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アリオスのまだ、完全にアンジェリークに開ききれなかった心が露見し、心が鈍く重い。 やっぱり、エリスさんのことが完全に癒えていない・・・。 アリオス、やはり私はあなたにとってエリスさん以上の存在にはなれないの? アンジェリークは心から血が出るような思いを抑えこんで、アパートに戻った。 ひとりぼっちの部屋で、アンジェリークは膝を抱える。 何もする気分になれなくて、いたずらに時間だけが過ぎた。 貴重な時間が指から零れ落ちていく。泣きたくって、苦しくって、唇を噛み締めた。 翌日、いつもの場所に行くと、アリオスが現れた。とても疲れた表情をしている。 アンジェリークはいつものように笑顔でアリオスを迎えた。 以前に戻った表情ではあるが、アンジェリークは癒したくて、笑みを浮かべる。 「おはよう、アリオス」 だがアリオスの表情は全く変わらなかった。 それどころか更に厳しくなる。 「・・・もう、逢わないようにしよう」 唐突なアリオスの申し出に、アンジェリークは心臓が止まるかと思った。 「・・・どうして!?」 「あいつから訊いたぜ。おまえが知りたがったから、教えたって・・・」 「・・・!!!」 身に覚えのないことに、アンジェリークは衝撃を受ける。 「言ってない、そんなことっ!!」 「確かに何人かが証言したことだからな」 アンジェリークが否定するもの、アリオスは厳しい眼光を向けてくる。 今なら判る。 ”エリス”----それは触れてはならないコードだったのだ。 アンジェリークは軽く俯くと、涙を見せないように無言で背を向ける。 ここで逆らってももう仕方がないだろう。 「・・・さよなら・・・」 ただそれだけを言うと、アンジェリークは歩いていく。 その姿にアリオスははっとする。華奢な天使が更に透明になり、消えていくように見える。 手を延ばしても追いかけられなかった。 リュミエール様、ごめんなさい・・・。 職務をまっとう出来そうにありません。 エリスさん、ごめんなさい・・・。 あなたの大切な男性を傷つけてしまったかもしれません・・・。 ごめんなさい。これ以上、アリオスの傷を広げることはしたくない・・・。 たがら地上(ここ)での最後の日まで、あなたの幸せを祈り続けます・・・。 アリオス、あなたが本当に幸せになる日が来ますように・・・。 アンジェリークは想いの丈を込めて、アリオスに祈りを捧げた。 それがアリオスの心にゆっくりと流れ込む。 温かな優しい光が心の奥底まで届いていく。 アンジェリーク・・・!? 苛立ちが消え、冷静さが蘇ってくる。 そうだ…。考えてみれば、アンジェリークがそんなことを興味深く訊くわけがないのに・・・! アリオスはアンジェリークを追いかけたが、すでに彼女は消えた後だった。言ってしまったことは消せはしない。 自分のした事に臍を噛む。 …アンジェ…。 俺を許してくれ…。 アリオスはアンジェリークに謝り、もう一度一緒になりたかった。 二度までも愛する者を傷つけてしまい、自分の身勝手さに辟易した。 ふたたびチャンスを手にするために、アリオスは動き始める。 今土手にした温もりは、もう二度と話さないと誓って…。 アリオスの”癒し”に失敗し、もう10日しか残されていないアンジェリークは身辺整理を始める。 この最後の10日間はどこにも行かずに、アリオスの幸せを祈るつもりだ。 癒せなかったことへの罪滅ぼしと、彼がこの先も幸せになれるように。 外に出ることもなく、ずっと祈っていた。 それが自分に出来る唯一の事だから…。 アリオスはアンジェリークに謝りたくて、公園に行ったものの逢うことが出来なくなった。 天使が来なくなったからだ。 どうしても逢いたくて、アパートの前までやってきた。 だが、まだアパートの中に入ることは出来ない。 あの部屋には、エリスとの思い出が詰まり過ぎているから。 アンジェリークが出てくるのを待って、アリオスは謝ろうと思っていた。 だが一向にアンジェリークは姿を現さない。 待っていても時間はいたずらに過ぎ、アリオスも仕事などがあり、ずっと張り付いていられるわけではない。 僅かな時間しかない。 アリオスはそのことをまだ知らなかった。 アリオスのことを思う度に、アンジェリークは酷く切なくなる。 涙が出てしょうがない。 こんな時、お母さんがいてくれたらよかったのに・・・。 アンジェリークは温かだった自分の家族を思い出し、更に思慕が深くなった。 引きだしの中にある、少しずつ毎月残していたお金を数えてみる。 そこには、故郷に往復できるぐらいは残っていた。 スーパー特急で2時間。 十分日帰りが出来る距離だ。 逢えなくてもいいの・・・。 ただ、一目元気な姿を見てみたいから・・・。 天界に向かう前に一目会いたい…。 アンジェリークは決意をして、出かける準備をする。 お金を大事に持って、歩いて駅に向かうことにした。 アンジェ!! アリオスはアンジェリークが出ていくのを見つけ、すぐに後を追いかける。 アンジェリークは何か急いでいるように感じ、声をかけられなかった。 そのまま駅まで追っていく。 グリーン窓口に飛び込むと、アンジェリークは故郷までの切符を買い求めた。 「アルカディアまで一枚」 その声が聞こえるなり、アリオスも続く。 同じ方面の切符を買い、アンジェリークと同じ電車に乗り込んだ。 アルカディア・・・。まさか!? アリオスの脳裏にアルカディア市にいたアンジェリークとうりふたつの少女を思い浮かぶ。 だが、すぐにそんな想いはかき消した。 彼女はもうこの世のものではないんだから・・・。 アンジェリークは幻なんかじゃない。 ちゃんと存在している・・・。 そんなはずはない。 だが妙な胸騒ぎを感じながら、アリオスは少女を追いかける。 不安が押し寄せてきていた。 アルカディアに着くと、やはり大都市なだけあり、多くの乗客が降りていく。 アリオスもそれらに混じって降りていく。 雑踏の中だが、透明感のあるアンジェリークはすぐに判った。 アンジェリークは特急から環状ラインに乗り換える。 降りた駅は、乗降客の多い住宅街の駅。アンジェリークは少し嬉しそうに笑う。 ただいま! 心の中で呟きながら、故郷の街を楽しく歩いた。 歩くにつれ、次第にアリオスはこの道を通った事があることを思い出した。 ここは通った事があるような…。 まさか…!? アリオスははっと息を呑む。 そんなはずはない------ 自分の脳裏に浮かんだ一つの結論を否定しようとした。 だが----- それを肯定する事実が目の前に浮かび上がる。 アンジェリークは1軒の家の前に止まった。 「…!!!!!」 そこはアリオスが訪ねた事のある、あのアンジェリークの家だ。 アンジェ…。 おまえはまさか…!? |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。 切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜 |