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アンジェリークはじっとレイチェルを見つめる。すると彼女は苦笑した。 「アニキとワタシって、女の子の好みだけは似ているんだ」 くすりと笑うレイチェルの真意を、アンジェリークは理解できずに、困惑している。 「アニキが前から、分別のあるニセモノの婚約者を探しているのは、ワタシだけ知ってたんだ。病気のアニキを看病しているアナタを見て、すぐにピッタリだって思ったよ。まあ、アニキのことだから、他に邪念もあるかもしれないけれど…」 明るい瞳に見つめられて、アンジェリークはどう答えていいか解らない。不意に、レイチェルに顔を近づけられて、びっくりした。 「……!!!」 「アナタ、カンペキにアニキの好みね。アニキからきっとセクハラされているでしょ?」 余りにも図星な言葉に、アンジェリークは真っ赤になる。アリオスのキスやペナルティのことを思い出すと、余計に恥ずかしかった。 「あ、あの…」 動揺するアンジェリークに、レイチェルは笑う。 「ヤッパリね! セクハラしていると思ってた!」 「あ、あの…、アリオスさんは誰彼にも、セクハラするんですか?」 上目使いでアンジェリークは怖ず怖ずと聞いてみた。レイチェルは更に意味深な笑みを浮かべる。 「気になるの?」 「そんなことは…」 わざと顔を逸らしてその気がないふりをしても、もう遅い。 「アニキはね、いつもは凄くストイックだし、クールなんだよ。女の子をお触りするなんてトンデモないよ! だってね、アニキは余程気に入らないと、お触りしないよ。アナタにセクハラしたのは、気に入っているってこと!」 レイチェルの言葉を聞くと、自然に顔が綻んでくる。嬉しいのかな…。くすぐったい気分に自問自答しながら、アンジェリークは満更でもなかった。それどころか、踊り出したい気分にすらなっている。 だがふと、アリオスのセフレのことを思い出し、気分が暗くなる。 「…でもアリオスさん…、恋人みたいなヒトいるでしょ?」 「ああ! セフレね! アニキの悪い癖! アノヒトさ、割り切った関係なら何でも出来るから。男だからしょうがないって言うけど、サイテーよね! ったく。セフレに関しては、何も特別な感情は抱いていないんじゃないの? ああいうところは、アニキの嫌なところなんだけれどね!」 レイチェルのきっぱりはっきりしたアリオス論理を聞きながら、アンジェリークは、じゃあ自分は一体どんな扱いなのかと、少し不安にすらなった。 「でもね、これだけは言えるよ。アニキはアナタをとっても大切に想っているよ。お触りはあってもえっちは…」 「そこまでだ。レイチェル!」 レイチェルの言葉を取るかのように、アリオスの鋭い声が響いた。 「アニキ…!」 「アンジェリークに、あることないこと吹き込むな」 アリオスは明らかに不機嫌な様子で、アンジェリークは更に気持ちが切なくなった。自分を見つめる眼差しも、幾分かキツイような気がする。 「アンジェリークはもうワタシの友達なの。アニキにはカンケイないでしょ! 友達がアニキの毒牙で傷つくのを、事前に防いで上げないといけないでしょ?」 レイチェルは挑戦的にアリオスを見ているせいか、彼のこめかみがぴくぴくと動いているのが見える。 明らかに不機嫌なアリオスに、アンジェリークはおろおろとするばかりだった。 「アンジェリーク、コイツの言うことは一切信じるなよ。おまえは俺を信じていればいい」 「んなこと言って、コノコが傷ついたら、絶対、絶対、許さないんだからね!」 レイチェルとアリオスの間の火花は、更に烈しくなっていく。間にいるアンジェリークはオロオロとするばかりだ。 「レイチェル、アンジェリークは俺の婚約者であることを忘れるなよ!」 「婚約者って言ってもニセモノでしょ!」 これにはアンジェリークの胸がえぐられるような傷みを感じる。 「いいか! 俺達の間には口出すな!」 「アンジェリークはもうワタシの親友なんだからね!」 いつからそうなったのかは解らないが、レイチェルの心遣いも非常に嬉しい。それ故にアンジェリークはどちつかづな状況になってしまっている。 「とにかく。アンジェリークは俺が雇った。俺の意思に従ってもらう!」 ショックだった。 確かにアリオスには雇われている。だが、少しは愛情を持っていると想っていたが、感情的なシーンでこの台詞は、絶望的と言っても良かった。 アンジェリークは泣きたかった。声を上げて泣きたかったが、なんとか我慢をした。 「行くぞ、アンジェリーク」 いらだたしげなアリオスは、更に強引にアンジェリークを連れていく。強い腕の力に、アンジェリークは切なく喘いだ。 ふたりきりになるようにか、アリオスには個室に連れていかれてしまった。 そこに入るなり、アリオスは力強く抱きしめてくる。 「…アリ…オス…」 「アイツが何を言ったかは知らねえが、俺を信じてくれ、アンジェリーク」 息が出来ない。 アリオスの情熱が余りに烈しくて、それに溺れてしまいたくなる。 「アンジェリーク…」 苦しげに名前を呼ばれると、アリオスは烈しくキスをしてきた。 今までのものとは較べものにならないくらい、アリオスのキスは支配的だった。 強引に歯列をこじ開けられ、舌を入れてくる。口腔内を舌がはい回り、激烈な愛撫をしてくる。 アンジェリークはなすがままにされていた。 キスしかしていないはずなのに、頭の芯がひどく痺れてくる。全身にざわついた快楽が駆け巡り、アンジェリークはアリオスの肩に縋り付いた。 「あっ…、んんっ!」 どちらのものか解らない唾液を交換しあい、アリオスは更に甘く烈しくなる。 強く吸い上げられてぷっくりとした唇を舌で舐められると、ぞくぞくした。 「ん…っ!」 自分の声だとは到底信じられない程の甘い声に、アンジェリークは肌が粟立つのを感じた。 唇の端を軽く噛まれて声を上げると、アリオスはようやく離してくれた。 まだ息が荒い。 「アンジェリーク、今日のペナルティは大きいぜ?」 「私…、敬語使ってないよ?」 「そんなチマチマとしたことは、カンケイねえんだよ。おまえがレイチェルに変なことを吹き込まれた。それだけで重罪だ」 アリオスは今度は触れるだけのキスをしてくる。 「今のキスで帳消し?」 ぽってりと腫れた唇を無意識に舌でなぞると、アリオスが強く抱きしめて来た。 「あ、アリオスっ!」 「俺まで誘惑しやがって…。無意識にだから、その罪はかなり重いぜ?」 「やん…」 アリオスは何度も羽根が触れるようなキスをしてくる。このままでは、下半身に力が入らずに立てなくなってしまう。 「ペナルティポイントはこれで10ポイントずつ貯まった、20ポイントが加算される。今までのポイントを加算しても、おまえは既に50ポイント貯まってるぜ」 「それっていっぱいですか?」 可愛いらしくアンジェリークが小首を傾げると、アリオスは更に接近してきた。 「満点は100ポイントだ。既におまえは半分に達していることになる…。まあ、一週間もすりゃあ、触り放題決定だな」 アリオスは喉をくつくつと鳴らして太く笑うと、再び甘いキスをしてきた。 「んっ…」 「その甘い声は罪だな…」 アリオスはふっと笑うと、アンジェリークから躰を離す。甘い温もりが消えて、思わず追い掛けるような仕種をした。 「今の目線はまた誘惑したな。10ポイントプラス」 「ひどおい!」 頬を膨らませて、アンジェリークがアリオスに抗議をすると、彼はまた笑う。 「そんな顔ばっかりすると、河豚になっちまうぞ」 「いひゃい!」 頬を抓られて、アンジェリークは益々拗ねてしまったが、アリオスはそれを可笑しそうに笑っていた。 アリオスの家族が待っている場所に戻ると、誰もが温かく見送ってくれる。 その眼差しがくすぐったい。 レイチェルがまた傍に来る。 「アニキといいことしてた?」 途端にアンジェリークは真っ赤になる。まるっきりの図星だったから。 「やっぱりね。アニキはああみえて凄く独占欲が強いのよ。きっとアナタも凄く愛されるよ」 「でも…、私は”ニセモノ”だから」 「そう思っているのは、アナタだけかもね?」 「え?」 アンジェリークが聞き返そうとすると、また、アリオスがやって来た。眼光鋭く、レイチェルを睨み付けている。 「レイチェル、俺の女に色々吹き込むな」 俺の女…。 アンジェリークはその言葉に、ときめかずにはいられない。 「アリオス…」 「行くぞ、アンジェリーク」 「はいっ!」 アリオスに強引にレイチェルから離される。彼女が茶目っ気たっぷりに笑っていたのが、アンジェリークには印象的だった。 アリオスとフラットに帰るのは、とても心地が良かった。ふわふわととても幸せな気分だ。 「アリオス、今日は凄く楽しかった」 「俺もな。おまえにお触り放題なのが間近になったからな」 「な…!!!」 真っ赤になりながらアリオスを睨むと、彼は可笑しそうに喉を鳴らして笑っている。 「スケベ」 「スケベで結構」 ニヤリと微笑んだアリオスは、憎らしいほど素敵に思える。 アンジェリークは改めて、アリオスに恋をしているのを確認したような気がした。 |
| コメント タイトル通りのシンデレラ物語を書きたかったので書きました。 楽しんでくださると嬉しいです。 |