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久し振りに幸せな夢を見た。 温かくて、ふわふわと夢の中を漂っていたい…。 そんな気分にさせてくれる夢だった。 日の光が段々強くなってくる。眩しくて誰だか解らないが、とても素敵な人が手を取ってくれる。そのまま暫く、空に漂いながらダンスを続けた。 今までに体験したことのないダンス。楽しくて仕方ないダンスに、アンジェリークは夢中になった。 だがやがて、輝く人がゆっくりと離れていくのが解る。 「行かないで下さい!」 寂しくて切なくて思わず叫ぶと、その人は優しく微笑んでくれた。 次の瞬間、温かな唇が触れ合う。甘いキスに酔いしれる暇もない中、アンジェリークは急激に夢の世界から引きずり出された。 「…あ、今何時だろう…」 幸せな夢から覚めたせいで、まだ頭も心もぼんやりとしている。 時計に手を延ばそうとして、いつものところにないことに気付き、はっとした。 横には寝顔すらも完璧に整ったアリオスがいる。 全身を恥ずかしさの余りに真っ赤に染め上げながら、アンジェリークはぼんやりとした頭で昨日のことを思い出した。 …私…、あのまま眠ってしまったんだ…!! 事実が明るみになるに連れて、恥ずかしさが増していく。 そんな…。アリオスさんのベッドを取っちゃたんだ…。 事実に愕然としながら、近くの時計を見る為に周りを見回そうとした。すると、しっかりと躰を支えてくれている、アリオスの温かな腕に気付く。 アリオスさん…。ずっとこうして支えてくれていたんだ…。 だからあんなに素敵な夢を見られたのかもしれない…。 改めて、アンジェリークはアリオスの寝顔を見つめた。 それだけで、好きという感情が、胸から溢れ過ぎてどうしようもないことに気付く。 アリオスさん…。 夢の中で素敵なキスをくれたのは、きっとあなたですね? 現実にはきっと叶わないことだとは解っているはずなのに、夢を見ずにはいられません…。 アリオスをただ見るだけで溢れ来る感情は、切ない情念であった。愛し過ぎても報われない…。だが束縛も見返もいらない…。アンジェリークはアリオスを束縛が出来ないほどに愛している自分を改めて気がついた。 瞳に涙がたっぷりと浮かぶ。滲んだ視界で見つけた時計は、8時過ぎを指していた。 一瞬はっとするが、今日が日曜日であったことを思い出してほっとする。 今から支度をすれば、10時から入っているアルバイトには充分間に合う。 躰をしっかりと起こしてしまう前にアンジェリークはしっかりとアリオスの寝顔を記憶と胸に焼き付けた。 アリオスさん…。大好き…。本当に大好きです…。 あなたがいるから世界が今は明るいのです。あなたがいるから、どんなこんなんにも頑張っていけるんです…。 大好き! アンジェリークは心の中で叫ぶと、アリオスの寝顔にそっと顔を近づける。 愛しています…。 呪文のように心の中で呟くと、アリオスの整った唇にキスをした。 唇が離れると同時に、切なさが心から溢れかえる。 アリオスの唇は想像通りに官能的で整っていた。もし彼からキスをされる身分になれば、幸福この上ないだろう。だが現実にはそれは起こりそうにない。アリオスとは住む世界が余りにも違い過ぎるのだ。 アンジェリークは何とか涙を堪えると、ベッドから静かに出た。 アンジェリークが部屋を後にした後、アリオスはゆっくりと瞳を開けた。 指先を唇に宛てると、まだ少女の初々しいキスがそこにあるような気がする。 アンジェリーク…。 先程まで護りたくて堪らない少女が眠っていたひだまりの場所に、アリオスは視線を落とす。 温かな場所を見つめるアリオスの瞳は優しく、そして愛に溢れていた。 アンジェリーク…。 総てのケリが着いたら、きっとおまえに総てを話すことが出来るだろう…。 アリオスはドアの向こうにいる少女を抱きしめたい衝動を何とか抑え、アンジェリークが小刻みに立てる音を気持ち良く聞いていた。 アルバイトに入ってからも、アンジェリークはドキドキしていた。 仕事中に、何度もアリオスの唇の感覚がリフレインする。 その度に顔を赤らめていた。 「なんだお嬢ちゃん、顔が赤いが何かあったか? 気分が悪いとか、そんなことはないだろうな?」 「ないです…。オスカーさん、本当に…」 アンジェリークは究極に恥ずかしくって、何度も俯き、オスカーと顔があわないようにする。 私…。凄くいやらしいのかな…。だってさっきから思い出し笑いでにやついてばかりいるんだもの…。 アンジェリークは特にオスカーに知られないように頑張って振る舞ったつもりだったのだが、結局は変な態度を見破られてしまった。 アリオスさんにオスカーさんが言わなければいいけれどね…。 少しそこのところが気になるアンジェリークであった。 アルバイトもようやく終わり、やれやれと店を出る。今日は日曜日なので、午後5時で仕事は終わりなのだ。 ふと携帯電話をチェックすると、メールが来ている。アリオスだった。 嬉しくてアンジェリークは慌ててメールを見る。 アンジェリークへ。 今夜は寒いから鍋を作った。おまえの分も作っているから、真っ直ぐ帰ってこい。 アリオス。 アンジェリークはメールを何度も読み返して、幸せな気分になった後、アリオスに返事をする。 直ぐに帰ります。 それだけを返して、アンジェリークはアリオスのマンションまで駆け出した。 マンションに戻ると、既に鍋の準備は万端に整っていた。 「直ぐに準備をして食え。温かいちゃんこだからな、美味いぜ」 「はいっ! 有り難うございます!」 アンジェリークは嬉しそうに返事をすると、早速、席につく。 こんなに温かな食事は、いつ以来だろうか。アリオスと肩を並べて食べるのが、何よりも幸福だ。 「最後は定番の雑炊だぜ」 「嬉しいです。有り難うございます!」 アリオスが用意してくれた鍋は本当に美味しくて、心も躰も芯まで温まる。 アンジェリークは本当に感激しながら食事をした。 「ほら、もっと食えよ。おまえの良さはその食いっぷりだぜ。いっぱい食え」 「はい、有り難うございます。本当に美味しいです」 こういったアンジェリークの素直なところが、アリオスには可愛くてしょうがなかった。 たっぷりと食事を取った後、仲良く後片付けをする。 「ご馳走様でした」 「おまえみたいに綺麗に食ってくれたら、作りがいがあるっていうもんだぜ」 「凄く美味しかったですから」 「サンキュ」 片付けが終わり、寛ぎの時間になると、何だか少し緊張するような気がする。 ついつい、アリオスの形の良い唇に目がいってしまう。 「明日は学校だろ? 早く風呂に入って寝ろよ」 「はい。そうします」 「おまえは毎日働いているんだから、たまにはちゃんと休まねえといけねえぜ? 躰が参ってしまうからな」 「はい。しんどくなったら休むようにします。今も無理せず頑張っているぐらいですから」 アンジェリークは軽く頭を下げると、先にお風呂に入ることにした。 シャワーをゆっくり浴びながらも、考えるのはアリオスのことだけ。 ずっとアリオスさんのことを考えてしまう…。 恩返しがいつか出来るように、うんと頑張らないと…。 シャワーを浴びて一服した後、アンジェリークは明日の準備をする。懇談のプリントを取り出し、それをじっと見つめる。 アリオスさんやあしながおじさんが言うように、奨学金で頑張ってみよう。そうすれば、道は開けるかも知れないんだから…。 人に支えられながら生きると言うのは、なんて温かいことなんだろうか。今までそんな経験が余りないアンジェリークには新鮮なことであった。 必ず恩返しをすることを誓い、アンジェリークはベッドに潜り込む。 今夜も良い夢が見られることを望みながら。 翌日、担任のリュミエールに、懇談会の希望日を提出し、とりあえずはほっとする。 あしながおじさんがいるから、アリオスさんがいるから、私は頑張れる決心が出来たんですよ…。 つくづくそう感じながら、敬愛するあしながおじさんにメールを送ることにする アリオスとは股別の感情を持つ、アンジェリークに取っては大切なひとだ。。 進学を頑張ってみるということと、必ず奨学金を取るということ、期待を裏切らないことをアンジェリークはメールに書いた。 今日もアルバイトに精を出す。アンジェリークはこの経験がきっと役立つことを、信じて疑いはしなかった。 アルバイトが終わりマンションに帰った頃、アリオスからメールが届いた。 最後の詰めの作業で今夜は帰れない。きちんと戸締まりをして寝るように。 アンジェリークはそのメールを受け取るなり、切ない気分になった。会えないのがこんなに辛いとは思わなかった。 きちんと何度も確認をした後、しっかりとアンジェリークは戸締まりをした。 今夜だけよね…。 最初はそう思っていたが、そうではなかった。 アリオスはなかなか帰ってこない。 アリオスが帰ってこない日が流石に続くと、切なさの重みが大きくなっていった。 アリオスさん…。 会いたい…。どうしてこんなに会いたいんだろう…。 アンジェリークはアリオスが恋しい余りに、いつしか彼のベッドで眠るようになった。 それが数日続いた頃、あの朝の再現が訪れたのである。 起きるとアリオスが横で眠っていた。 目を覚まし、嬉しさに戸惑っていると、アリオスがゆっくりと目を開ける。 「アンジェリーク、良かったな? おまえはきちんと相続が出来そうだ」 「……!!!」 アンジェリークはただ驚く余りで、アリオスを見上げることしかできなかった------ |
| コメント 星の王女の古賀さんと未来ちゃんのお話をモチーフにしたアリコレです。 短い間よろしくです〜 あしながおじさんちっくな夢物語になっていきます。 アンジェリークが幸せになるのをおたのしみになさって下さい。 |