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アリオスの好意で高校に編入出来るようになり、その期待に応えるべく、アンジェリークは一生懸命勉強に励んだ。 アリオスが応援してくれることも大きな活力となっている。ご褒美のような甘い日常も、アンジェリークにとっては励みになる要因で。頑張ることが出来る環境の下で、精一杯勉強することが出来た。 いよいよ、編入試験の当日、何故かアリオスが着いて来た。 「おまえの晴れの舞台だからな。緊張せずに頑張れよ」 「大丈夫よ、アリオス。それよりも、過保護過ぎだって。本当に大丈夫なんだから。だって私ぐらいじゃない…。ついてきて貰っているのは…」 「いいんだ。備えあれば憂い無しって言うだろうが」 「まあ、そうなんだけれどね…」 アリオスの妙に説得力のあるようなないような言葉に、アンジェリークは何故か丸め込まれる。 端から見るふたりは、ただのバカップルにしか見えなかった。 「じゃあ頑張って来いよ? 健闘を祈っているからな」 「うん! 有り難う。今日のために一生懸命勉強したんだから、たぶん、大丈夫だとは思う…」 アリオスにあんなに応援して貰ったのだから、受からないはずはないとは思う。だがほんの少しだけ、不安なアンジェリークであった。 「試験が終わったらあのカフェでな。待っているから」 「うん!」 今日が日曜日とはいえ、ここまで甘やかされているのは自分だけだとアンジェリークは感じ、それがくすぐったいぐらいに嬉しかった。 「アンジェ、受かるお呪いだ…」 「えっ?」 アリオスの唇が近づいてくる。甘いおまじないを期待して、アンジェリークは瞳を閉じた。 やはりアリオスのキスは、甘さと熱さが篭っている。頑張れる気分になっているのが不思議だ。 いつまでも触れていたいが、それは時間が許してはくれない。 アリオスの唇が離れて、アンジェリークは喪失の溜め息を漏らした。 「じゃあ、頑張ってくるんだぜ?」 「うん…。いってきます!」 アンジェリークはアリオスに何度も手を振って、華やかな笑顔を何度も向けた。 校舎に入ったところで、アンジェリークの表情が引き締まったものに変わった。 折角、アリオスがお膳立てしてくれたから、頑張ろう…! アンジェリークは心から誓い、試験会場に乗り込んだ。 アリオスが”幅広い年代の生徒がいる”と言っていただけはあり、会場には様々な年齢層の受験生がいた。 だからこそ真摯に頑張らなければという想いが深くなる。 アリオス…。頑張るからね。きっと合格をしてみるから…。 アンジェリークは自分の開けた未来を想像しながら、しっかりと頑張ることにした。 想像した未来には、いつもアリオスが傍らにいたけれども。 しっかりと取り組んで学科試験が終わり、直ぐに面接に入る。緊張したが、難無く答えることが出来た。 ようやく試験が終わり、アンジェリークは晴れやかな気分でアリオスの待つカフェに向かう。 「アリ…!」 そこまで言ってアンジェリークの言葉が止まる。目の前には、アリオスとこの間のダンスパーティーでラストダンスを踊った女性の姿があった。 遠くから見ていると、本当に似合いのふたりに見える。家柄のバランスも合っているし、本当にしっくりとくるように見えた。 私なんかより…、ずっとアリオスには相応しい相手に思えるもの…。 そう考えると胸の奥がキリキリと痛むのを感じた。 じっと見ていると、アリオスがアンジェリークの存在に気付いてくれ、手を振ってくれる。 「おい、アンジェ」 軽く女性に意味ありげな一瞥を送った後、アリオスは立ち上がってアンジェリークを待ち構えてくれる。 「アリオス…」 ふたりの仲の良い姿を見せ付けられた後では、中々出て行くのが難しい。 アンジェリークは曖昧に笑うと、アリオスに向かって走っていった。 今はまだいい。 少なくともアリオスの意識は自分にあるのだから。 アリオスはアンジェリークの姿を見るなり、手早く精算を済ませて、カフェから出て来てくれた。 「頑張ったか?」 「うん。何とかね…」 アンジェリークが曖昧に笑いながら言うと、アリオスは良かったとばかりに髪をくしゃくしゃに撫でてくれた。一緒にくれて微笑みが、甘くて心地良く思える。 「アリオス…、あの女性は良かったの?」 「ああ。偶然ここで会って、お互いにヒマツブシの意味も含んでここで話していただけだからな。待ち人がいるらしいぜ、あっちもな」 「そうなんだ…」 アンジェリークは、アリオスの言葉を額面通りに取ることが出来ない自分が、何だか疚しく思えた。 挨拶をしようと、なるべくの笑顔を彼女に向けたが、還って来たのは明らかな敵意だった。 やっぱり、あの女性もアリオスのことが、好きなんだ…。あの燃えるような眼差しを見れば、そんなことは直ぐに解ってしまう…。 けれどね。私もやっぱり、アリオスのことが大好きなのよ…。 「ほら、行くぜ」 アリオスがしっかりと手を握り締めてくれる。そうしてくれる間は、彼がまだ気まぐれにも自分のことを想ってくれている証なのだから…。 アンジェリークは笑顔でアリオスに頷くと、しっかりとその手を握り締める。アリオスがこうして自分に触れてくれる間は、可能性がないという訳では、ないのだから。 合格発表の日を迎えて、アンジェリークはしばしの緊張を感じる。 流石にこの日は、アリオスが着いて来てくれることが嬉しくてしょうがなかった。 「…アリオスどうしよう…」 「きっと受かっている。あれだけ一生懸命に勉強したんだから、おまえももっと自分に自信を持て」 「うん…」 アンジェリークは僅かに震える手でアリオスのそれをしっかりと握り締める。その視線は、不安げに揺れてアリオスを捕らえている。 「…また、ペナルティだぜ。アンジェリーク」 「え!? 私、敬語なんて使っていないわよ」 「視線で俺を誘った」 アリオスの艶の入った眼差しと声に、アンジェリークはドキリとして真っ赤になる。 「そ、そんなことした覚えは…」 「その眼差しが充分にな。今夜は寝られないのは決定だな」 「もうー!」 アンジェリークが拗ねるように言うと、アリオスは喉を鳴らして太く笑う。その笑顔がアンジェリークは大好きだった。 「ほら、合格発表見に行こうぜ」 「うんっ!」 発表掲示場所に行くと、人はまばらだった。編入試験ということなので、やはりあまりいない。 「おまえの受験番号は何番だ?」 「1122」 「演技の良い番号だな。よし」 二人はしっかりと手を繋ぎあって、合格発表を見る。 「おい、あったぜ?」 「ホントだ…。あった…」 アンジェリークはじっと自分の番号を確認して、そのままじっと見つめる。じわじわと喜びが躰に染み渡ってくる。 「…良かったな」 「はい…。良かったです…」 アンジェリークは嬉しさの余り泣いた。それをアリオスが優しく拭ってくれる。嬉しかった。 「手続きをしたらお祝いをしような」 「うん…。本当に有り難う…」 仲良くアリオスとふたりで手続きをし、彼が保護者代わりになってくれる。姓が違うので、職員が意味ありげにふたりを見たが、アリオスは平然と堂々としてくれていた。 「これで手続きは終わりです。コレットさんは既に単位制通信高校で二年生までの単位を取得していますので、後、一年と少しで卒業できますね。時間割はご自分で組んで頂きます。あなたに必要な単位は総てこちらに書いていますので、無理せず頑張って下さいね」 「はい。有り難うございます!」 事務員から、高校の書類と必要な教科書を受け取る。アリオスが手続きをしてくれた入学費用で総て含まれているからだ。 アンジェリークは喜びが全身に駆け巡るのを感じた。 涙が溢れる。 ずっと想像だけしていた高校に通うことが、今、ようやく現実になる。本当に嬉しくてしょうがなかった。 「アンジェリーク、こら、泣くな」 「うん、解ってる」 アリオスの手の温もりが、教科書の重みが、アンジェリークを幸せにしてくれる。 「これだけで満足するなよ。おまえはもっと沢山の大きな夢があるだろう?」 「うん。そうね。まだ始まったばかりだもの」 「そうだぜ、アンジェ」 本当にアリオスの言う通りだ。アンジェリークは何度もしっかりと頷いた後、アリオスに泣きながら微笑んだ。 「さてと。おまえが無事に合格したし、今日は盛大にお祝いをしなくっちゃな。何が食いたい?」 「プリプリのえびっ!」 アンジェリークは今一番食べたいものを勢い良く言い、アリオスに笑われる。 「いいぜ? ロブスターでも食いに行くか?」 「嬉しい!!」 アンジェリークはアリオスに腕を絡ませながら、ご機嫌に学校を出た。 「いっぱい食えよ」 「うん。たっぷり食べるからね!」 ふと、アンジェリークは視界に、アリオスと親しいラストダンスの少女を認めた。 途端に、アンジェリークの表情は曇る。 きっと…、彼女はアリオスを待っていたんだ…。 「アリオスさん、待っていました!」 アンジェリークがいるにも関わらず、少女はいけしゃあしゃあと言う。 「悪いが…、コイツがいるからな。また今度だ…」 「いいえ! 偽物の婚約者なんでしょう! 彼女は」 アンジェリークは胸の奥に衝撃を覚え、顔色を無くす。気分がくらくらする。 「アンジェリークは俺の婚約者だ。誰が何と言ってもな」 「嘘です! 私こそ、あなたの御祖父様が決めた婚約者だって証拠が出て来たんですから」 アンジェリークはもう何も考えられない。 それこそ晴天の霹靂だった。 |
| コメント タイトル通りのシンデレラ物語を書きたかったので書きました。 楽しんでくださると嬉しいです。 さて。 イカ次回(笑) |