12
アンジェリークは痛む足を持て余しながら、部屋の片隅でじっとしていた。 いつか、アリオスにも判ってくれる日がくる。 だからこそ、頑張って行こうと思う。 残された日々を精一杯、アリオスにぶつかって行こうと決めた。 少し影のあるアリオスを癒したい。 だが、そう思っているのは、何も天使(アンジェリーク)だけではなかった。 アリオスに憧れる人気を誇るアイドル歌手エンジュもまたしかりであった。 兄のようにアリオスを慕い、ついてまわっている。 アリオスが彼女の出演するドラマのゲストとして特別出演した。 そのシーンが夜明けに撮影された後、アリオスが移動しようとするとエンジュが後ろに着いてきている。 「アリオスさんっ! ちょっとお話ししたいんですがいいですか?」 明るいオーラを放つエンジュに、アリオスは眩しく感じてくらくらしてしまう。 それは初めてアンジェリークに出会った時の感覚に似ていた。 「ああ。近くの公園だったらな」 「よかった〜!!」 アンジェリークと影を重ねて、アリオスはつい頷いてしまう。 あの天使がみせてくれた光を今は感じたかったのかもしれない。 エンジュと一緒にあのベンチに行き、しばらくは話を聴いてやることにした。 「最近、演技をするときに、こんな天真爛漫な役柄でいいのかなあって、ちょっと思います。もう少し役の幅を広げたいし・・・」 生真面目な言葉に、アリオスは好感が持てるような気がした。 元来のアイドルのようなふわふわとした下心などまるでなく、しっかりとしたエンジュには恋心こそは抱かないが好感が持てる。 「今あるものをしっかりと存在感のあるように演じた後、脱皮できる役柄を選んでいくことだな。それからだぜ。まだまだ先は長い」 「そうですね」 アリオスのアドバイスに素直に微笑み、受け入れるエンジュが愛らしく思えた。 ちょうどその様子を、アンジェリークは近くまできて見つけた。 今までアリオスと一緒にいた様々な女と比べ、エンジュは清らかで生気に溢れた輝きを持っている。 エンジュのことはアンジェリークも知っていた。 将来を嘱望されているアイドル歌手であり女優だということを。 私もエンジュちゃんは好きだったな・・・。 凄く良い笑顔をしているな、エンジュちゃん。 アリオスも楽しそう・・・。 新しい彼への真の天使が現れたのかもしれないわ。 そう思うと、胸が切ないほど痛む。 きりきりと音を立てて、そこにはいられないほどだ。 だけどね、アリオス・・・。 あなたが生きて幸せであれば、私はもう何もいらないかもしれない・・・。 天使としての優しい光をふたりに送ると、アンジェリークは寂しげな笑顔で一瞥を送り、その場を立ち去った。 アリオスは一瞬はっとする。 躰に柔らかなオーラが立ちこめる。 この安らいで甘いオーラを出せるのはたったひとりしかいない。 今そこに彼女がいたのだ。求めるように思わず立ち上がった。 「アリオスさん?」 エンジュに呼ばれてもアリオスは振り返らずに、先ほど天使がいたかもしれない場所に向かう。 そこにいけば温かな光が確かにあった。 おいかけたい------ だが、足が上手く動かない。 しかし、アンジェリークが残してくれた光に確実に心を癒された。 家に帰り、明日から一週間のプチツアーに備えての準備を始めた。 本音を言えば、アンジェリークを連れて行きたいほどだったが、仕方がない。 アンジェリーク…。 今度逢った時には、ちゃんとおまえと向き合いたい…。 不意に、昔、貰ったファンレターで印象が残っているものを残している箱が光るような気がした。 今はまったく触れられず、埃をかぶっているものだったが、それをゆっくりと開けてみた。 一番底にあるのは、特に印象が残っているものだ。 ライウ゛に招待したが結局はその少女が現れず、謝罪の手紙らしい手紙を貰ったものの憤慨して封を切らなかった。それも一緒に置いてある。 それが光を発したように思えて、アリオスは手を伸ばしていた。 およそ一年前に書かれた手紙をアリオスは今ようやく封を切る。 アリオス様。 折角ライヴにご招待頂いたのに、行けなくなってなってしまい申し訳ありません。 言い訳かもしれません。 怒っても構いません。 実は病気になってしまい、今入院しています。 当分はベッドの上からアリオスさんを応援しています。 病院から当分は出られませんが、アリオスさんの曲を一杯聴いて病気を早く治したいと思います。 では、また手紙を書きます。 アンジェリーク・コレット 名前と丁寧に書かれた字にアリオスははっとする。 胸が潰れそうなそんな想いと、優しい癒されるような想いのせめぎ合いとなる。 まさか…。 このアンジェリーク・コレットは、俺が知っているアンジェリークじゃねえのか…。 それは直感だった。 だが、いつもに比べてかなり冴えているような気がする。 住所を見れば、今回ミニライヴに行く場所に近いことが判り、アリオスは思い切って訪ねてみることにした。 同じ人物であれば、この手紙をきっかけにアンジェリークとの間に一方的に作ってしまったわだかまりを取り去ることが出来るかもしれない------ アリオスは荷物の中に手紙を忍ばせると、そこに行くことにした------ 住所だけを頼りに、不躾ながらアリオスはアンジェリーク・コレットという名の少女を訪ねていく。 心臓だけが高校生のように妙に跳ね上がっていた。 玄関先まで来ると、栗色の髪の中年の女性が出てくる。 「あの…、こちらにアンジェリーク…コレットさんは」 アリオスがサングラスを外すと、女性は息を呑む。 その姿は娘の部屋でよく目にした姿だったから。 「アリオスさん…ですね」 「はい」 女性は少し切なそうな微笑みを浮かべると、目線を反らせた。 「…アンジェリークは半年前に急性骨髄性白血病で亡くなりました」 その言葉にアリオスは言葉をつまらせる。 少女が本当にライヴに来られなかった理由を悟り、手紙を今まで読まなかったことに臍を噛んだ。 「もしよろしければ、娘に挨拶していってあげて下さい。写真を飾ってあるんですよ」 「はい」 部屋に入れて貰い、リビングに飾ってある一人の女子高生の写真を見て絶句する。 アンジェリーク…!!!!! そこには、アリオスが知るあのアンジェリークの写真が飾られていた------ |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。 切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜 |