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アリオスの心はどうしてあんなに頑ななの・・・? アンジェリークはアパートに帰ってから、ひとり悶々とそんなことを考えていた。 思ったよりも、アリオスの心の壁は強固で、アンジェリークは唇を噛み締める。 私の天使としての力がまだまだだから…? 自分のふがいなさを骨身に感じ、アンジェリークはいつしか泣いていた。 どうしても、アリオスを私は癒さないの・・・。 どうして、あんなにかたくなになっているの? どうして、そんなに傷が深いの? あなたが傷を忘れるまで、何も聴かずに癒してあげたい・・・。 膝小僧を抱えると、アンジェリークは目を閉じ泣き続け、いつしか眠っていた---- アリオスもまた妙にむしゃくしゃしていた。 天使の歌声に癒されながら、それを認めることが出来ない自分がいることが、更に苛立ちを増した。 その上傷つけてしまっただろう事実が重くのしかかる。 あの傷ついた瞳が俺を刺す…。 だが、誰も俺の心の中に入り込む権利はない・・・。 俺はエリス以外の女は心に住まわせない。 あの時にそう誓ったから・・・。 アリオスは睡眠薬をまた口に含むと、何とかその力を借りて眠りに落ちる。 これで何も邪魔されなくたっていい・・・。 アリオスは睡眠薬で眠りに落ちるが、彼は気づかない。 いつもよりも量が減っていることを---- 夕方仕事に出かけ、ノルマのようにそれらをこなした後、アリオスは深夜再び違う女との逢瀬を楽しんでいた。 刹那の快楽に浸れれば、誰でもよかった。 だがやはり、そんなセックスは全く良くない。 心の空白は埋められないことは判っているというのに、せずにはいられなかった。 女とのコトの後、アリオスの胸に深く陰ったのは、亡くなった恋人エリスではなく、アンジェリークの澄んだ瞳と声。 俺とは全く正反対の場所にいる少女…。 アリオスはあの聖なる輝きを持つアンジェリークを思い出す度に、求める心と否定する心の責めぎあいに苦しんだ。 明け方、女とホテルをチェックアウトしたが、そのまま一緒にあの公園に向かう。 あの少女に軽蔑してもらいたかった。 蔑むような眼差しで見て欲しかった。 そうすれば、ここまでも苦しい思いになることはないと思いながら。 今日はひょっとして来ていないのかもしれない・・・。 そんなことをどこかで思いながら、アリオスはいつものベンチに座り、女を抱き寄せながら囁く。 「朝も気持ちいいだろ? まあ、俺のセックスほどじゃねえだろうけど」 「ふふ、アリオスってストレートね?」 女のあだめいた微笑みは気にいらなかったが、気晴らしには丁度良かった。 昨日の今日だから来ていないよね・・・。 アンジェリークはそんなことを思いながら、公園に散歩に来ていた。 早朝の空気と言うのは、やはり気持ちがいいもので、天国のそれに似ている。 こんな時間に、昔は起きなかったものね・・・。 いつも寝坊ばかりで・・・、ママに迷惑をかけていたっけ…。 アンジェリークは、しみじみと昔の自分を思い出し、切ない気分になってしまう。 毎朝、目覚まし用にセットしたアリオスのCDを聴きいて、幸せな気分で目覚めたっけ。 病気になっても、あの歌があったから励まされたもの。 だから、私がその恩がえしをしなくちゃいけない・・・。 アンジェリークは感謝と淡い想いを込めて、アリオスの歌を歌い始める。 不意に流れ始めた聞こえ始めた甘く澄んだ声に、アリオスはぴくりと反応した。 心に罪悪感が発生し、息が詰まる。 澄んだ癒しの声に、女までが反応した。 「凄い声のコがいるのね・・・」 感心するように女が頷くので、アリオスはわざと女の肩を抱く。 心の奥がまたもやもやとしていた。 アンジェリークがゆっくりとアリオスに近付いていく。 視界にアリオスと女が入ってきた瞬間、アンジェリークは歌うのを止めた。 ショックで躰が固まるのを感じる。 アリオスはアンジェリークと視線を合わせようとせずに、ひたすら女の方を見つめている。 綺麗な女性・・・。 きっと業界の女性なんだ・・・。 アンジェリークは心が麻痺してしまう。 アリオスは、私が嫌だからそんなことをしたの? 確かに私はうざいと思うけど・・・。 天使だから心の痛みは感じないと思っていた。 だが、以前よりも敏感に感じる。 心の動揺を感じさせたくなくて、アンジェリークは背筋を延ばして何ごともないかのように、アリオスの前を通り過ぎた。 その瞬間、涙が溢れる。 もう見られる心配はないとばかりに、アンジェリークは泣いた。 どうしてこんなに泣けるんだろう・・・。 恋人ではないし、ましてや二度しか逢ったことのない相手。 だが、既に一方的に好き過ぎて、アンジェリークは些細なことでも傷つくのだった。 これで挫けちゃきっとすぐに天界に返される。 そうなると、きっと二度とアリオスに逢えなくなるから・・・。 アンジェリークは気を取り直すと、背筋を延ばして公園内を歩き始めた。 そうよ。 同じ世界にいるだけで嬉しいから・・・。 一生懸命そう思いながら、アンジェリークは前向きに行くことにした。 再び歌を歌う気になる。アリオスの歌をまた歌い出した。 女と一緒にいながら、アリオスは再びあの歌声を感じる。 聴く度に、自分がどれだけ汚れているかを、思い知らされるようだった。 この声を聴くと、決心が揺らぐ・・・。 だが、俺が生涯癒されて、愛するのはエリスだけと誓ったのだから・・・。 アリオスは堪らなくなりベンチから立ち上がる。 このままここにいれば、その決心が揺らいでしまうから。 「行くの?」 「ああ。家に帰って一眠りする・・・」 「私も家に帰るわ。電車も動いているしね」 女は立ち上がると、アリオスに向かって手をすっと上げた。 「じゃあね。また」 「ああ」 ふたりはベンチ前で別れ、それぞれ違う方向に歩きだした。まだ声が聞こえる。 アリオスは声に見守られるようにして、家路についた。 家に帰ってベッドに入る。 今日も睡眠薬を必要とすることなく、眠りに落ちることが出来た。 どうすれば、アリオスの心を癒すことが出来るのだろうか? アンジェリークは前向きに考えることにした。 天使として、ひとりの少女として、アリオスを癒すことが出来れば・・・。 そんなことを考えながら、アンジェリークは日々を過ごしている。 アンジェリークは、天使としての奇跡よりも、アリオスのことを癒すことばかりを真剣に考えていた。 そんなことを考えながら、アンジェリークは公園を歩いていた。 「くぅ〜ん」 子犬の小さな声を聴き、アンジェリークが足下を見つめると、そこには左足を引きずったガリガリの子犬がいる。 「おまえ、どうしたの?」 アンジェリークは、子犬の目線に下がると、手を差し延べる。 明らかに足には虐待をされた痕があった。 「可愛そうに・・・」 アンジェリークは涙ぐみながら子犬を抱き上げると、ベンチに座り、膝の上に乗せてやる。 「もう平気よ? 私がいるからね?」 アンジェリークは優しく声をかけると、小さく消えそうな命をそっと撫でてやった。 その瞬間、不思議なことに、子犬から虐待の痕が消えた。 アンジェリークが無意識に起こした最初の奇跡だった。 本人もこれには驚くと同時に確信する。 この子犬は自分にとって運命の子犬だと。 「私が下界にいる間、おまえと一緒に暮らそうね? 心配しなくていいよ。ちゃんと飼い主さんを探して上げるからね」 「わおーん」 「あなたの名前は・・・、とっても綺麗だから、アルフォンシアね? 天界でお世話になった聖獣と同じ名前なのよ」 アンジェリークは子犬の頭を撫でて、いっぱいの愛情を送った。 子犬をそばにおき始めてから初めて、アンジェリークはあの公園に向かった。 まさか…。 あんなことが起こった後であったが、アリオスがあのベンチに座っていた。 その姿を見るなり、アンジェリークは犬と共に駆け寄っていく。 「おはようございます!! アリオスさん!」 自分から明るく声をかけて積極的に行こうと、アンジェリークは思いながら声をかけた------ |
| コメント 「愛の劇場」の新しいシリーズです。 今回は、天使と男の恋愛物語。 今までとは少し毛色の違う物語です。 切ないアンジェリークとアリオスのシーンを展開していきます。 頑ななアリオスの心を、アンジェが癒していきます。 切ないシーンもいっぱいありますが、よろしくです〜 |