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余りにもの絶望を感じ、アンジェリークはその場所にはいたくなかった。 「アリオス様とお嬢様とはホントによくお似合いになっていらっしゃる」 「絵になるとは、まさにこのことを言うんですよね…」 周りの声が、アンジェリークには耳が痛い。自分がアリオスに釣り合わないことは、充分に解っている。だからこそ余計に哀しい。 アリオスも彼女に好かれているのなら、婚約相手に選べば良かったのに…。そんな想いすら、アンジェリークは浮かべてしまう。 この場所にいたくない。 賞賛されるふたりが踊る場所には絶対にいたくない…。 アンジェリークはそっと誰にも気付かれないようにバルコニーに出た。 これが終わればアリオスとお別れ。総てさっぱり忘れ去る日がやってくるのだ。 それを想うとアンジェリークは哀しくてしょうがなかった。 音楽が遠くに聞こえる。ちょうどここが良い。 ラストダンスが終わるまで、じっとしているのも、また良いだろう。 ふとバルコニーの下を見ていると、可愛いベンチが見えた。 不意にその場所に行きたくなって、アンジェリークはバルコニー横の階段を降りる。 ラストダンスの間、悶々としているより、ここにいるほうが良いかもしれない。 アンジェリークはベンチに腰をかけ、バルコニーから漏れるあかりを見つめる。 何だか、自分には遠い手の届かない世界のように思えた。 「…私も、アリオスと踊りたかったな…」 アンジェリークは本音を声に出すと、初めて自嘲気味に笑う。 ゆっくりと漏れてくる音楽に合わせて、アンジェリークはダンスをする。正式なダンス等を習ったことはないが、見よう見真似でやると、それなりに形が出来ている。そんな気がした。 音楽が鳴り終わり、拍手がなる。 ラストダンスが終わったのだ。 「…終わった…」 ふと力が抜ける。 月の光りを見つめながら、アンジェリークは何とも切ない想いで身を焦がした。 もう、アリオスといられない…。 シンデレラのように過ごした日々はもうおしまいだ。 荷物は何時でも出ていける状態にしてあるから、明日の朝一番に出ていけばいい。 もう、アリオスのフラットの掃除は出来ない。どこを見ても、アリオスを思い出してしまうから。 アンジェリークは溜め息をひとつまたついた。 ベンチに腰をかけて、空を見上げる。ホントに綺麗で、視界が涙で滲んで歪んでいた。 再び、音楽が聞こえる。退出を促す音楽なのだろう。 アンジェリークは暫くここにいたくて、ただぼんやりとしていた。 ベンチをじっと見ると、言葉が刻まれているのが解った。それをアンジェリークは興味深げに見つめる。 「…これは恋人達のベンチだったのね…」 彫られたベンチな文字を、アンジェリークは指でなぞる。 ”ローズマリーへ。どんな君もいつでも愛している。これからも変わらぬ永遠の愛を誓う。ハロルド。” 「ロマンティック…」 くすりと笑いながら、何とも言えない温かい気分になった。だが、アンジェリークは、自分には永遠に得られない愛情のような気がして、辛かった。 月の光りに照らされて、もう少しここにいたい。ドレスを身に纏い、非現実な世界に酔いしれたい。明日には自らの世界に戻っていくのだから。 「…そこにいたのかよ」 躰に心地よく響く声に、アンジェリークは上を見上げた。そこにはアリオスがいる。 「あ、すみません。すぐに、すぐに戻ります」 「そこにいろ」 アンジェリークが慌てふためいていると、アリオスがバルコニーから降りてくる。 月夜に輝く、少しだけ乱れたタキシード姿のアリオスは、くらくらするぐらい素敵だった。 アリオスがゆっくりと傍にやってくる。一瞬、いつもよりは優しい眼差しに見えたが、どこか苛立っているようにも見えた。 「すみませんでした。勝手に会場を抜け出したりして…。月が余りにも綺麗だったから…」 ア ンジェリークはしどろもどろしながら、一生懸命取り繕うとするが、アリオスは黙ったままだ。 それがアンジェリークをひどく不安にさせた。 「あ、こんなところで座っちゃったから、ドレス…、汚れちゃいますよね!」 「…黙っていろ…」 「え?」 いきなりだったので、アンジェリークは息を飲むことが出来ない。アリオスに頬を手で包まれる。 「ペナルティですか?」 アリオスはただ真摯な瞳で見つめてくると、アンジェリークの唇を親指でなぞった。 背中がぞくりとする。 次の瞬間、唇が重なった。 最初から激しい。アリオスは凌辱するように唇を奪い、烈しく攻め立ててくる。 「んっ…!」 どうあがいても逃げることなんて出来ない。アンジェリークは舌を絡ませてくるのに、ぎこちなく応えながら、アリオスに自然と抱き着いていった。 激しいキスの後は、何度も触れるようなキスをされる。烈しく愛撫されたわけではないのに、アンジェリークは更に感じてしまった。 唇を離された後、アリオスに手を取られる。 「踊るぞ」 「私…」 「まだ踊っていなかっただろ? ラストダンスはおまえって決めてたから」 アリオスの言葉にアンジェリークは驚く。自分が本当にしたかったことを識っているようなアリオスの言葉が、心底嬉しかった。 「私でいいんですか?」 「ほらまた、敬語になっているぜ?」 アリオスはくすりと笑うと、唇の端を口づけてくる。その仕種がたとえようがないほど甘い。 「ほら、踊ろうぜ? 会場のダンスは終わったかもしれねえが、俺のダンスがまだ終わっちゃいねえからな?」 「アリオス…」 甘く低い声でアリオスは囁くと、アンジェリークの腰を抱いて踊り始める。 ふたりが乗れれば、音楽なんて必要ないのだ。 素敵な音楽がどこからか奏でられているような気がする。 最高の会場で、ダンスが始まった。月明かりのライトは素晴らしく演出をしてくれる。 アリオスが優雅にリードしてくれる。だから踊れるような気がした。 「踊れないって言っていた割には、うめえじゃねえか?」 「アリオスがリードしてくれているから…」 アンジェリークははにかむように言うと、アリオスに身を任せながらあくなく踊り続ける。それがとても幸せな気分だった。 少し息が上がって来たところで、月明かりのダンスは終演を迎えた。 アリオスは真摯に見つめてくる。今までにない真剣さだった。 「アンジェリーク、行くぞ」 手をしっかりと握り締められると、そのまま手を引っ張られる。 「アリオス、何処に…?」 「帰るぜ? ふたりの城にな?」 「ん…」 ”ふたりの城”。アリオスがそう言ってくれるのが凄く嬉しい。ほわほわと幸せに浸りながら、アンジェリークは家路に着く。 お姫様のようにアリオスが扱ってくれるのが嬉しい。 ドアを開けて助手席に乗せてくれ、その上に、シートベルトまでしてくれた。 行きと違い、帰りはとても気持ち良く帰ることが出来て、非常に嬉しかった。 フラットに着いてからも、アリオスは優しく接してくれた。 手を繋いだままフラットのアリオスの部屋まで行き、部屋に入る時は、抱き上げて入ってくれた。 どういう風の吹き回しだろうか。 そのままアリオスの寝室に運ばれて、アンジェリークはかすかな驚きの声を上げた。でも嫌じゃない。アリオスならばとずっと思っているところもあったからだ。 ベッドに座らされて、アンジェリークは心臓がひどく高まるのを感じた。 「アンジェ、契約延長してもらえねえだろうか」 「掃除婦として?」 「いや…、”婚約者”としてのな…」 アリオスはセクシィな微笑みを、アンジェリークに向けると、いきなりベッドに押し倒してくる。 「…あっ、アリオス…」 アリオスに組み敷かれる形になり、思わず甘い声を漏らす。それがアリオスを興奮させる。彼の息が乱れたのが解った。 「おまえのペナルティが貯まり過ぎたからな…。ここらで一旦清算しなくちゃなんねえな。っていっても、ここで生産しても、まだまだペナルティポイントは堪ってるぜ?」 「あっ…」 ドレスの背中のファスナーにアリオスの手がかかると、一気に引き下ろされる。 「やん…アリオス…っ!」 ドレスを完全に取り払われて、アンジェリークは恥ずかしそうに華奢な躰をよじった。 「やっぱりこのドレスを選んだかいがあったな?」 「…どうして?」 「男は脱がせたいからドレスを贈るんだよ…」 アリオスが甘い言葉を囁くと、愛を確かめるひと時が始まる。 「あっ…」 躰のラインをなぞるアリオスの甘い仕種に、アンジェリークは溺れていくのだった。 もう、どこまでも堕ちていくような気がする…。 |
| コメント タイトル通りのシンデレラ物語を書きたかったので書きました。 楽しんでくださると嬉しいです。 さて。 今回は、独占欲の強いアリオスさんです。 |