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「この墓地は、うちの先祖代々使っているところなの」 アンジェリークは淡々と話しながら、墓地の中に入っていく。 アリオスには、少し信じられない光景だった。 頭が上手く整理出来ない。アンジェリークの姿を横目で見つめながら、アリオスは必死になって考えをまとめようとしていた。 ふたりの間には不思議な空気が流れている。 「・・・おまえ、どこが自分の墓かが判るのかよ?」 ただコクリと頷く。 シンプルで深い意味のある答えだった。 「あっちだわ」 何の迷いもなく、アンジェリークはまっすぐと歩いていく。 その後をアリオスは着いていくしかなかった。 不意にアンジェリークが墓石の前で歩みを止める。 飾りたての綺麗な向日葵で、ここに家族が来てくれたことが判った。 「・・・お母さんたち、来てくれてたんだ・・・」 ふと寂しそうな表情をすると、墓石の前に座り込んで、向日葵の花びらを摘む。 その切なくも哀しい姿に、アリオスは胸を突かれた。 アンジェリークの視線を追っていくと墓碑名にぶつかり、アリオスははっとする。 ”アンジェリーク・コレット。地上の天使、天空の天使” 17で亡くなっていることが、そこを見れば判る。 「この下に私がいるの・・・」 すぐにアリオスは否定するかのように頭を振った。 「アンジェ、おまえは生きているじゃねえか!! 俺の目の前で今ちゃんと呼吸をしているじゃねえか・・・!」 アリオスが感情を爆発させるものの、アンジェリークは切なく笑うだけ。 「・・・アリオス、私・・・、あなたにだけは嘘を吐きたくなかったの・・・。本当のことを話してから、消えたかった」 鼻をすすって半分泣きそうになりながら、アンジェリークは正直な話をしてみた。 「・・・おまえは生きいてる! 今、こうして抱き締めても、おまえは熱いし、ちゃんと存在している!!」 アリオスの言葉は胸が痛くなるほど嬉しかった。 だが、アンジェリークにはどうしようも出来ない。 「ここをこうやって掘れば、確かに私はここで眠っているのよ・・・」 「やめろっ!」 アンジェリークが掘るしぐさをしようとした瞬間、アリオスが腕を掴んできた。 「アリオス・・・」 アンジェリークは濡れた青緑の瞳でアリオスを見つめる。 「おまえは今俺の前にいる。それだけでじゅうぶんじゃねえか!!! 本当のおまえが生きているとか死んでいるとか、そんなことは俺には関係ねえ! ただおまえがそこにいればそれでいいんだ・・・」 アリオスはアンジェリークをより強く抱き締めると、放さないとばかりに激しく唇を奪った。 深くも切ないキス。 どうしてキスは涙の味がするんだろう・・・。 アリオスと唇を合わせていると、ひとりではないことを深く感じる。 ずっと独りだったかもしれない。 アリオスと唇が重なって、ようやく孤独が払拭することが出来た。 「・・・帰ろう・・・。俺たちの場所へ。おまえの場所はここじゃない・・・。俺たちが一緒の場所がおまえが帰るべき場所だから・・・」 「アリオス・・・」 嬉しかった。 アリオスの気持ちがじんわりと躰に染み込んでいく。 「帰ろう・・・、俺たちのあるべき場所に。おまえはこのアンジェリークとは別のアンジェリークだ・・・。灰になってなんかない・・・」 「うん、アリオス」 アンジェリークは優しく頷くと、アリオスと共に行く決意を固める。 「・・・あまり長い間、一緒にいられないかもしれないけれど・・・」 「そんなことはねえよ! ずっとおまえと一緒にいられるんだ。信じよう・・・」 「うん、うん」 アリオスの力強い言葉を、アンジェリークは信じられるかもしれないと思う。 いや、信じたかった。 「行こう」 「うん」 ふたりはしっかりと手を繋ぐと、歩き出す。 新しい自分たちの道へ、もう二度と離れないように。 ふたりは帰りの切符を買い、ふたり並んで電車に乗り込んだ。 故郷に帰ってきた時のような絶望感はなかった。 お互いに仲良くもたれ合いながら、支え合って揺られていく。 リュミエール様・・・。 今、ようやく判ったのです・・・。 私はアリオスを癒すためだけに地上に降りたわけではなく、アリオスに癒されるために地上に降りたのだということを・・・。 私とアリオスは一方的な愛情なんかじゃなく、お互いに愛し支え合うことが幸せだと、お互いにようやく気がついた。 アンジェリークもアリオスも、お互いに安心しきって、肩を寄せ合いながら眠りにつく。 お互いの存在が安堵感を与え、肌の温もりを伝え合うように躰を寄せ合った。 「んん・・・」 終点近くになって、ようやく目が覚めた。 ゆらゆらとした感覚が全身を覆って気持ちが良い。 「もうすぐ着くぜ?」 「うん・・・」 目が覚めて、隣にアリオスがいてくれるというのは、とてもここちが良かった。 特急電車がホームにゆっくりと滑り込んでいく。 「今夜はうちに来いよ」 「うん」 しっかりと頷くと、アリオスは笑って頬に軽くキスをしてきた。 特急がホーム止まった。 同時にふたりは立ち上がって、特急から出る。 「アンジェ、今日は俺のところに来い。俺もおまえに話したいことがあるから・・・」 「うん・・・」 アリオスにアンジェリークは何の迷いもなく頷く。ふたりは奇跡に向かって、歩みを進めていた。 |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。 切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜 |