊細なものを持ってる。表現力もあるが・・・」 そこで言葉を一端切ると、オスカーはアンジェリークを射るように見つめる。 「あいつ、心に傷を持ってるから」 オスカーが胸を抑えるしぐさをすると、アンジェリークははっとする。 「知ってただろう?」 一度だけコクリと頷く。 ことあるごとにアリオスは寂しげな表情をしていたのを思いだし、胸がつまる。 叔父ちゃん・・・。 いつでも、私ばかりを励ましたり、包み込んだりしてくれてた。 いつも私は甘えてばかりで、叔父ちゃんに甘えていた・・・。 いつも、いつもごめんね。 「お嬢ちゃん、君だったらあいつをもっと癒して、良い俳優にすることが出来るぜ?」 「ホントに?」 「ああ」 もしそう出来ればいいと思う。 アリオスの役に立てられれば、これ以上に言うことはない。 「あいつをこれからもその笑顔で癒してやってくれ」 「はい・・・」 そうなればいいと想いながらしっかりと頷いて、アンジェリークは微笑んだ。 家に帰る道で、アンジェリークはふわふわとした気分になった。 宙を歩いているようなそんな足取りで町中を歩く。 何だろう。胸の奥が切なくなる・・・。 いつもの光景なのになんだか寂しい気分になる・・・。 叔父ちゃんがいない…。 叔父ちゃんがいないから・・・。 どこにもいないから・・・。 凄く寂しい。私の隣にいて欲しい。 そばにずっと・・・。 雑踏の中、アンジェリークは気付く。 私・・・、きっと叔父ちゃんに凄く恋をしている・・・。 恋してるんだ…。 突然気付いた事実に、アンジェリークは胸が締め付けられるほど切なかった。 「今日の調理は、各自テーマを決めて行ってください」とのことだったので、アンジェリークはすぐにテーマを決めた。 テーマは”ピクニックのおにぎり” 「何それ? 石炭じゃないんだから〜」 レイチェルにからかわれるが、アンジェリークは至って真剣だ。 「だってピクニックたのしいでしょ? お弁当みたいにおにぎりの中にいっぱいおかずを入れるの」 「何を?」 「卵焼きとかしゃけとかおかか」 「う〜ん。不味くはなさそうな組み合わせだけれどね」 確かにどれも無難な組み合わせであるので、レイチェルは頷いてみた。 卵焼きを作り鮭を焼き、かつおに醤油をからめて具を一生懸命作る。 「おにぎりってね、三角に握るの難しい〜!」 一生懸命おにぎりを握るアンジェリークに、レイチェルはくすりと微笑む。 「爆弾おにぎりみたいだね」 「でも、味は美味しいんだから!」 自慢げに言うアンジェリークが愛らしい。 不器用ながらも頑張る姿が本当に可愛いかった。 「叔父さんに作ってあげるの?」 途端にアンジェリークは真っ赤になってしまう。 「・・・叔父ちゃん、食べてくれるかな」 「食べてくれるでしょう。ニンニクカレーを食べてくれたんだから」 レイチェルは真っ赤になっているアンジェリークを覗き込んだ。 その純粋さが愛おしい。 「うん、そうかな・・・」 一生懸命作ったおにぎりをアンジェリークは見つめ、アリオスが喜んでくれる顔を思い出して、幸せな気分になっていた。 食べてね、叔父ちゃん…。 心を込めたおにぎりを家に持って帰り、後は味噌汁を作ることにした。 おにぎりだけだと栄養のバランスが悪いような気がするので、沢山の野菜を入れて味噌汁を作る。 味噌汁を作るのもようやくこつが判るようになり、アンジェリークの得意料理になりつつある。 味噌汁が出来た頃、アリオスが帰ってきた。 「おかえり叔父ちゃん」 「ただいま」不 規則な仕事なのにちゃんと帰ってきてくれるのが嬉しい。 ”あまり売れてないから”と本人は言うが、実のところ知名度は結構あり、”悪役の定番”として、誰もが知るところだ。 悪役だって何だって、私が一番叔父ちゃんのこと知っているんだから アリオスが着替えて手を洗ったあと、キッチンにやってきた。 「今日のメシは何だ?」 「アンジェ風スペシャルおにぎりと野菜の味噌汁」 ほかほかとした味噌汁とばくだんのようなおにぎり。 あまり豪華な晩餐だとは言えないが、アンジェリークが一生懸命作ってくれたのだ。 アリオスは席について食べ始める。 「おっ、このおにぎり変わってんな? 中に色々と具が入っている」 「うん。ピクニックのお弁当みたいなおにぎりを作りたかったの。中には卵焼きと鮭とおかかが入ってるの」 「美味いな〜!」 アンジェリークが一生懸命作ってくれたのだ。 その心が本当にたっぷりと詰まっていて美味しい。 「叔父ちゃん、無理しなくてもいいのよ?」 「そうか? この味噌汁も握り飯も美味いぜ」 アンジェリークは嬉しくなって、笑いながらおにぎりをぱくつく。 「ほんとだ。ボリュームがあって美味しい」 味噌汁と合わせると、丁度いい組み合わせになった。 「ピクニックに行く気分で、おにぎりを握ったの。凄く楽しかった」 先日、アンジェリークがピクニックに来ている親子連れを見て、羨ましそうにしていたのを思い出す。 きっと家族を思い出しながら作ったのであろう。 「なあ、今からピクニックに行こうぜ」 「ピクニック! 今から!?」 「ああ。握り飯と味噌汁持って俺の部屋に行くぜ」 何をするのか判らずに、アンジェリークは言われた通りにした。 部屋に座り込んで、アリオスが急に鳥の鳴き声のように口笛を吹き始める。 「ピー、チュンチュン」 え!? ここで何を始めるの? 「さわさわさわ」 手を大きく使って、アリオスは木を表現する。 えっ!? パントマイム・・・? 気が違ったんじゃ・・・。 だが、アリオスの巧みなパントマイムに、ここは公園のような気になってくる。 「おいアンジェ見えてきたぜ! 一面の花畑だ!」 ごろりと寝転がるとアリオスが指で草をなぞるしぐさをして、本当に指から草が零れているように見える。 すごい!! すごいわ!! 本当にピクニックに行った気分になっちゃう!! 「やっぱり、新鮮な空気を吸っておにぎりを食べるのは美味しいね〜!!」 「だろ? 俺もまだ摘むぜ」 ふたりで仲良くおにぎりをほおばり、微笑み合う。 本当にのどかな休日の午後に思えてくる。 叔父ちゃん…。 今までで最高に素敵なピクニックだわ…。 本当に、本当に…。 あなた以外に誰も好きになれない…!!! |
コメント 昔懐かしい少女マンガを踏襲した物語です。 悪役スターアリオスとその姪アンジェリークのお話です。 爆弾おにぎり。 ほんま美味いんかいの〜。 まあ、うちのアリさんは、アンジェの作ったもンなら何でも食いそうですが(笑) |