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その日アンジェリーク宛てに一通の手紙が届いた。 差出人の名前には”アルフォンシア”と書かれており、アンジェリークは直ぐに飛びついた。 どうして、私がアリオスさんの所にいるのを知っているんだろう… そんなことを疑念に思いながら、アンジェリークは少し興奮気味に手紙を開いた。 やっぱり…!!! アンジェリーク・コレット様 突然、銀行口座にお金が振り込まれていて、驚かれたことだと思います。 あなたがちゃんと学校を卒業されるまで見守っていくつもりです。 メールアドレスだけはお教え出来ますが、それ以外の事は何もお教えすることが、今は出来ません。 ただこれだけは言えます。 どこにいてもあなたを見守っています。 emperor1122@hop.mail.com アンジェリークはメールアドレスを見る成り、携帯でお礼のメールを打ち始める。 余りにも嬉しくて、興奮してしまう。 メールを打つ手が震えてしまうほどだ。 アルフォンシア様。 いいえ、足長おじさまと呼ばせて下さい。 今回のあなたのご慈悲をどう表現すればよろしいでしょうか。 本当に嬉しくて、幸せで、それ以上の良い言葉が見つからないぐらいです。 感謝するという言葉では余りにも足りません。 きっといつか、あなたのご恩に報いることが出来るように頑張ります。 甘えさせて下さい。 本当にあなた様にはどう感謝して良いのか、到底判りません。 有り難うございました。 アンジェリーク・コレット アンジェリークは温かな気分でメールを送ると、さっそくこのことをアリオスに伝えることにした。 アンジェリークの話を聞いている間、アリオスはいつものようにクールで淡々としている。 「アリオスさん…、このメールアドレスを手がかりに、私のあしながおじさんがどなたかを、しらべて頂くことは出来ますでしょうか?」 アリオスは感情を湛えない眼差しをアンジェリークに向けると、冷静に言った。 「ご期待にそえねえかもしれねえが、努力はしよう」 「有り難うございます!」 アンジェリークは何度も頭を下げてアリオスに礼を言ったが、肝心のアリオスはいつもの素っ気ない態度のままだった。 あれから数日。 アンジェリークは熱心にメールを毎日のように、”あしながおじさん”に送り続けている。 私が”足長おじさん”のことで知っていることと言えば、メールアドレスぐらいで、名前すらも解らない。 ただ一方的にメールを書いているだけ…。 アンジェリークは今日の出来事を打ち終えて、メールを送信した。 毎日の恒例になりつつあるメールは、アンジェリークにとって日記のような役割をしていた。 返事は来ないが、今はそれでも良かった。 寝ようとしたところで、玄関先の音を感じた。アリオスだ。 アンジェリークはすぐに”おかえりなさい”が言いたくて、玄関に駆け出していった。 「アリオスさん、おかえりなさい」 「ああ。早く寝ろよ。明日はバイトと学校だろう」 相変わらず、アリオスの表情は堅いままだ。アンジェリークは少し凹んだ気持ちになりながら、小さく頷いた。 「…はい。おやすみなさい」 こんなパジャマ姿で髪をぐちゃぐちゃにしてこられたら、きっとげんなりするよね…。 アンジェリークは少ししゅんとすると、自分の部屋に戻っていく。アリオスの横を通った時に、ふんわりとした甘い香りがし、心が激しく乱れた。 …女の人と逢っていたんだ…。 私には関係ないと言えば、それまでかもしれないけれど、やっぱりそれだと切なくてしょうがない…。 アンジェリークは布団の中に潜り込んだ後も、切なくて中々眠ることが出来ない。 どうしてこんなに切ないんだろう。 私はただアリオスさんに保護されているだけで、感謝以外の感情は持つべきではないのに…。 足長おじさん…。 私は早く誰の迷惑もかからないようになりたいです…。 そうしたら、少しは、アリオスさんに近づけるかもしれないのに…。 悶々と考えているうちに、いつしかアンジェリークは眠りに落ちていた。 朝起きていつも思うことがある。どうしてアリオスは朝食すら一緒に取ろうとはしないのだろうか。 私のことが面倒だってことは、解り切っているのにね…。 マイナスの思考で考えるには切な過ぎるが、結局はそのような気がする。 …ご迷惑だったら…、ここから出ていくべきなのにね…。私は…。 アンジェリークはしみじみと考えながら、朝食と弁当を作った。 かたかたと音がして、アリオスが起きてきたのが解る。 「アリオスさん、おはようございます」 「ああ、おはよう」 「スープがあるんですが…、飲んで行きませんか?」 勇気を出して切り出したものの、一瞬、アンジェリークは返事を聴くのが恐いと感じた。 沈黙が長すぎる時間に感じた後、アリオスは僅かに頷く。 「貰うぜ。ちょうど腹も減っていたところだしな」 「はいっ!」 初めてアリオスに自分を受け入れてもらったような気がして、アンジェリークは本当に嬉しかった。 直ぐに皿にスープをつぎ、それだけではお腹がすくだろうと、パンなどを用意する。 「なんか久し振りだな、こうやって落ち着いて朝飯を食うのは」 アリオスが笑ったので、アンジェリークは正直言って驚く。 こんなにちゃんとした笑顔を見たのは、初めて…。良い笑顔をするんだ…。 「ボケッとしねえで、おまえもチャッチャと食えよ。遅刻しちまうからな」 「はい」 アンジェリークは時計を見て、慌てて食べ始める。その姿を見て、アリオスが僅かに笑ったことを、アンジェリークは気付かなかった。 朝に良いことがあったせいか、今日は気分よく授業を受けることが出来た。 その後のアルバイトま当然のことながら気合いが入るというものだ。 「なんだお嬢ちゃん、今日はご機嫌のようだな? 何か良いことがあったか?」 「…何でもないです…。オスカーさん」 明らかに華やぎのある表情のアンジェリークに、オスカーはほほえましそうな表情を浮かべる。アンジェリークの幸せな表情を見ると、オスカーは何よりも安堵を浮かべるのだった。 接客をしていると、アリオスが今夜もやってきてくる。 その姿を見て幸せな想いをしたのもつかの間、一緒に美しい女性を見つけるなり、何だかもやもやとした気分になった。 ただ注文を取りに行った時、ふたりがビジネスライクな態度だったので、いくらか安堵した。 暫く忙しい時間を過ごしているあいだ、いつの間にかアリオスは帰ってしまったようだ。それが少し残念な気分だった。たとえ少しでも、アリオスと同じ空気を吸いたいと、アンジェリークは思っていたからだ。 上がる時間になったので支度をして従業員勝手口を出ようとすると、いつの間にか帰ったはずのアリオスがそこで待っていてくれた。 「夕飯食いに行くぞ」 「あ、先生は食べられたんじゃ…」 「あんなお上品なもんは食ったうちには入らねえよ。 アリオスに強引に腕を引っ張られて、アンジェリークは車に乗り込む。それがとても心地よく感じるのは何故だろうか。 「美味いラーメン屋があるから、そこに行こうぜ」 「はい」 アリオスから誘ってもらえるのはかなり嬉しい。 自然と笑みが浮かべてしまう。 車で暫く走ると、こぢんまりとしたラーメン屋に到着し、そこで降りた。 「ここのみそとんこつはマジで美味いからさ」 「楽しみ!」 席に座り、みそとんこつと餃子を注文し、アンジェリークは楽しみに待ち続ける。 「アリオス先生は、よくここにお越しになられるんですか?」 「俺はこういう肩肘のはらねえもんのほうが好きだぜ。オスカーには悪いけれどな」 「そうですね」 アンジェリークは柔らかく微笑みながら、頷いた。 待望のーメンが運ばれてきて、アンジェリークは思わず歓声を上げる。 「腹減ってたんだもんな。よく働くよ、おまえさんは。あれじゃあ腹減って仕方がねえな」 「あんなに良い時給を頂いているんですから、当然です」 アンジェリークは当たり前とばかりに言い、それを聴いてアリオスは僅かに笑う。 「一生懸命なおまえさんらしいよ」 「一生懸命頑張るしか、とりえはないですから」 「良い取り柄だぜ、それ…」 アリオスにこんなに素直に接して貰ったのは、初めてではないだろうか。アンジェリークは嬉しくてしょうがなかった。 「ほら食えよ、のびちまうぜ、ラーメン」 「はいっ!」 はふはふ言いながら食べ始めると、ラーメンは驚くほど美味しかった。アリオスがオススメのことはあるとアンジェリークは思う。 「本当に凄く美味しいです〜!」 「気に入ってくれて嬉しいぜ。餃子もちゃんと食えよ」 「はいっ!」 餃子も皮がモチモチしているうえに、中身も相当美味しい。 「やっぱり飯は見た目よりも味だぜ。人間も同じだ。結局は中身が旨いやつが俺は好きだぜ」 アリオスの言葉が、餃子の肉汁と一緒に、旨く染み通る。アンジェリークはそれを噛み締めながら、感激していた。 「…ホントにそう思います…」 「だろ?」 アリオスとふたり、ラーメンを味わいながらの会話は、幸福を運んでくれるような、そんな気がする。 心も躰も総てが満たされたラーメンになった。 「ご馳走様でした!」 「ああ」 ふたりは仲良く車に乗り込み家に向かう。この時だけは、アリオスと同じ屋根で暮らしていることを、本当に幸福に感じていた。 家に戻った後も、まだまだふわふわと幸せな気分に浸っていた。 だがそんな幸福も、踏みにじられる瞬間がやってくる。 「アンジェリーク…待ってたぜ? 弁護士さんもな…」 ぎらぎらとした淀んだ眼差しが家の前にあり、アンジェリークは躰を震わせて、アリオスを見た。 「大丈夫だ、心配するな…。こっちには法という武器がある…」 アリオスは頼りになるだろう眼差しを、一瞬アンジェリークに向けた後、男に冷たい視線を送る。 仕種でアリオスは、アンジェリークに背中に隠れるように指示する。 戸惑いと心配の中、アンジェリークはアリオスの後ろに隠れた。 …アリオスさん…! 怪我も何もありませんように。 アリオスの背中は広い。総てをかけて守ってくれるような気がした。 「何をしにきたかしらねえが、変なことをすればおまえは間違いなくブタ箱だ。あの女は、おまえを保釈する為に鐚一文支払いやしねえさ」 「何だと!?」 冷静沈着なアリオスに対して、男は興奮するあまりにナイフを取り出す。 アンジェリークは背中の隙間で様子を伺いながら、震え上がった。 神様…!アリオス先生を助けてください…! 「…ナイフか…。そんなものを向ければ、どうなるか解ってるんだろうな!?」 それは一瞬のことであった。アンジェリークの視力では追うことは出来ない。 アリオスは長い足で簡単にナイフを払ったのだ。 アンジェリークがそう気付いたのは、ナイフが地面に落ちた金属音を聴いたからだった。 守ってくれたアリオスの背中が、広く大きく感じた瞬間だった。 男はただ茫然とアリオスを見ているだけだ。 「解ったなら、とっとと行きやがれ」 男は負け惜しみに軽く舌打ちをすると、走って逃げていく。 男がいなくなったのを確認してから、アリオスはアンジェリークに声をかけた。 「アンジェリーク、大丈夫か?」 温かな声で言われた瞬間、アンジェリークの心から恐怖が流れだし、無意識にアリオスにすがって泣いた。 埋めた旨は逞しくて、とても温かかった…。 |
| コメント 星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。 短い間よろしくです〜 あしながおじさんちっくな夢物語になっていきます。 アンジェリークが幸せになるのをおたのしみになさって下さい。 |