Tears In Heaven
〜天使様の指紋〜

19


「この墓地は、うちの先祖代々使っているところなの」
 アンジェリークは淡々と話しながら、墓地の中に入っていく。
 アリオスには、少し信じられない光景だった。
 頭が上手く整理出来ない。アンジェリークの姿を横目で見つめながら、アリオスは必死になって考えをまとめようとしていた。
 ふたりの間には不思議な空気が流れている。
「・・・おまえ、どこが自分の墓かが判るのかよ?」
 ただコクリと頷く。
 シンプルで深い意味のある答えだった。
「あっちだわ」
 何の迷いもなく、アンジェリークはまっすぐと歩いていく。
 その後をアリオスは着いていくしかなかった。
 不意にアンジェリークが墓石の前で歩みを止める。
 飾りたての綺麗な向日葵で、ここに家族が来てくれたことが判った。
「・・・お母さんたち、来てくれてたんだ・・・」
 ふと寂しそうな表情をすると、墓石の前に座り込んで、向日葵の花びらを摘む。
 その切なくも哀しい姿に、アリオスは胸を突かれた。
 アンジェリークの視線を追っていくと墓碑名にぶつかり、アリオスははっとする。
 ”アンジェリーク・コレット。地上の天使、天空の天使”
 17で亡くなっていることが、そこを見れば判る。
「この下に私がいるの・・・」
 すぐにアリオスは否定するかのように頭を振った。
「アンジェ、おまえは生きているじゃねえか!! 俺の目の前で今ちゃんと呼吸をしているじゃねえか・・・!」
 アリオスが感情を爆発させるものの、アンジェリークは切なく笑うだけ。
「・・・アリオス、私・・・、あなたにだけは嘘を吐きたくなかったの・・・。本当のことを話してから、消えたかった」
 鼻をすすって半分泣きそうになりながら、アンジェリークは正直な話をしてみた。
「・・・おまえは生きいてる! 今、こうして抱き締めても、おまえは熱いし、ちゃんと存在している!!」
 アリオスの言葉は胸が痛くなるほど嬉しかった。
 だが、アンジェリークにはどうしようも出来ない。
「ここをこうやって掘れば、確かに私はここで眠っているのよ・・・」
「やめろっ!」
 アンジェリークが掘るしぐさをしようとした瞬間、アリオスが腕を掴んできた。
「アリオス・・・」
 アンジェリークは濡れた青緑の瞳でアリオスを見つめる。
「おまえは今俺の前にいる。それだけでじゅうぶんじゃねえか!!! 本当のおまえが生きているとか死んでいるとか、そんなことは俺には関係ねえ! ただおまえがそこにいればそれでいいんだ・・・」
 アリオスはアンジェリークをより強く抱き締めると、放さないとばかりに激しく唇を奪った。
 深くも切ないキス。

 どうしてキスは涙の味がするんだろう・・・。

 アリオスと唇を合わせていると、ひとりではないことを深く感じる。
 ずっと独りだったかもしれない。
 アリオスと唇が重なって、ようやく孤独が払拭することが出来た。
「・・・帰ろう・・・。俺たちの場所へ。おまえの場所はここじゃない・・・。俺たちが一緒の場所がおまえが帰るべき場所だから・・・」
「アリオス・・・」
 嬉しかった。
 アリオスの気持ちがじんわりと躰に染み込んでいく。
「帰ろう・・・、俺たちのあるべき場所に。おまえはこのアンジェリークとは別のアンジェリークだ・・・。灰になってなんかない・・・」
「うん、アリオス」
 アンジェリークは優しく頷くと、アリオスと共に行く決意を固める。
「・・・あまり長い間、一緒にいられないかもしれないけれど・・・」
「そんなことはねえよ! ずっとおまえと一緒にいられるんだ。信じよう・・・」
「うん、うん」
 アリオスの力強い言葉を、アンジェリークは信じられるかもしれないと思う。
 いや、信じたかった。
「行こう」
「うん」
 ふたりはしっかりと手を繋ぐと、歩き出す。
 新しい自分たちの道へ、もう二度と離れないように。
 ふたりは帰りの切符を買い、ふたり並んで電車に乗り込んだ。
 故郷に帰ってきた時のような絶望感はなかった。
 お互いに仲良くもたれ合いながら、支え合って揺られていく。

 リュミエール様・・・。
 今、ようやく判ったのです・・・。

 私はアリオスを癒すためだけに地上に降りたわけではなく、アリオスに癒されるために地上に降りたのだということを・・・。
 私とアリオスは一方的な愛情なんかじゃなく、お互いに愛し支え合うことが幸せだと、お互いにようやく気がついた。
 アンジェリークもアリオスも、お互いに安心しきって、肩を寄せ合いながら眠りにつく。
 お互いの存在が安堵感を与え、肌の温もりを伝え合うように躰を寄せ合った。
「んん・・・」
 終点近くになって、ようやく目が覚めた。
 ゆらゆらとした感覚が全身を覆って気持ちが良い。
「もうすぐ着くぜ?」
「うん・・・」
 目が覚めて、隣にアリオスがいてくれるというのは、とてもここちが良かった。
 特急電車がホームにゆっくりと滑り込んでいく。
「今夜はうちに来いよ」
「うん」
 しっかりと頷くと、アリオスは笑って頬に軽くキスをしてきた。
 特急がホーム止まった。
 同時にふたりは立ち上がって、特急から出る。
「アンジェ、今日は俺のところに来い。俺もおまえに話したいことがあるから・・・」
「うん・・・」
 アリオスにアンジェリークは何の迷いもなく頷く。ふたりは奇跡に向かって、歩みを進めていた。
コメント

「愛の劇場」の新しいシリーズです。
今回は、天使と男の恋愛物語。
今までとは少し毛色の違う物語です。
切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。

頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。
切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜




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