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「・・・エリスのことは、誰からお聞きになったのですか?」 「アリオスのガールフレンド・・・」 力なくぽつぽつと話しをし、アンジェリークは切なさの余り顔をくしゃくしゃにする。 「アンジェリーク・・・」 手を頬に当てると、リュミエールは少し心苦しそうに微笑んだ。 「あなたが聞かれたことは、事実です・・・。 エリスは、アリオスによかれと思い、大人気だった”ラ・ガ”のオープニングアクトにアリオスを出すために、リーダーに躰を差し出しました。しかし、それが裏目に出てしまいました。回され、揚げ句の果ては、アリオスには仕事がこない・・・。誰の子か判らない子供を身ごもったエリスに、アリオスは認知すると言いましたが、彼女はそのまま身を投げ・・・」 アンジェリークは苦しさの余り耐えられなくなり、頭を振った。 「・・・やめて下さいっ!!」 「アンジェ・・・」 リュミエールは少し困ったような表情をすると、清らかな天使の頬を撫でる。 「アリオスは彼女の死から、見返したいと言う並ならぬ負の力によって、ここまでのスターになりました。 しかし、心は空虚なまま。からっぽです・・・。 私たち天使は、彼は奇跡の歌を作り上げ、世界中の人々の癒す力があるとして、天使の派遣により、心を癒し、強くしようと画策しました。そして、彼にとって、最も癒す力があるだろうと、あなたに白羽の矢を立てました。誰よりもエリスに似たあなたに・・・」 アンジェリークはリュミエールの顔をまともに見ることが出来ずに、ただ俯いているだけ。 「・・・アリオスはエリスさんの影をまだ引きずっています! 私はどう頑張っても、エリスさんの身代りしか・・・。エリスさんに勝てない…」 「アンジェ・・・」 華奢な肩を慰めるようにぽんぽんと叩くと、リュミエールは意外な提案をしてきた。 「アンジェリーク…、エリスにお逢いになりますか? 彼女は今、天界にいます」 「エリスさんに・・・」 アリオスが全身全霊で愛した女性・・・。 自分によく似た女性に会ってみたかった。 何代tりも愛する男性が心から愛した相手を----- 「・・・逢いたいです」 「判りました。お連れ致しましょう」 リュミエールは微笑むと、アンジェリークの手を取った。 瞬間、ふわりと躰が舞い上がり、目を開けると天界にいた。 「さあこっちです」 そこは美しい気質を持ちながら魂が浄化仕切れなかったものたちが、浄化を待つ場所であった。 「エリス! こちらへ」 「はい」 リュミエールが声を掛けると、愛らしい少女が姿を現した。 それにはアンジェリークはどきりとする。 非常に良く似た姿に、ことばがない。 本当によく似ている…。 余りにもの相似に、アンジェリークはとても不思議な気分になった。 「こんにちは、天使様・・・」 エリスもまたアンジェリークの姿を見るなり、言葉を詰まらせる。 「エリス、天使アンジェリークは、アリオスの心を癒すために、地上に降りています」 アンジェリークを見て、少し驚いたように息を呑んだが、エリスは僅かに微笑んだ。 「・・・彼、元気ですか?」 「ええ」 アンジェリークは苦しい気分でエリスを見る。 今だ、アリオスの心の一番美しい場所にいる女性。 そう思うととても切ない。 「元気だったら良かったです」 まるで他人とは思えないような笑顔に、アンジェリークは泣き出したくなった。 天使なのに、どうして冷静でいられないんだろうか…。 「アンジェリーク様、どうかアリオスを宜しくお願いします。あなたなら彼を癒すことが出来るでしょう・・・どうかアリオスのことを救ってあげて下さい。それが出来るのはあなただけです。お願いします。私にはそれが出来るだけの思いも、もう、ないですから・・・」 エリスは淡々と話し、その瞳は少し影がある。 「あなたは本当にそう思っているの?」 アンジェリークは単刀直入に訊いてみた。 「思っているわ・・・」 苦しそうだった。すでに手の届かない場所にいる愛する男性に、エリスは少し間を置いて答えた。 それですべてを理解することが出来る。アンジェリークは、彼女の切ない想いを汲むと、ゆっくりと頷いた。 「有り難うございます・・・、天使さま・・・」 心から言ったエリスの言葉は、全ての彼女の思いを現していた。瞳にはうっすらと涙が光る。 お互いに自然と握りあった手は、とても温かかった。 エリスとの会見が終わり、アンジェリークは地上に戻る。 後少ししか時間は残されていないけれど、アリオスを癒して、天界に帰りたい・・・。 今度こそ、アリオスが幸せになれますように・・・。 エリスに逢ってすぐ、アンジェリークはアリオスと逢うために、公園に向かった。 背筋をぴんと延ばし、アリオスの下に向かう。 ベンチでは既にアリオスが待っていてくれた。 「アンジェ!」 「アリオス!」 すぐにふたりは駈けあい、手をしっかりと握り締める。 「少し歩くか・・・」 「うん!」ア リオスとの散歩は何も言わなくても、本当に楽しい。 「アンジェ、昨日、どうしてあんなに暗い表情だった? 何かあったのか?」 訊かれて、少しドキリとした。 「・・・何でもない・・・」 少し言葉を濁して、上手くごまかそうと必死になる。 「正直に言ってくれ。嘘は嫌いだ」 アリオスはきっぱりと言い切ると、探るような瞳をアンジェリークに向けた。 その声と表情に、アンジェリークは弱い。 「言えよ?」 愛するアリオスに言われると弱いアンジェリークは、正直に口を開いた。 「…エリスさんの話を聞いたの・・・」 「・・・!!!」 アリオスの表情が劇的に変化し、険しくなる。 「どこまで…」 アリオスの声は今までに増して低い声になる。 震えるほどの冷たさに、アンジェリークの背中はぞくりとした。 「…悪いが、ひとりにしてくれ…」 「アリオス…」 アリオスはまた出逢った時と同じような強張った冷たい表情をすると、静かにアンジェリークから離れていった------ |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。 切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜 |