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「人と人の出会いに偶然はありません。全て”出会うべくして出会った”。必然なのですよ」 上級天使であるリュミエールは穏やかに微笑みながら、アンジェリークに話しかけてきた。 「偶然ではなく必然・・・」 アンジェリークは心に刻みつけるように呟くと、リュミエールは優しい微笑みを浮かべながら頷く。 「あなたとアリオスは、天使と人間という立場の違いこそあれ、用意されていた出会いです。どうかその優しい心根で癒してあげてくださいね」 一にも二もなく、アンジェリークは頷いた。 大好きな男性の役に立てると言うのは、天使としてなんと素晴らしいことなのだろうか。 「あなたは、一人暮らしの平凡な少女として、下界ではお暮らしなさい。生活にかかる費用などは、すでに用意してありますから。そして、アリオスとの出会いも・・・」 アンジェリークの手をしっかりと握り締めると、リュミエールは優しい力を送ってくれる。 「頑張りなさい、アンジェリーク。そして、あなたが天使としての最初の奇跡を起こすのですよ?」 「はい」 アンジェリークは愛らしい神聖な笑顔を浮かべ、決意を固めた。 アリオスを幸せにして、癒してあげたい。 その決意の元、仲間の天使たちに見送られながら、アンジェリークは下界に向けて旅立った------ 荷物はメアリー・ポピンズと同じ、パラソルと鞄だけだ。 久し振りに下界に下り立つと、その煩すぎるほどの喧騒に、正直へとへとになる。 下界で”人間”として生活をするために、僅かな天使の力は封印されてしまっているせいか、飛んで移動したりすることも出来ない。 まずは、生前から大好きだった、CDショップに行き、アリオスのCDを探しに行くことにした。 やはり、アンジェリークが天国に行ってから1枚のシングルと1枚のアルバムが出ていた。 それを早速購入し、聴くことにする。 きっと住むところには、ちゃんとプレイヤーがあるよね〜! 天使としての心情よりも、アリオスの大ファンだという心情のほうが大きく、アンジェリーク、CDを手にして、ほくほく顔で一端、住むことになったアパートに向かった。 アパートに入ると、ある程度の予想通り質素なものだった。 ベッドと最少限の家財道具だけ。CDだとかテレビといった娯楽ものは、一切ない。 「そうよね、仕事で来ているんだもん・・・」 支給されたなけなしのお金で買ったCDたち。 これで当分の間は、パンと牛乳だけで暮らさなければならない。 「いいや。ジャケットも凄く素敵だし、お守りとして持っておこう!」 中のブックレットの写真を堪能してから、アンジェリークは大切な宝物のように、持ってきたバッグの中にCDを片付けた。 天国に帰ったときにも、きっと宝物になるから…。 リュミエール様は、私がアリオスと出逢える”偶然”を作って下さるとおっしゃっていたけど・・・、どんな出会いをご用意して下さっているんだろう。 ドキドキしちゃうな・・・。 アパートに荷物を置いて、アンジェリークはぶりぶらとすることにした。 地方に住んでいたため、賑やかな中心地は、憧れの行ってみたい場所が多い。 だが、あまりお金がないために、行く場所を吟味することにした。 とにかく、出来るだけ歩くことに決めて、地図を見ながら、歩き始める。 電車は運賃の最低区間だけ乗り、目的地に向かった。 「一度、テレビ局に行ってみたかったもんね〜。ひょっとしたら、アリオスが音楽番組に出ているかもしれないしね〜!」 アンジェリークは、前向きに歩いていく。 久しぶりに感じる下界は、たとえ歩くだけでも楽しかった。 目的のテレビ局に着くと、既に凄い人だかりだ。 「アリオス!!! もうサイコー!」 人だかりの中の少女たちは、みんな凄く大騒ぎしている。 偶然にも、アリオスを待っているシーンに出くわすことが出来た。 やっぱり、アリオスは凄い人気だな・・・。 素敵だもんね・・・。 アンジェリークは何とかこの人込みからアリオスを一目見ようとするが、見ることはとても難しい。 「あ、来た〜!!!」 歓声のボルテージが一気に上がり、誰もが目立とうと、手を振っている。 その様子を、アンジェリークは切なげに見ていた。 私も、きっとこんな立場じゃなかったら、一生懸命アリオスに向かって手をふっていただろうな。 本当に大好きだったもん・・・。 アンジェリークは、そこにいる少女たちにかつての自分の姿を重ねる。 甘酸っぱくも切ない思いに包まれ、彼女はノスタルジーを感じていた。 歌番組の公開録画に入れずにいるファンたちのために、テレビ局は、大画面で中継してくれている。 その大画面の前もかなりの人だかりだ。 アンジェリークはファンと一緒に、そこでアリオスを見ることにした。 相変わらず、アリオスは素敵過ぎて、曲も本当に素敵だ。 まさに、”素敵”という言葉は、彼のためにあるのではないかと、アンジェリークは思わずにはいられない。 新曲も凄くいいや・・・。 こんなところで聞けるなんて、嬉しいな。 CDプレイヤーはないけど、、ここで聴けるのは嬉しいな〜。 耳を傾けながら、逆に自分が癒されるのを感じた。アリオスの出番が終わると、また、誰もが道路側を向く。 しゃべりながら、アリオスが来るチャンスを伺おうというのだ。 こんなところで、アリオスと出会うのは無理かな・・・。 偶然の出会いってどこにそんなものが落ちているんだろ。リュミエール様に訊きたい気分。 アンジェリークは一足先に人ごみを後にして、ゆっくりと歩いていった。 アパートまで、このまま歩くことにする。 2、3時間はかかるかもしれないが、節約にもなるし、ましては生前では楽しむことが出来なかった散歩を楽しめるというものだ。 アンジェリークは歩いて帰り、その日は結局アリオスと”偶然”の出会いをすることはなかった。 アリオスは仕事の後、今日も後腐れのない違った相手と寝ていた。 毎日、違った女が相手になる。 温もりさえ共有できれば、誰だってよかった。 虚構の世界に生きている自分が虚しくて、時折、心が空っぽになる。 「適当にチェックアウトしといてくれ」 「うん。じゃあね」 アリオスはあっさりと女と別れた後、車で家の近くの公園に向かう。 早朝の公園は、誰もいなくてぼんやりするには丁度よかった。 アリオスはいつものベンチに座って、煙草を吸いながら前の池にいるアヒルをぼんやりと見つめる。 心をからっぽにすることが出来る大切な時間だ。 超人気のスーパースターがこんな所にいるとは誰が想像できるだろうか。 早朝の空気に身をさらしながら、アリオスは空っぽの心を癒していた----- 天使のせいか、アンジェリークの生活は至って健康そのもの。 朝起きて身支度をした後、早朝の公園を散歩しに行く。 そこにまさか、アリオスがいるなどと気づくはずもなく。 きもちいいな〜! 朝の澄んだ空気は、天使には欠かせないエネルギーとなるのだ。 ゆっくりと公園内を散歩しながら、アヒルのある池の前に通りかかった。 早朝の澄んだ空気が包み込む。あまりに気持ち良くてご機嫌になり、アンジェリークはうろ覚えのアリオスの新曲を歌い始めた。 やはり、”天使”なだけあり、アンジェリークの声は、極めて澄んで清らかだ。 ぼんやりとしていると、耳に癒されるような心地の良い声が入ってくるのを、アリオスは感じた。 余りにもの素晴らしさに、煙草を吸うアリオスの手がぴたりと止まる。 その声に深く心を動かされ、アリオスはその主を目で探す。 今、アンジェリークは知らずにアリオスの前を通り過ぎようとする。 栗色の髪の、どこか普通ではないオーラが出ている少女が、目にとまり、アリオスの目の前を通り過ぎた時だった。 こいつだ・・・!! 「おい、あんた」 躰に染み込むような深みのある声に、アンジェリークははっとして歩みを止める。 声の主に向かって振り返ると、そこには銀髪の青年がいた。 アリオス・・・!! アンジェリークは振り返った瞬間息を飲む。 アリオスだ・・・。アリオス!! ふたりは目を合わせ、見つめ合う。心に傷のある男と天使が、今、出会うべくして出会った-------- |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 アリオスとアンジェの出会いです。 これからふたりの恋物語はスタートします |