Daddy Long Legs

3


 アリオスさんにそばに置いてもらってることに感謝しないと! こうやって安全な場所を提供してくれているから、何とか暮らしていけるんだもん。
 アリオスのマンションの一室を提供してもらったものの、一人暮しと余り変わらない。アリオスと時間の面で接点になることがなかったから。

 もっと食卓を一緒に囲むとか、あると思ってたのにな…。

 お風呂から上がっても、アリオスが帰ってきた形跡は全くない。
 パジャマのままで湯上がりのフルーツ牛乳でも飲もうと、キッチンに入った。
 するとすでに先客がおりアンジェリークは驚く。
「帰っていらっしゃったんですか!?」
 見ると、アリオスは冷蔵庫からビールを取り出してい所だ。
「ああ。訴状の作成に手間取ってな。まあ、暫くすれば忙しさは納まる。おまえさんは普段の生活をしていればいいんだ。俺のことは気にするな」
 クールに感情なく言うと、アリオスはビール片手に部屋に引っ込んでしまった。

 気を遣わせないようにして下さっているのは解っているけれど、少し寂しいな…。

 寂しい気分に成りながら、アンジェリークは床についた。

 翌日、銀行に行き、なけなしの貯えを、学校の授業料に引き出そうとして驚いた。
 授業料と全く同じ額が振り込まれているではないか。
「…うそ!?」
 取りあえずは記帳だけをして、アンジェリークは相談に行くことにする。相談相手で思い付くのは、アリオスとオスカーだけだ。
 先ずはアリオスの事務所に行ったが、民事訴訟の口頭弁論に近くの地裁まで行っている為、帰って来るのは四時を過ぎるとのことだった。
「お伝えすることがあれば、お伝えしますわよ」
 所長秘書であるロザリアが申し出てくれたものの、どうせ家で逢うからと、アンジェリークは結局は断ってしまった。
 仕方ないのでアルバイト先であるレストランのオーナーであるオスカーに相談してみる。
「今時、そんな良い話があるんだな」
 しみじみとオスカーは言い、良い話だとしきりに頷く。
「私にはもったいないお話だと思っていますが、間違いってこともあるかもしれないし…」
「それは恐らくないと思うけれどな、お嬢ちゃん」
「どうしてですか?」
 そこまでどうして確信が持てるのか、アンジェリークは不思議そうにオスカーを見る。
「授業料がそのものズバリの金額で払い込まれていたんだろ? だったら、お嬢ちゃん宛に間違いない。普通、間違った振込だったら、 こんなにタイミングが良く、しかも金額までぴったりな偶然は殆ど有り得ないだろうからな。これは遠慮なく貰っていればいいと思うぜ」
 オスカーが言うのは全く理に叶ってはいるが、俄かにそれは信じがたい。違っていたらと思う不安が先行する。
「…確信はないですから、使うわけにはいかないようなきがするんです…」
「まあ、お嬢ちゃんが不安なのは解るがな。アリオスに調べてもらってもいいんじゃないか? それが確だと思うぜ」
「そうですね。それが一番近道のような気がします」アンジェリークはしっかりと頷いて、納得する。
「ほら、噂をすればなんとやらだ」
 オスカーの声に振り返ってみると、そこにはきちんとスーツを着たアリオスと、真面目を絵に描いたような金髪の青年がいた。
 一瞬、アリオスと目が合う。
「”いらっしゃいませ”は?」
 クールに言われて、アンジェリークは一瞬目を丸くする。
「い、いらっしゃいませ」
 慌てて言った言葉に、アリオスは意味深な微笑みを浮かべると共に、僅かに眉を上げた。
「仕事しろ」
 ぷにっと抓られた頬は妙に痛かった。
「羽二重餅」
 アリオスはただそれだけを言うとスタスタと行ってしまう。その姿をアンジェリークは見送るしか出来なかった。
 それからというものの、一生懸命働きつつ、アンジェリークはたびたびアリオスを見やる。
 書類を片手になにやら真剣に打ち合わせをしているようだ。
 アンジェリークの働いているレストランでは、このような仕事の打ち合わせはごくごく自然に見かけられることだ。
 やはり超高級レストランと言うこともあり、各界の名士が利用していることが多いせいか、接客でも勉強になることが多いのだ。

 ここでアルバイト出来て良かったな…。

 社会人としてのマナーなどを身につけることが出来るので丁度良い。
 アリオスの真剣な姿は本当に素敵で、良い目の保養にもなった。
 一生懸命今日も働き、今日もアリオスはアンジェリークが上がる前に帰っていく。
「お嬢ちゃん、上がっていいぞ」
「はい、オスカーさん!」
 今日もしっかりと働いたのでご機嫌に服に着替える。
 アリオスが家に先に帰っていれば、今日の入金についてを訊くことが出来るだろう。
 裏口から出ると、以前のようにアリオスが待ってくれていた。
「乗れ。家に帰るぞ」
「はい」
 こうして待っていてくれるのが少し嬉しい。
 いそいそとアリオスの車に乗り込むと、直ぐに発車する。
「おい、俺に訊きたいことがあるんだってな」
「はい。あの、今日、授業料を払い込むために口座からお金を引き出そうとしたら、授業料と全く同じ額が振り込まれていたんです。その上、名前が”アルフォンシア”って、私が子供の頃から大事にしているぬいぐるみと同じ名前で…。間違って振り込まれたかもしれないし、どうしようかと思って、少し困惑してるんです」
 アリオスはほとんど顔色を変えずに、前を見て運転を続ける。
 法の下緻密に計算をするアリオスからは信じられないような意外な答えが帰ってきた。
「遠慮なく貰っておけばいい」
「え!?」
 ほんとうにこれには驚き、アンジェリークはアリオスの顔を見る。
 同時に車がマンションの駐車場に止まった。
「着いたぜ」
「あ、はい」
 促されるままにアンジェリークは車を降り、素早くロックを掛けたアリオスの後を着いていく。
「”アルフォンシア”という名前で振り込んだことといい、おまえの学費をきちんと間違わずに払い込んだことといい、ちゃんとおまえと判って振り込んだ証拠だ。使ってもかまわねえよ」
「…でも、私、こんな事をして頂く覚えはないですし、どうしたら…。
先生も心当たりがあれば仰って頂けませんか?」
「ああ。余り手がかりがねえから、ちゃんとは応えられねえけどな」
「どんなことでもいいですから、お願いします!」
「ああ」
 アンジェリークが深々と頭を下げるものの、アリオスの態度はどこかクールで醒めていた------
コメント

星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。
短い間よろしくです〜

発車するを発射すると変換してしまいました(笑)
エンペラーじゃねえんだから(笑)




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