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アンジェリークと同じ名前を持つ少女。 だが彼女は、以前に亡くなってしまったはずだ。 アリオスは耳と目を疑う。 実は彼女は双子であったのならつじつまがあう。 アンジェリークの本名が別にあり、自分の無くした姉妹の名前を名乗っているのであれば。 だが、それもどこか絵空事のように思えた。 アンジェリークはと言えば、家の様子を隠れて見ている感がある。 ここが実家であれば、そんなことはせずに、ためらいつつも堂々と家に入って行くはずだ。 アリオスはどこか嫌な予感がする。 アンジェリークが本当に亡くなったアンジェリークだとしたら・・・。 だが葛藤の中、アリオスは慌てて否定をする。 そんなことはないはずだ・・・。 アンジェリークを抱き締めた腕も、唇も、すべてリアルであったから。 アリオスはサングラスの向こうにいるアンジェリークをじっと見つめる。 アンジェリークはただじっと見つからないように、家を見つめているようだった。 不意に玄関が開き、夫婦と青年が出てきた。 途端にアンジェリークの表情が変わる。 お父さん・・・、お母さん・・・、お兄ちゃん・・・。 大きな瞳には大粒の涙が光る。 「アンジェの祥月命日だから、いっぱい話してあげないとね」 「そうね・・・」 母親は少し涙ぐんだ後、不意に玄関先で立ち止まる。 「どうしたの、母さん」 「何だか、アンジェがそばにいたような・・・」 懐かしくも、どこか優しい表情を母親は浮かべる。 「母さん、アンジェはいつでも俺たちのそばにいる。見守ってくれている」 「そうね」 息子の一言に、母親は頷くと空を見上げた。 一家が家から出ていった後、その後ろ姿をアンジェリークは泣きながら見送る。 お父さん、お母さん、お兄ちゃん・・・。 アンジェはずっとそばにいるよ。 天国から、ずっと見守っているから・・・。 アンジェリークは・・・、やはりあのアンジェリークなのかもしれない・・・。 でも、どうして!? 家族を見送った後、アンジェリークは優しさと切なさが入り混じった表情をする。 元気そうでよかった。 アンジェリークが踵を返した時、アリオスはようやくアンジェリークの目の前に姿を現した。 「アリオス・・・」 正直、アンジェリークは息を呑む。逢わないと言ったアリオスが目の前にいる。 「・・・迎えにきた」 アリオスはただそれだけを言うと、手を広げてくれた。 広くて安らぐことが出来る腕。 アンジェリークは涙をいっぱいに溢れさせて、アリオスの腕の中に飛び込んでいった。 「アンジェ・・・」 アリオスはぎゅっと抱き締めると、細い躰を撫でる。 「・・・おまえ、双子とかじゃねえよな」 「うん、兄弟はお兄ちゃんだけ・・・」 「・・・!!!」 アリオスの背筋に冷たいものが流れた。 行き着く事実はたっと一つしかない…。 「ここのアンジェリークは、亡くなったはずだ・・・」 アンジェリークの表情が一瞬強張る。 「・・・ここのアンジェリークとおまえは同一人物だろ?」 「・・・アリオス」 もう包み隠さず、本当のことを話したい。 アンジェリークは決心をすると、大きく深呼吸をした。 僅かな時間しかない以上は嘘を付いても仕方がない。 「・・・アリオス、あなたの言う通り、私はこの世界の人間ではないわ・・・」 アリオスは一瞬、周りの空気が硬直したような気がする。 「・・・おまえはこうして息をしているじゃねえか! 足だってあるし、抱き締めると温かいじゃねえか!」 抱き締めてくれるアリオスの腕も強くなり、息ができない。 温かさとリアルな心の叫びが胸に届いた。 「・・・アリオス、私は病気で死んだの・・・。そして、今は”天使”になって生身の躰を与えられている・・・。地上(ここ)にいられるのも、後僅かなの」 淡々と事実を話して聞かせる。 正直に静かに。 アリオスには、アンジェリークの話す事実が真実なのは本能で判っていた。 だが、理解したくはなかった。 「・・・こんなにそばにおまえがいるのに・・・」アリオスの声は低く切なく響いている。目の前にいるのは、アリオスに感動的な手紙を書いてくれた少女なのだ。招待したライウ゛に病気の為に行けずに17で亡くなった少女。だが、信じられない、信じたくない。「おまえは、俺にとっては天使のような存在だが、おまえ自身は生身の女だ・・・!!!」アリオスは思い詰めたかのように呟くと、更にアンジェリークを抱き締めた。「・・・アリオス、有り難う・・・」アンジェリークは涙ぐむと、アリオスの胸に顔を埋める。「アリオス、行きたい場所があるの・・・」「ああ。一緒に行こう」ふたりは自然と手を取り合って、ゆっくりと歩いていく。「どこに行く?」「私の ことをあなたが忘れないように・・・。私があなたのそばにいたことをいつか思い出してもらえるように・・・」 語るアンジェリークの横顔はとても切ない。 穏やかだが、どこか影がある。 「おまえはどこにも行かない。ずっと俺のそばにいるんだから・・・」 「アリオス・・・」 アンジェリークは泣笑いの表情をアリオスに向けた。 「アンジェ」 ぎゅっと手を力強く握り返してやることで返事をした。アンジェリークは坂をゆっくりと歩いていく。 「この先にあるの」 「ああ」 目指す場所が見えてきて、アリオスははっとした。そこは墓地だった。 「アンジェ・・・」 「私はここで眠っているの・・・」 言葉が続かなかった。 |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。 切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜 |