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午後からの撮影に入ると、今度はカップル写真だ。 色々なポーズを付けながら、アリオスはシャッターを切っていた。 アンジェリークはアリオスのアシストをてきぱきとしている。 前半の撮影よりはよりスムーズにいった。 アリオスのアシストを上手く行っていたのにも関わらず、彼はとても厳しい。 「片付けておけ」 「はい」 撮影終了後、エリザベスとまた談笑に入ってしまい、アンジェリークはひとりこそこそと道具を片付ける。 談笑はすぐに角、エリザベスが最初に抜けた。 「じゃあ、次の仕事がありますから」 「ああ。またな」 良い男ふたりに見送られて、エリザベスは上機嫌でスタジオを去る。 「アンジェ、スタジオの奥の休憩室にオスカーといるから、終わったら声をかけてくれ」 「はい」 アリオスはオスカーと一緒に行ってしまったが、エリザベスが次の仕事のために一緒でないのが、せめてほっとした。 スタジオで片付けていると、奥で数人のスタッフがひそひそと話しているのが耳に入ってくる。 「やはり、エリザベスはアリオスのカメラの前だと違うよなあ」 「そうよねえ。やっぱり、昔恋人同士だったって噂があるものねえ。何でも”ヘアヌード”は、アリオスがセックスをしながら撮ったって噂だもんねえ」 その噂はアンジェリークも知っていた。 だが実際に耳に入ると、付き合う以前の話だからと割り切ってはみられないところがある。 「あれは本当だって聴いたぜ。エリザベスはアリオスに未練があるみたいだしな。今回で復活ってこともな」 アンジェリークはいたたまれなくなって、胸が軋むのを感じながら、ただ人形のように片付ける。 判っているはずなのに、辛い・・・。 アンジェリークは嗚咽をどうにか堪えて、片付けを済ませた。 手早く片付けた後、重い心を抱えながらアリオスのいる控え室に荷物を運んでいく。 ドアの前までくると、声が聞こえた。 「------お嬢ちゃん、凄く綺麗になったな・・・。あれじゃあ今でもモデルとしても最高ランクが付くだろうな」 「あいつをモデルに戻す気なんてさらさらねえよ。アシスタントとしてここに連れてくるのも嫌なのにな」 ・・・!!! 「あいつはモデルに向いていない」 これにはアンジェリークは息を呑む。 先程のショックに加えて、二重の苦痛に息が詰まるほど苦しくなる。 立っていられないほどの痛みに、アンジェリークは涙をハラハラとこぼしむせび泣いた。 やっぱり、アリオスは私のことはいらないんだ・・・。 オスカーさんはああ言ってるけど、私、モデルに向いてないのは、判っているよ・・・。 だから、早めに辞めて、アリオスのアシスタントになったのに・・・。 でも足手纏いばかりで…、迷惑ばっかりかけてるもの…。 アンジェリークは涙を拭った後姿勢を正すと、わざと笑ってノックする。 モデル時代に培った笑顔のノウハウを使い、悟られないように努める。 だが、このノウハウはアリオスから教わったものだったので、ばれるかもしれないと少し不安だった。 「アリオスさん、準備ができました!」 「ああ」 アリオスは椅子から立ち上がると、アンジェリークに向かって歩いていく。 「じゃあな、オスカー」 「ああ。お嬢ちゃんもまた逢おう」 「はい! 有り難うございましたっ!」 アンジェリークはしっかりと挨拶をすると、荷物を持ってひょこひょこと移動する。 アリオスも荷物を持ってくれるので、移動は苦痛ではなかったが、その分心が重かった。 駐車場に止めてある車のトランクに荷物を乗せて、アンジェリークは後部座席に乗り込む。 仕事とプライベートを分けるためだ。 車のシートに身を預けると、アンジェリークは正直言ってほっとした。 「どうした? 気分が悪いか?」 「大丈夫です」 アンジェリークはそれだけを言うと、深く瞳を閉じる。 「前に来い…。おまえホントに気分が悪るそうだぞ!?」 「…大丈夫です。少し眠れば、いけます」 アンジェリークが頑なに前に来ないものだから、アリオスはしょうがないとばかりに車を出した。 マンションまでの道のり、アンジェリークは一言も話すことはなく、ずっと目を閉じたままだ。 その間、アリオスは時折アンジェリークの様子を見ていた。 「ついたぞ」 「うん」 アンジェリークは躰を起こして車から出ると、荷物を持とうとトランクに向かう。 「良いから。俺が持つ」 「大丈夫よ」 「無理すんな」 アリオスはぶっきらぼうにそう答えると、荷物を全部持ってくれた。 幸いにも、エレベーターですぐ運ぶことが出来るから、そんなにも長い時間持っているわけではない。 アンジェリークはアリオスに任せることにした。 マンションの一室に戻ると、アリオスは優しく椅子に座らせてくれる。 いつもはこんなことはないので、アンジェリークは正直言って驚いた。 「あんまり無理すんな。今日はゆっくりしろ」 「うん」 アンジェリークがいつも冷たく冷やして飲んでいるジャスミン茶を淹れてくれ、ゆっくりとくつろがせてくれる。 「疲れてたり、気分が悪かったら正直に言えよ? おまえはいつも無理ばっかりしやがる」 アリオスはアンジェリークの目の前に腰を下ろすと、顔を覗き込むように様子を見てきた。 「大丈夫だから。ちょっと休んだら直るから」 アンジェリークが俯くと、アリオスは顔を上に向かせた。 少し潤んだアンジェリークの瞳に、アリオスは眉根を寄せる。 「何か言われたのか!?」 「ううん。何も…」 アリオスはやはりアンジェリークの古都をモデル時代から良く判っているせいか、微妙な変化にもかなり敏感だ。 「…アンジェ、苦しかったり、何かあったら俺に頼れ」 「-----アリオス…」 ぎゅっと抱きしめられて、アンジェリークは甘く喘ぐ。 アリオスの香りも温もりも、それは魅力的でこころの奥底をゆっくりと癒してくれる。 アリオス…。 あなたを凄く愛してる…。 けれど、あなたの中で私の存在が重くなる前に、私は消えてしまいたいの…。 あなたを苦しめるぐらいなら、私は消えてなくなりたい…。 アンジェリークはアリオスの精悍な胸に顔を埋めると、切なくなく。 温もりを感じるのはこれが最後だと心に刻みながら------- |
| コメント 以前描いたアリオスカメラマン、アンジェアシスタントのお話です。 急に書きたくなりました。 次で完結です。 誤解から、ふたりは幸せになれるでしょうか〜。 もちろん続く(笑) |