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暫く落ち着くまで、アリオスが抱きしめてくれていた。 アリオスの胸は広くて温かくて、アンジェリークは心からの安堵を覚えずにはいられなかった。 「部屋に入って温かい物でも飲もう」 「…はい…」 手を引く為に握り締めてくれたアリオスの手は温かく、力強かった。 もう少し…、手をぎゅっと握って欲しい、アリオスさん…。 アンジェリークはそのままダイニングに連れていかれ、椅子に座らされる。 「ちょっと座ってゆっくりしとけよ」 「…はい」 本当は離れたくなかったが、アリオスが行ってしまったので、アンジェリークは少し寂しい思いをした。 しばらくして、アリオスがマグカップを片手に持って来てくれる。 「これだとおまえも飲めるだろう。飲んだら落ち着くから」 「…はい」 アリオスが入れてきてくれたのはミルクだった。 「あったかい…」 人肌ぐらいに温かくて、心を癒してくれる。 飲むとほんのりブランデーの味がしたが、アンジェリークにはそれが美味しいと感じた。 「飲んだら直ぐにシャワーでも浴びて寝てしまえ。これで朝までぐっすりだぜ? 良い夢が見られる」 「はい」 アリオスに言われれば、そう思うから不思議だ。 ミルクを飲んでいる間、アリオスも側にいてくれた。アンジェリークはそれが嬉しくてしょうがなかった。 いつもはふひとりでごはんを食べる無機質な空間が、アリオスがいるだけで優しい温かな空間になる。アンジェリークにはそれがとても心地良かった。 ミルクが美味しくて、つい飲んでしまい、気付いたときには一口しか残されていなかった。 「あ…」 最後の一口が凄く勿体なくて、アンジェリークは何度もコップの中を覗き込む。だが答えは同じで。 「クッ、何を見ているんだよ。何度見てもミルクは増えないぜ。おかわりいるかよ」 「下さい!」 思わず言ってしまった。これにはアリオスも笑っているようだ。 「なかのを飲み切ったら、お代わりを入れてやるよ」 「はいっ!」 もう飲んでしまったらとは思わない。切ない気分もいつしかどこかに行ってしまった。 「飲んだな。お代わり作ってきてやるから、おまえは座って待っていろ」 「…すみません…」 アリオスにいたれりつくせりでやってもらい、アンジェリークは少し申し訳がない気持ちと、少しお姫様やアリオスの恋人気分が味わえて嬉しい。 「ほら」 今度はアリオスも自分用の飲み物を持ってきてくれる。琥珀色の液体は、直ぐにアルコールであることが解った。 「俺もナイトキャップ貰おう」 一緒にこのダイニングで飲み物をのむというのは、凄く楽しい。 「落ち着くな…。こうやって相手がいて飲むというのはな」 「美味しさも倍になります!」 本当にそうだった。アンジェリークにとっては、アリオスと飲み物を飲むというのは、何よりものエッセンスになる。 「明日も学校と仕事だろう? 早く寝て、しっかりと頑張るんだぜ」 「はい。きっと明日は頑張れます。良い夢も見られると思います」 「俺もそう思うぜ。俺だってそうだからな…」 アリオスは甘く微笑んだ後、琥珀色の液体に視線を落とす。 「おまえさんは心配しなくても大丈夫だからな。ちゃんと全部を上手く納めてやるから」 「有り難うございます」 アンジェリークはしっかりとアリオスに礼を述べると、純粋な色をした液体に視線を落とした。 「不思議ですね…。あんなにさっきは恐い思いをしていたのに、今はこんなに落ち着いています」 「アンジェリーク」 「アリオスさんのお陰です。さっきは守っていただいて、そして…今はこんなに落ち着かせて頂いて…」 アンジェリークは話しているうちに、段々うつらうつらしてくる。 「とっても気持ち良いなんていうのはーきっとこのことですよね…、有り難う…、アリオスさん…」 アンジェリークはすっかり良い気分になってしまい、うつしかテーブルに突っ伏して眠ってしまっていた。 「しょうがねえ女だな…」 アリオスは苦笑すると、そっとアンジェリークを抱き上げる。 そのまま彼女の部屋に入り、ベッドに寝かし付けた。 「…足長おじさんに…メールしなくちゃ…」 寝ぼけながらも、アンジェリークはやりたいことを口走っている。だが目覚める気配は全くと言っていいほどない。 「おやすみ…、良い夢を…」 アリオスはアンジェリークに上掛けをかけてやると、その円やかな頬に甘いキスを一つ送る。 部屋から出る前に振り返り、もう一度アンジェリークの寝顔を確かめてみた。 おまえを絶対に護ってやるから…。何があっても…。 アリオスの一瞥には複雑な想いが絡み合っていることを、アンジェリークは気付かずにいた。 翌朝、とても目覚めがよく、いつもよりも早く目が覚めたぐらいだった。 昨日あのまま眠ってしまったんだ…。 アリオスさんがここまで運んで来てくれたのかな…。 そう思うと、何だかくすぐったい気分だ。 直ぐにシャワーを浴びてさっぱりとした後、幸せな気分で朝食とお弁当を作る。 朝食もお弁当もアリオスが食べてくれれば、これほど嬉しいことはないのにと思う。 だが、今朝は鼻歌が出てしまうほど幸せな気分だった。 朝食が出来上がった後、アリオスがダイニングにやってくる。 「アリオスさん、おはようございます! 朝ご飯をご一緒しませんか!」 アンジェリークは元気いっぱいにアリオスに言う。 「ああ。サンキュ。貰おうか」 「はいっ!」 昨日に続いて今日もアリオスが朝食を食べてくれるのが、嬉しくてしょうがない。 言って良かったなあ…。 アンジェリークはうきうきしながらアリオスの前に朝食を用意した。 「サンキュ。朝メシをちゃんと食うと調子が凄く良いからな」 「朝は重要ですからね」 「そうだな」 ふたりはまるで家族のように向かい合って朝食を食べる。ただそれだけだが、アンジェリークは舞い上がるほど幸福だった。 朝食の席の話題と言えば、他愛がないものであったが、それでも嬉しかった。 食事の後、仲良く片付けをした後、ふたりはそれぞれ学校と事務所に向かう。 問題は山積みだが、今はそれなりに幸福だと思うから不思議だ。 勉強にも何に関しても不思議と気合いが入ると言うものである。 やる気を起こさせるというのは、とかく恋は不思議なものであった。 放課後、アンジェリークは担任であるリュミエールに職員室に呼ばれた。 「コレットさん、そろそろ進路についてちゃんと考えなければなりませんね。それはよくお分かりになっているかと思います」 「はい…」 進路のこと。それを言われた瞬間、アンジェリークは表情を曇らせた。 「…先生もご存知のように、私は父を亡くして自立しなければなりません…。今は、ある方が学費を出して下さっていますが、大学までそれに甘えるわけには参りません。だから働きたいんです…。ですが余裕が出れば、夜間の大学には行きたいと思っていますが…」 最初はしっかりとした言葉を発していたアンジェリークであるが、段々力が無くなってくる。 「…就職をするのはとても勿体ないと思いますよ? あなたは大変優秀でいらっしゃいますから、奨学金の出る大学に進まれたらいかがですか?」 リュミエールの提案は凄く嬉しい。だがアンジェリークには頷けなかった。うなずけるほど、将来を楽観視はしていなかったからである。 「…働かなければいけませんから…。奨学金で学費が全面免除になったとしても、収入がない以上は食べてはいけませんから…」 淡々としていたが、アンジェリークの言葉には悲哀が滲み出ていた。 「コレットさん…」 「ひとりで生きていかなければなりませんから」 リュミエールの瞳が哀れみで曇るような気がした。アンジェリークはそれが嫌でしょうがない。誰にもそんな表情を自分に向けて欲しくはなかった。 「コレットさん、あなたにはお父様の後妻、継母の方がいらっしゃるはずでしょう? それにげせわな話ですが、相続権も…」 「…それは弁護士の方にお任せしています。継母が総ての権利を主張して、私の後見人になろうとしていますが、私は…」 アンジェリークが言葉を濁したことで、リュミエールにはある程度のことが読めた。 「…そうですね。あなたの相続に関することは、弁護士の方が解決して下さるでしょうから…」 リュミエールはふと眼差しを伏せる。 「学校のことも弁護士の方に相談することは、出来ないですか? あなたにとって一番良い方法をご存じのような気がしますから…」 アリオスに相談したい。だがそこまで彼に依存することは、アンジェリークには到底出来ないことだった。 これ以上、迷惑をかけたくないから…。 「…今は働いて、少しお金に余裕が出たら、夜学など、勉強する道を考えてみたいのです…」 「ではクラス分けは、一応、今のレベルでよろしいですか? このままあなたが進学をしないのは非常にもったいないですから。アンジェリーク、来週は保護者との三者会談がありますが、どなたか」 「私、ひとりで出席します」 「解りました。これが案内です。次回の懇談でまたいろいろ話し合っていきましょう」 「解りました」 アンジェリークは案内を浮かない顔で受け取った後、職員室を後にする。 「有り難うございました」 「はい、コレットさん」 職員室を出た後、アンジェリークは溜め息つく。 大学なんて夢のまた夢だもの…。 私には…。 自然に心が陰った。 家に帰っても、ダイニングでじっとプリントを見つめる。 今はとにかく自立のことを考えないと…。 今はそれが大事。 勉強なんて、いつでも出来るから。 やる気が肝心だもの…。 「さてと、ご飯作るかな」 アンジェリークは食事の準備にかかり、懇談会のプリントをテーブルの脇に置きっぱなしにしたことをすっかりと忘れてしまった。 その夜、アリオスは遅くなり、いつものようにダイニングでミネラルウォーターを飲む。 「何だ?」 不意にテーブルの上のプリントが舞い上がり、アリオスはそれを想わず手を伸ばす。 これは… アリオスが手手に取ったのは、アンジェリークの懇談会のプリントであった------- |
| コメント 星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。 短い間よろしくです〜 あしながおじさんちっくな夢物語になっていきます。 アンジェリークが幸せになるのをおたのしみになさって下さい。 |