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その夜、アンジェリークはアパートでむせび泣いた。 アリオスがどうしてああなってしまったのかは判らない。 ただ、彼の心は岩のように強固だったということを強く感じた。 アリオス・・・。 あなたの心がどうしてかたくななのか・・・。 過去にあったことも、私は判らない。 あなたが本当に真実を話してくれるまで待つつもりだったけれど、あなたはそれを許してはくれないもの・・・。 そこまで話せるように、あなたの心を癒してあげたかった。 アンジェリークは窓から曇りのない夜空を見上げる。 私は、本当に綺麗な思い出としてアリオスの心の中に住みたいと思っているの・・・? きっと答えはノーだわ・・・。 私はそれを望んでいないのは確かなはずだから・・・。 出来ることなら、ずっとあなたのそばにいたい・・・。 窓を締めて一息吐くと、色々と考える。 アンジェリークはいつしか眠りに落ちていた。 本当の天使の横顔は美しく、清らかであった。 アリオスは翌日になるのが待ち遠しくてたまらず、少し緊張をせずにはいられなかった。 清らかな天使を泥棒猫呼ばわりし、汚れていると罵った自分がいたたまれなくなる。 俺こそ汚れているのにな…。 切なくて苦しく、こんな思いをするのはひさかたぶりだった。 最後はボディガード任せにしたので、アンジェリークがケガをしたのを知らない。 アリオスは逢って、ただあの潤んで哀しそうだった瞳を癒したかった。 その天使をモチーフに、彼の最高傑作となる曲が今かかれ始める。 その曲はアリオスをさらなる高みに押し上げる楽曲になるのであった。 翌朝、アンジェリークは足が腫れて、歩くことが難しい状況になったが、何とかベンチに行こうともがく。 今、自分は天使ではなく、ひとりの生身の少女だということを痛感せずにはいられない。 足を癒し直すパワーなどなく、ひたすら痛みに耐えるだけだ。 あんなことがあっても、やっぱりアリオスが好きなんだ・・・。 その頃、アリオスはあのベンチに来ていた。 あんなことがあって、あいつが来るかもしれないなんて、考えが甘かったのかもしれねえ・・・。 あんなに傷ついていたのにな・・・。 ベンチに腰掛けて、いつもの時間になるまで、アンジェリークを待つことにした。 だが、アンジェリークは現れない。もう少し待とうとぎりぎりまで待ってみた。 すると足を引きずった天使が現れた。 一歩歩くにも困難な様子で、その姿にアリオスははっとする。 まさか・・・。 うちのボディガードに手荒に扱われたんじゃ・・・!? アリオスの表情が益々厳しくなっていく。 自分が犯した罪にどうしようもないほど、辛く切なくなる。 アリオスの姿が見えた。それだけで痛い足を押して来たかいがあるというもの。 アンジェリークは何も責めることなど有り得ないような純粋な笑顔をアリオスに向けた。 「アリオス、おはよう!!」 それが眩しくてもったいなくてしょうがない。 自分が余りにも汚れていることを痛感し、ついつい冷たい言葉が口に付く。 「ああ。あんたは相変わらず元気だな? 頭も躰も。そんな足でこれみよがしに俺のとこに来たのかよ? あいにく同情する気にもなれねえ」 あまりにも清らか過ぎるアンジェリークに、アリオスは心にない冷たい言葉を投げ掛けた。 本当は、肩を貸してやりたかった。 足の手当てをしてやりたかった。 だが、素直に言うことが出来ない。 まだ心の中にわだかまりのあるアリオスは、素直になれなかった。 「じゃあな?」 「アリオス・・・」 ようやく逢えたのに冷たい言葉しか発することが出来ず、アリオスは臍を噛む。 あの柔らかで清らかな笑顔を向けられると、自分と余りにも違うことが嫌で、刃を向けてしまう。 甘えているのかもしれなかった。 アリオスが立ち上がり行ってしまう。 時間をかけてきたものの、結局は無駄足だったのか。 アンジェリークはしょんぼりとするとまた、ゆっくりと歩いてアパートに戻ろうとした。 しかし。 「きゃっ!!!」 足を縺れさせそのまま倒れ込む。 音にアリオスは反応し振り向いた。 見るとアンジェリークがばたりと倒れている。 足が上手く踏ん張れないせいか、起き上がれないでいる。 手を差し延べようと足を一歩出した瞬間、はっとした。 独特の雰囲気を醸し出している美麗な青年が、アンジェリークに手を差し延べている。 ふたりの姿は光に満ち溢れ、どこかこの世のものでないような雰囲気を出していた。 決して近付けない、まるで聖なる地にある聖人の像に見える。 人間の生々しさは一切なく、ふたりは師弟愛の溢れる姿に見えた。 「アンジェリーク、立ち上がりなさい」 「はい、リュミエール様」 手をしっかり取ってアンジェリークは立ち上がる。 「苦しいですか? 苦しかったら、もう天界に戻っても構わないのですよ?」 優しいリュミエールの言葉に、アンジェリークは首を横に振った。 「もう少し頑張らせて下さい・・・」 「判りました・・・。ですが、次にこのようなことがあれば、天界に帰って頂くことになりますから」 穏やかな声での冷たい声に、アンジェリークは胸を針で突かれたような痛みを覚えた。 息が詰まる。 「・・・それは、天界がアリオスを見捨てることですか?」 だがリュミエールは答えない。 「天界にとって、地上にいる人間は、すべて愛すべき存在です。見捨てるとか、見捨てないとかは関係ありませんよ? アンジェリーク」 ほっとして、アンジェリークは深呼吸をする。 「とにかく、アパートに帰っておやすみなさい。お送りします・・・」 「はい・・・」 アンジェリークはリュミエールに肩を貸してもらい、ゆっくりと歩いていく。 その姿をアリオスはじっと見つめる。 素直に肩を貸してやりたかった。 素直に謝りたかった。 だがそうすることがどうしても出来なくて、何度も臍を噛んだ。 華奢なアンジェリークの姿を見て、俺は初めて、彼女が消えてしまうのではないかと不安になった・・・。 その不安は、哀しいことか現実になってしまうことを、察していたのかもしれない…。 リュミエールに支えられてアパートまで向かい、少しほっとした。 「足の痛みはあなたの試練です。直してあげられないのは判りますね」 「はい・・・」 「2、3日は安静にされたほうがいいですよ。アリオスに逢うのはそれからにしても・・・」 「だって時間がないですものリュミエール様・・・。ずっとずっとアリオスと一緒にいたいんですもの!! 少ない時間の中でより長く一緒にいることが出来れば・・・」 アンジェリークは切ない気持ちをリュミエールに訴える。 たとえ少しでもいいから、アリオスと一緒にいたい。 アンジェリークの切ない願いだった。 「アンジェリーク・・・。あなたはいずれ天界に戻られることを忘れないで下さい」 リュミエールの現実的な言葉が突き刺さる。 アンジェリークは、ただ返事をすることしかできなかった。 「------はい…」 |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。 切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜 |