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翌朝、気がつくと携帯にアンジェリーク宛にメールが届いていた。 あしながおじさん…! アンジェリークは起き上がるなり、直ぐにメールを確認する。興奮して、指先が酷く震えた。 アンジェリークへ。 君も来年は三年だな。そろそろ将来について考える所があるだろうとは思う。 進学したいのに経済的な理由で躊躇うのは止めろ。 私が君に大学四年間までは経済面で支えになることを確約する。 君は非常に成績が優秀だと聞いている。 大学は奨学金も使って大いに学べ。学ぶ意欲が大きな君には、プラスになることには違いない。 アルバイトとや奨学金で賄えない部分は、私が助けてやる。 だから君は何も心配せずに、しっかりと学びなさい。 経済的だとか、自分を犠牲してはいけない。 きっと四年間の間で沢山学ぶことが出来るだろうし、第一、君が大学に行く頃には経済的な理由は解決していることだろう。 心配せずに、進学のことを考えて、しっかりと勉強をしなさい。 いつでも君を見守っている。 アルフォンシア。 あしながおじさん…。 メールを読み終わって、感激のあまりにアンジェリークは一粒の涙を零した。 神様…。 色々辛いことはありますが、私はこんなに恵まれています…。 幸福ものです。 アンジェリークは噛みしめるように何度もメールを読み返してから、ようやく返事をすることにする。 何度も読むうちに、色々冷静に考えて返事を考える。 お申し出はとても有り難い…。 けれどもこれはアリオスさんにきちんと相談してから決めたい…。 アンジェリークは意を決して真剣に文面を入力した。 あしながおじさま、有り難うございます。 素晴らしいお申し出に、私は感激せずにはいられません。 本当に有り難うございます。 私の近い将来の身の振り方についてですが、あしながおじさんのご意見を参考にしてじっくりと考え直したいと思います。 色々とまた相談に乗ってくださいますか? あなたは私が頼れる数少ない方なのですから。 周りの方々に支えられて、今、凄く幸福に感じています。 親友のレイチェルや、弁護士のアリオスさん、担任のリュミエール先生に、そしてあしながおじさま。 いっぱいいっぱい考えて結論を出したいと思います。 色々と有り難うございます。アンジェリーク。 アンジェリークは送信をし終えると、ほっと明るい溜め息をひとつ吐いて、大きく伸びをする。 「さてと! 今日も一日頑張ろう!」 アンジェリークは気合いを入れると、早速朝の支度を始めた。 今日もアリオスのぶんの朝食はもちろん用意をする。食べてくれるのかはドキドキだが、それでも準備は楽しかった。 「おはよう、アンジェリーク」 「おはようございます、アリオスさん! 朝ご飯をご一緒しませんか?」 アンジェリークの申し出に、アリオスが快諾をしてくれるのが凄く嬉しい。 「朝の恒例になってきたな、おまえさんと飯を食うのは」 「毎朝の習慣にしましょうよ!」 ついつい嬉しくて、アンジェリークは調子に乗って言ってしまった。 一瞬だけ、沈黙をしたので、アンジェリークは不安になったが、大好きなアリオスの僅かな笑みが顔に浮かぶ。 「おまえさんの好きにすればいいさ。俺は朝メシにありつけて嬉しいぐらいだからな」 アリオスらしい言い方に、アンジェリークの顔には嬉しさがすぐに現れた。 「有り難うございます!」 「礼を言うのは俺のほうだろうが…」 苦笑するアリオスに、確かにそれは一理あると、アンジェリークは顔を真っ赤にしながらも思った。 「…そですね」 ふとアンジェリークは真剣にアリオスを見つめる。先ほどのメールが脳裏に過ぎり、相談しなければと思っていたからだ。 「アリオスさん、今日の放課後に事務所にお邪魔をしてよろしいですか?」 「ああ、かまわねえぜ。今の時間じゃ話しきられない内容なんだな?」 アンジェリークは真摯な表情で、ただ一度だけ深く頷いた。 「オッケ、じゃあ4時ぐらいに時間を空けておくから、事務所で待っていてくれ」 「はい! 有り難うございます!」 アンジェリークは深々と礼をして、アリオスに丁重に振る舞った。 あしながおじさんと同じぐらいに、アリオスにも深い感謝の念を抱かずにはいられない。 「じゃあな、四時に」 「はい」 朝食の後は、いつものようにそれぞれに出勤通学に出向く。 アリオスさんには、あしながおじさんのことを、しっかりと相談したかったもの…。 唯一、あしながおじさんのことを冷静に見てくれる方だから…。 今日もしっかりと授業を受けて、アンジェリークはアリオスの事務所に向かった。アルバイト先にはきちんと遅れる旨を伝えている。しっかりとした真面目な勤務状況の上に、オーナーがアリオスの友人だとくれば、快く理解してもらえた。 アリオスの事務所の入っているビルまで来ると、少し足が重くなる。妙な緊張をしてしまうからだ。 アリオスさんの家にいる時は、凄く気さくに感じるのに、事務所で会うアリオスさんは、何だか別の世界の人みたいでいつも嫌だ…。 大きな溜め息をまたひとつはくと、アンジェリークはエレベーターで事務所に向かった。 「こんにちは」 恐る恐る様子を見るかのように中に入ると、完全無欠の女性秘書であるロザリアが出迎えてくれる。 「まあアンジェリークいらっしゃい。アリオスなら、奥の自分の部屋で待っているから」 「有り難うございます」 アンジェリークがアリオスの部屋の扉を緊張気味にノックすると、直ぐにドアが開く。 「入ってくれ」 「はい」 アリオスの仕事部屋に入ると、書類が山積みになっていた。しかしごちゃごちゃとした雰囲気はない。 「そこのソファに座ってくれ。直ぐに紅茶でも入れる」 「あ、自分で!」 立ち上がろうとして、アリオスに制された。 「おまえさんは座っておいてくれ。今のおまえさんは、客人だからな」 客人------ アンジェリークは心の中でどこか引っ掛かるものがある。それを表情に出ないように、アンジェリークは努めた。 「それで、相談事って何だ?」 紅茶を目の前に置いた後、アリオスはその前を座った。 「実は…、これを見ていただけますか?」 アンジェリークは携帯を操作して、あしながおじさんからのメールを表示させて、アリオスに見せる。 「どれ?」 相変わらず眉一つ動かさないクールな表情で、アリオスはメールを読んでいた。 「遠慮せずに受けたらどうだ? 確かに胡散臭いヤツかもしれねえが、今の所、おまえにはかなり誠実だからな。確かにこいつの言う通り、学ぶチャンスに乗った方が良い」 アリオスの冷静な言葉に、アンジェリークは頷いたものの、遠慮がちに自分の思っていることを話すことにする。 「…確かに有り難い申し出だとは思います。ですが、こんなにいっぱいお世話になっていいものかと思うんです。 ただでさえこんなにお世話になっているというのに、その上、大学の費用を一部負担してくださるなんて…。本当に名前すら解らない方にここまでお世話になっていいのかと…」 アンジェリークが恐縮して言うと、アリオスは急に険しい表情になった。 「おまえさんは遠慮し過ぎ何だ。向こうも奨学金を取ってと書いている以上は、おまえさんは必死に勉強して奨学金を取る必要があるんだよ。だから心配するより勉強しろ。そして相手の期待に応えろよ」 アリオスはいらだたしげに煙草を口に押し込みながら、半ば怒ったように言った。 「それに、おまえさんは知らない人だと強調しているが、結局のところ、たとえそれが俺であったとしても、おまえさんはこんな風に遠慮するんじゃねえのかよ。違うか?」 確かに違わないと、アンジェリークは思った。きっと誰が相手であろうと、同じことを言うかもしれない。 「…そうですね、そうかもしれないですね…」 弱々しく同意をした。 「その有り難い相手は、きっとおまえの反応を解っていて、匿名にしているんじゃねえか。おまえは遠慮ばかりするのを良く知っている人間かもな。そんな相手の好意を断れば、失礼になると思うぜ」 全く的確に相手の心情を言うので、アンジェリークはまじまじとアリオスを見た。 「何だよ?」 「アリオスさんは、まるであしながおじさんの気持ちを知っているみたいですね…」 一瞬、不機嫌な沈黙が走る。 「…弁護士なんて仕事をしていると、人の心理を嫌がおうでも読むことになる。それが高じて、おまえさんのあしながおじさんの気持ちが解ったんだ」 アリオスは何でもないことのようにさらりと言ったが、アンジェリークは凄いことだと思った。。 「…凄いですね。私にはとても」 「馴れだ」 アリオスはあっさりはっきり言う。 「アリオスさんの言う通りに、一生懸命勉強をして、奨学金を取れるように頑張れたら、援助をお願いしようかと思います」 「それがいい」 先程まで、相当厳しかったアリオスの表情が、かなり和らいだような気がした。 「有り難うございました、話を聞いて下さって。お陰でかなりすっきりとしました」 「よかったぜ」 アンジェリークはソファから立ち上がると、ようやく笑顔を見せた。 「有り難うございました」 深々とお辞儀をした後、アンジェリークは曇り一つない気分で、アリオスの部屋を後にする。悩みはもうどこかに行ってしまっていた。 今日はうきうきと楽しい気分で、アルバイトにせいを出すことが出来た。 アリオスのマンションに戻った後の勉強にも、自ずから気合いが入ると言うものである。 しっかり勉強をして、奨学金を貰えるようになろう…。 大学に通えるように、支援して恥ずかしくないと思われるように、しっかりと頑張ろう…。 こんなに真剣に勉強をしようと思ったのは、今回が初めてだ。 みっちりと勉強をし、お風呂に入り、寝る支度をしたが、アリオスが帰ってこない。 時計を見ると、もう12時は回ってしまっている。 それが自分が今ここにひとりだと言うことを、思い知らされたような気がした。 アリオスに逢いたい。 アリオスが恋しい。 どうしようもない思慕が沸き上がっていく。 どこに行ったんだろう、早く帰って着てほしい…。 心細い気持ちを現すかのように雷雨が激しくなる。 余りにも恐ろしくてアンジェリークは、自分の部屋にひとりでいられなくて、いつの間にかアリオスの部屋に行く。 ここでは孤独を感じないような気がしたから。 アリオスさんの匂いがする…。 内緒でベッドに入るなり、アリオスの存在を感じて嬉しかったが、その実は切なさの方が大きかった。 アンジェリークはアリオスに護られたくて、彼の毛布に潜り込んだ。 切なさと苦しさの責めぎあいになりながら、アンジェリークはいつしか眠りに落ちる。 涙が頬に僅かに伝った。 アリオスが帰ってきたのは、アンジェリークが眠って直ぐ後のことだった。 自分の部屋に入るなり、ベッドの上で幼子のように丸くなって眠っている、愛らしい少女を見つける。 その姿を見るなり、心が癒されるような気がした。 涙を溜めながらすやすやと眠る少女を慈しみのある表情で見つめると、アリオスは少女の唇にキスを送った------ |
| コメント 星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。 短い間よろしくです〜 あしながおじさんちっくな夢物語になっていきます。 アンジェリークが幸せになるのをおたのしみになさって下さい。 |