Daddy Long Legs

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 あしながおじさんに会える!
 この事項は、アンジェリークの気持ちを更に高みまで押し上げてくれる。
 ずっと逢いたかった男性。本当のところ、彼がどんな人物であるかアンジェリークには解らない。会えそうで会えなかったあの時に見た年若い青年がそうなのか? だがあしながおじさん当人は精神的に老成して降り、金銭的にもアンジェリークを助けることが出来るというのは、やはりそれなりの年齢なのではないかと、思わずにはいられない。そうするとアンジェリークが本人だと直感したあの青年の姿とは、普通考えてつじつまが合わなくなる。
 アンジェリークは益々あしながおじさんがどのような人物か想像では解らなくなる。

 焦って考えてもしょうがないよね…。
 どうせ今度の日曜日には会えるんだから…。

 そう想いつつも想像を止めることが出来ないアンジェリークであった。

 あしながおじさん。
 もうすぐあなた様にお会い出来ると思うと、凄く興奮してしまいます。
 あしながおじさんは文字通りのナイスミドルなのか?
 それとも意外にお若くていらっしゃるのか?
 そんなことを毎日想像しています。
 本当にお会いするのが楽しみです。
 このメールへのお返事はいりませんから。
 私がおじさんに会えるのがどれほど楽しみかであるか、知っておいて欲しかっただけですから。
 アンジェリーク。

 前日の土曜日はアルバイトデーとなった。
 朝からアンジェリークは大車輪になって働いている。
「いらっしゃいませ!」
 大声で挨拶をすると、そこにはアリオスの秘書であるロザリアがいた。
「頑張っているわね、アンジェリーク」
「はい! アリオスさんのお陰ですっかり道が開かれるようになりましたから」
「そうね。その為にアリオスもあなたに親身になって頑張ったもの」
 ロザリアは嬉しそうに何度も頷く。
「アリオスさんには本当に感謝しています。私にここまでよくして下さったんですから…」
 アンジェリークは感謝を言葉に滲ませながら言う。ロザリアもそれには温かな笑みを浮かべて聴いてくれていた。
「アリオスさんに色々と恩返ししようと思っています」
「そう…。それはとても良いことだと思うわ。アンジェリーク、アリオスには感謝しなさいよ。あなたが彼の温かな想いに答えれば、きっとまたアリオスも答えてくれるから…」
 ロザリアの温かな言葉は、アンジェリークにとってはなによりもの励みになる。心の栄養を貰ったような気分だった。
「ロザリアさん、今日はおひとりですか? それとも…」
 アンジェリークは一瞬、期待を込めてドアを見る。その仕種にはアリオスへの甘い恋心が隠されており、ロザリアの笑みを誘った。
「残念ながら今日は友達とデートなのよ、オスカーの恋人のね」
「そうなんですか…」
 明らかにがっかりとしたアンジェリークの姿に、ロザリアは苦笑せずにはいられない。
「今日はアリオスは来ないわよ」
 その名前を出されて、アンジェリークはドキリとする。
「アリオス、最近ずっと忙しかったせいか、体力が落ちてしまって、インフルエンザにかかって寝てるわよ。軽いものだったみたいだから本人は、週末には治してしまうって意気込んでいたわよ」
 インフルエンザ。それを聞いた瞬間、明らかにアンジェリークの顔色は変わる。心配しすぎるぐらいの表情になっていた。
「アリオスさん…。ずっと私の為に頑張って下さっていたから…。きっと無理が祟って疲れて病気になっちゃったんだわ…」
切なげに唇を噛み締めるアンジェリークに、ロザリアは落ち着いた温かな笑みを向けた。
「看病をしてあげたら? きっとアリオスは喜ぶわよ?」
 ロザリアの言葉に、アンジェリークの表情は一気に曇りが取れた。
「はいっ! そうします! 有り難うございます、ロザリアさん!」
 アンジェリークは頭を下げた後、ロザリアを席に案内をする。
 ランチタイムの一番忙しい時間だけを働いて、直ぐに早退させてもらった。
 アリオスの風邪に良い食べ物やら飲み物をたっぷりと買い込んで、住み親しんだアリオスのマンションに向かう。

 アリオスさんの容態、あまり酷いものでなければいいな…。

 心配し過ぎて、心が張り裂けそうになるアンジェリークであった。

 アリオスの部屋の前まで来てインターフォンを押すのに妙に緊張してしまう。

 アリオスさんにご迷惑をかけませんように…!

 それだけを心に強く念じて、アンジェリークはインターフォンを押した。
「はい? アンジェリークか?」
 インターフォンごしに聞こえるのは、大好きな男性の少し疲れ気味の声。アンジェリークは益々切ない気分になった。
「アンジェリークです。ロザリアさんから聴いて、お見舞いに」
「おせっかいだな、ロザリアも。開けるから中に入ってくれ」
「はい」
 直ぐにアリオスが玄関を開けてくれたが、現れた彼はやはり酷く気分が悪そうだった。
「おじゃまします…」
 かなりアリオスがしんどそうだったので、アンジェリークは自分が余計なことをしてしまったのではないかと、ほぞを噛んだ。
「あの、アリオスさんは寝ていて下さいね! ちゃんとこの週末だけでインフルエンザは治して下さい!」
「ああ…」
 アリオスは顔色が悪かったが、アンジェリークに苦笑する余裕はあったようなので、とりあえずは安心する。
 アリオスをベッドまで送り寝かせた後、アンジェリークは蒲団をかけてやる。
「アリオスさん…何か食べられましたか?」
「…いや。何も…」
 少し力のないアリオスというのもなかなかどきどきする。余りにもセクシィな気がして、アンジェリークは胸の鼓動を上手く抑えることが難しかった。
「何か消化のいいものを作りますね? 食べないと元気は出ないですから」
「…ああ。ウィルスがどこかにいっちまうものでも作ってくれよ…」
「任せて下さい」
 アンジェリークは力強く笑うと、アリオスもそれを薄い微笑みを浮かべてくれた。
「おまえはうつらないように気をつけろよ」
「元気ですし、いっぱいいっぱい食べているから平気です!」
「だろうな。おまえみてえな元気ものだったら、ウィルスが逃げちまうだろうけれどな」
「どう言う意味ですか!?」
 頬を膨らませて怒るアンジェリークに、アリオスは屈託無く笑った。
 アリオスの為にキッチンに立つのは久し振りだ。だからかは解らないが、何故だかうきうきとしてしまう。
 アリオスの為に消化の良い栄養のあるものをと卵粥と蜂蜜レモンティーを作ってやる。
 温かな食事をトレーに乗せて、アンジェリークはアリオスに持って行った。
「お口に合うかは解りませんが、どうぞ食べて下さいね」
「…有り難うな。横のへんな液体は何だ?」
怪訝そうにするアリオスの表情が妙に可笑しい。
「蜂蜜レモンティーですよ。私の母親が良く作ってくれたんですよ。本当に良く効きます」
「甘いのは苦手なんだよ」
 嫌そうにするアリオスに、アンジェリークは吹き出すのを堪えながら、少し恐い顔をしてみた。
「ダメです。しっかり飲んで食べないと治るものも治りませんよ。きちんと食べて薬を飲んで下さいね」
「解った」
 アリオスは苦笑しながら、食事を始めた。
「旨いな、凄く温まる」
 アリオスの言葉が嬉しくて、アンジェリークの顔にも笑顔が零れ落ちる。
「明日は用事があるから出ないといけないんだが…、この調子だと大丈夫かもな」
「余り無理はしないで下さいね」
「解ってる」
 お粥をアリオスがきれいに平らげてくれたので、アンジェリークにはこれ以上嬉しいことはない。
「食べたらお茶を飲んでゆっくり寝てくださいね。夕食はもう少し重いけれど消化の良いものにしますから」
「悪いな」
「いいえ。いつもお世話になりっぱなしなんですから、これぐらいは当然ですよ」
 アリオスは優しい微笑みを向けてくれると、不意に額に手を延ばして来た。
「サンキュ」
「…いいえ」
 アリオスに触れられた瞬間、胸が息苦しいほどドキリとした。
「全部きれいに食べられましたね? 薬も飲めたし、夕方まで眠って下さい」
「サンキュ」
 アリオスは素直に頷いてくれると、そのまま横になる。アンジェリークは彼に注意を払いながら、優しい気持ちで看病していられた。

 やっぱり、私はアリオスさんが好き…。
 看病をするだけで、こんなにも幸せに感じられるんだもの…。
 誰よりも愛しています…。

 アンジェリークは途中アリオスの額に貼っておいた熱を冷ますことが出来るシートの様子を見ながら、アリオスの熱が下がりつつあることを確認した。
 ずっと様子をみても、全く飽きることはない。不謹慎だが、アリオスの看病が出来るのは、本当に嬉しかったのだ。
 薬が効いたのか、アリオスは夕方過ぎまでぐっすりと眠っていた。起きても直ぐに食事が出来るようにと、看病の合間を見て、夕食の下ごしらえなどもしておく。
 下ごしらえが終わり、アリオスの様子を見に行くと、すっかりと顔色を取り戻していた。
 アリオスの瞼が動いたのは、7時過ぎのこと。
「アンジェリーク…」
「目が覚めましたか? 直ぐに夕食を作りますから、ゆっくりとしておいて下さいね」
 アンジェリークの天使の笑みにアリオスも安堵の笑みを浮かべてくれた。
「サンキュ。善い具合に腹も空いて来たみてえだからな。悪いが少し喉が渇いた…」
「汗もかかれたみたいなのでご飯が終わったらお着替えも用意しますね。水分はビタミンCがたっぷり入ったスポーツドリンクを用意しますから」
「何から何までサンキュな」
「いいえ」
 アンジェリークは冷蔵庫に予め冷やしておいたスポーツドリンクをアリオスに渡してやる。
「どうぞ。直ぐに消化が良くて温かい物を準備します」
 アリオスは軽く頭を下げながら、アンジェリークからスポーツドリンクを受け取った。

 直ぐにアリオスの為に夕食を作る。勿論自分の分も一緒に作ってしまう。
 二人分の常夜うどんが暫くして出来上がった。
「どうぞ、私もご一緒させてください。はふはふと食べて汗を流して下さいね」
「ああ」
 アンジェリークはアリオスのベッドサイドに鍋を置き、アリオスには出来立てのあつあつを食べてもらう。自分のものは狭いチェストの上に置いた。
「じゃあ食わせてもらうぜ」
「召し上がってくださいね、一杯お腹が満足するまで」
「有り難う…。おまえの手料理を食うのは久し振りだな…」
 感慨深げに呟くアリオスに、少し前までの暮らしを思い出さずにはいられないアンジェリークであった。
 たっぷり食べた後は、幸せが残る。
 アリオスも食欲が出てきたようで、全部平らげてくれたのが嬉しかった。
「良かった…。食べたらパジャマを替えてくださいね」
「ああ」
 アリオスが着替えている間に、アンジェリークは片付けをする。
 こんなことが日常茶飯時で起こればと願わずにはいられなかった。
コメント

星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。
短い間よろしくです〜

あしながおじさんちっくな夢物語になっていきます。
アンジェリークが幸せになるのをおたのしみになさって下さい。
あと一回。
 短いつもりが随分長くなりました(苦笑)




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